あるところに嫌われ者のお姫様がいた。
あるところに嫌われ者のお姫様がいた。
三人の兄王子は国王と王妃の子であったが、そのお姫様は国王とメイドの間にできた子であった。
メイドはお姫様を生むのと引き換えに亡くなった。
国王は、お姫様を認知してお姫様としての待遇を受けさせることにしたものの愛情はなかった。
国王はお姫様を離宮に押し込めた。
王妃はお姫様と関わらないようにしていた。
自分が嫌な継母になってしまうのをわかりきっていたため、あえて関わらなかった。
それは王妃なりの優しさでもあった。
三人の兄王子達は、離宮に押し込められた妹になんの感情も興味もなかった。
その日までは。
「なに!?敵国が王都にまで攻めてきた!?」
「いよいよここまでか…」
国は、欲深い隣国の王の手に落ちようとしていた。
けれど。
「…なに?急に隣国の王が心臓発作で亡くなった?」
「敵国の兵達も混乱して、一度隣国に撤退した?」
「どういうことだ?」
国王も王妃も、三人の兄王子達も頭にクエスチョンマークを浮かべる。
しかし臣下からの報告はそれだけではない
「怪我をしていた我が国の兵士たちの傷が癒えた?」
「臣民達の病気や欠損まで癒えた?」
「敵兵に壊された建物も直った?」
奇跡のようなことが、国中に起こっていた。
なにがなんだかわからないが、きっと神が守ってくださったのだと歓喜する五人。
しかしその後、更なる報告が上がった。
五人は、後悔と絶望に突き落とされる。
「…姫の精神が壊れた?」
「姫は自らの命を賭して、国を救う大魔術を決行した?」
「姫のおかげで、私たちは救われた?」
「姫は、精神年齢が子供レベルに退行している?」
「…私たちのために、姫は自らを犠牲にした?」
国は救われた、兵も救われた、臣民達も救われた。
姫一人が犠牲になって。
今まで愛してやることもなく、離宮に押し込めた姫が。
「…余はなんてことをしてしまったのだ」
国王は初めて後悔する。
「私だけでも愛してあげられていれば!」
王妃は絶叫する。
「私は、妹姫の存在すら忘れていたというのに」
長兄は呆然とする。
「…っ!」
次兄はどこかへ走り去る。
「…僕、僕」
末兄は、感情をうまく言葉にできなかった。
「アリス!」
次兄は離宮に駆け込んだ。
そこには十八歳になる美しい姫君がいた。
けれど、向けてくる笑顔はあまりにも幼い。
「オベール兄様!」
まるで幼い子供が甘えるように、無邪気にこちらに手を伸ばす嫌われ者のお姫様。
アリス姫は、離宮に押し込められつつも才女として有名であった。
淑女の中の淑女と噂されるほど洗練された乙女だったという。
それが、幼い子供のようなそぶりを見せる。
あまりのことに、次兄は言葉を失った。
「恨みます、第二王子殿下」
アリス姫の侍女が震える声で言った。
「貴方方が…姫を愛してくれていれば…姫はただ、認められたい一心でこんな…」
泣き崩れる侍女。
メイド達も相当アリス姫を愛しているのか、声を上げて泣く者ばかりだ。
ようやく後悔しても、もう遅かった。
…のだが。
「みんな、どうしたの?なかないで、大丈夫だよ」
どこかたどたどしい言葉で、アリス姫は自分のために泣く使用人達を励まし一人一人を抱きしめた。
その様子に、次兄はとうとう耐えられなくなった。
その場で土下座した。
王族としては、許されない行為だ。
「すまなかった!!!今更でごめん、本当にごめん、でも今度こそお前を愛するから!やり直すチャンスをください」
「うー?」
アリス姫は謝られる意味がわからないようで、首をかしげる。
そして言った。
「オベール兄様、愛してくれるの?」
「ああ…」
「アリス、ちゃんと役に立てた?」
「…もちろんだ!」
「よかったぁ。じゃあ、仲良ししよ!」
どうも、役に立てなければ愛されることはないとでも思っていたらしいアリス姫。
けれど役に立てたからと、オベールに甘え始めた。
「兄様、絵本よんで!」
「…っ、わかった」
アリス姫がねだるのは、子供向けの絵本の読み聞かせ。
美しい姫君には幼すぎる物語。
けれどオベールは、アリス姫が飽きるまで付き合った。
「よ、アリス」
「やあ、私の可愛いアリス」
「オーバン兄様!オベール兄様!」
アリス姫を今度こそ愛すると決めたオベールはもちろんのこと、比較的精神的落ち着きを取り戻すのが早かった長兄も、アリス姫の元へ通うようになった。
オーバンもオベールも、最初は罪悪感から離宮に通い詰めていた。
だが、純粋に兄王子を慕うアリス姫をみて心を動かされ、今では本当に溺愛している。
幸か不幸か、アリス姫には許嫁などはいない。
だから、このまま精神が幼いままでもずっと離宮に匿ってやれる。
隣国との戦争もあちらが急に王を亡くし大混乱に陥ったことで休戦となり、さらになんだかんだで混乱に乗じて向こうの国力も削ったのでしばらくは無事だろう。
アリス姫のおかげで国は回復したので、もう同じことにはならないしさせない。
だからこのまま、アリス姫を守り続けられる。
自らを削ってまで大魔術を決行したアリス姫を、今度こそ守らなくては。
「今日は何をして遊ぼうか」
「おままごと!」
「いいな、おままごと。やろうぜ」
兄王子二人は、アリス姫を溺愛する。
今までの分を埋め合わせするかのように。
それでも、アリス姫は幸せそうに笑う。
兄王子はその笑みに癒されつつも、罪悪感を抱えた。
「アリス」
「オードリック兄様?」
兄王子二人の様子を見て、末兄のオードリックもアリスの元へ足を運んだ。
「オードリック兄様も私と仲良くしてくれるの?」
「う、うん」
罪悪感、後ろめたさ。
それを隠してオードリックは微笑む。
すると、アリス姫は花が咲くような美しい笑みを浮かべた。
「嬉しい!オードリック兄様大好き!」
「うん…」
「さあ、すごろくで遊びましょう?それともトランプ?」
いそいそと準備をして、オードリックに笑いかけるアリス姫。
そんなアリス姫にどこか救われた気持ちになるオードリックは、それでも痛む胸をぎゅっと押さえた。
「…アリス」
「お義母様!」
「…おかあさま、ですか」
「あ、嫌だった?ごめんなさい…」
「…いえ、いいのです。貴女も私の可愛い子ですから」
アリス姫が幼児退行してから日が経つ。
とうとう覚悟を決めて王妃もアリス姫の元へ来た。
アリス姫は王妃の言葉に喜びを表す。
「お義母様、ありがとう!そんな風に言ってくれて嬉しい!」
「アリス…」
「ねえお義母様、一緒にお茶にしましょう!お話したいことがいっぱいあるの!」
「…ええ、もちろんです」
親子の距離が、やっと縮まった。
それがいいのか悪いのかは、今の王妃にはわからない。
「…あ、お父様だー!」
ある日、陰ながらこっそりと姫を見守っていた国王がアリス姫に見つかった。
「あ、アリス…」
「お父様も一緒に遊ぼう!ね、兄様たちもいいよね!」
「いいよ。父上、こちらへどうぞ」
「よかったな、アリス」
「うん!」
父親らしいことをしてこなかった自分が、いいのだろうか。
そう思いつつ、「家族」の団欒に交ざる。
アリス姫はそんな父に微笑んだ。
やがて、アリス姫が幼児退行して半年が経つ。
ある日、宮廷魔術師が言った。
「アリス姫様を元に戻せるかもしれません」
「なに?本当か!?」
「はい、しかし…この半年の記憶を代償に、ですが」
「…!」
家族は話し合う。
話し合って、決めた。
アリス姫の人格を治してやるべきだと。
「けれど、元に戻ったアリスも愛しましょう」
「もちろんだ。アリスが記憶を無くしても、この半年のことは消えない」
「今更と思われるかもしれませんが、大人に戻ったアリスとまたやり直しましょう」
「たとえエゴでも構わない。アリスにとって一番良い道を模索するのが保護者というものです」
「僕たちは、アリスを今度こそ守ると決めたのだから…アリスのためになるなら、それが一番だ」
そして、アリス姫は施術を受けた。
アリス姫はこの半年の記憶を失い、元の人格を取り戻した。
「…というのが、この半年の話だよ。私の可愛いアリス」
長兄の語る話に、アリス姫はやや驚いた表情を見せたものの受け入れたらしい。
長兄の手を優しく握る。
「オーバン兄様、幼児退行してしまった私にそこまで尽くしてくださってありがとう。オベール兄様も、オードリック兄様も。お義母様も、お父様も。本当に、ありがとう」
順に、家族の手を握りしめる。
「私、半年のことは忘れてしまいましたけれど…また、家族として一緒にいてくださいますか?」
「もちろんだ」
こうして、家族のやり直しの日々が再び始まった。
けれど、記憶はないけれどもう大丈夫だろうという自信が今のアリス姫にはあった。
なぜなら、家族の自分を見る目に愛がこもっているから。
嫌われ者のお姫様は、やっと愛し愛される大切な家族を手に入れられたのだ。
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