19 はい、最下位ですよ
その日、家に戻るとアナベルが
「お姉さま、最下位でしたね」と出迎えた。
「そうですね」と受けてあらためて
「アナベルはなにに出たのですか?」と聞いた。答えはわかっているけどね。
的あてだよね。なにも出来ない生徒が出る競技だ。手でボールを投げるだけ。
点数も出ない。手持ちの玉がなくなったら終わり。
「明日はロバート様が出場しますから」
「そうね、去年優勝したから、予選免除でしたね」
「そうです。わたしのために優勝したんですよ」
わたしはそこで話を切り上げて無言で部屋に戻った。
今日のことは秘密だ。アナベラは最下位と言い立てるだろう。第十位だよ。マイナスだけど。何人が魔法競技に出たと思っているの?
夕食の席では、明日の剣術大会が話題になった。
「ねぇ、ロバート様はわたしのためにずっと頑張って来たのですよ。それにね、わたしと会うと怪我が治るんですって」
「気のせいでは?」
「そんなことないです。前の日に怪我しても、朝わたしに会うと痛みが消えるんです。治療師より効くんですよ」
「そうですか?もしかしたら、アナベルは癒しの力を持っているってこと?まさかぁーーー」
わたしがそう言うとお母様が
「どうして、そんな意地悪を言うの?怪我を治してあげたい優しい気持ちが怪我を治すんですよ」と言った。
「そうなんですか?それなら、ロバート様は怪我しても困りませんね。もしかしたら、最近の小説に出てくる聖女だったりして」
最近、その聖女が出てくる小説が大当たりして小説のなかで聖女が食べるクレープが人気になって、専門店と屋台が増えているのだ。
わたしも放課後、パトラとナタリーと一緒に食べた。美味しかった。
「聖女なんて、そんなことないですわ」
あたりまえじゃない。治療してるのはわたしだし。
「いやぁ、アナベル。案外そうかも知れないよ」と意外にもお父様がそう言った。
たしかに聖女だったらすごいだろう。だが、小説のなかの存在だ。
「お父様、もしそうでも、わたしはずっとこの家の娘ですわ」
「アナベル。ありがとう」
なに父娘で馬鹿じゃない。
「リリー、あなたは魔法で競技にでたんですって」とお母様がわたしに話しかけた。でも、わたしが答える前にアナベルが
「最下位です」と言った。
「最下位?」とお兄様が食いついた。
「そうなんですよ」とアナベルが得意げに答える。
「まぁ最下位でも出場しようとするっていうのは、考えなしのリリーらしいね」とお兄様が笑った。
「確かに」
「本当ね」と両親も笑った。
ほんとに、わたしはなにを言ってもいいと思っているのね。
明日の夕食時間が楽しみだわ。どんな顔したらいいかな?
わたしは、いつになく上機嫌で席を立った。
翌日、朝、いつものようにアナベルをロバート様は待っていた。わたしは挨拶しながら、いつもより治療魔法を念入りにかけた。
誤字、脱字を教えていただきありがとうございます。
とても助かっております。