エピローグ
町はずれの森へと続く田舎道を、馬車がガタガタと音を立てながら進んでいる。中では、レイアとフローラが向かい合わせに座って話しをしていた。
「フローラ様。馬車をだして下さったのはありがたいんですけど、やっぱり二人で行ったら怒られるんじゃないでしょうか。場所は秘密と言われてましたし…」
レイアは少し心配そうに、フローラへ話しかける。
「でも、一人で森まで行くなんて、ルイスさんが心配するでしょ? マーシャさんは事情を話せばわかってくれる人だし、大丈夫よ。怒られたら、私は馬車で待っておくから」
レイアは今朝、マーシャに事の顛末を報告してお礼を言うため、森に行こうとしていた。一人でこっそり出ようとしたところをフローラに見つかり、『誰も行き先を知らないのは良くないから』と言われて話したところ、彼女が『自分も行く』と言い出したのだ。
「それにしても、レイアがマーシャさんを知ってたなんてね。初めて知ったわ」
「他言しないように言われてましたから」
そんな話をしているうちに、馬車は小屋の前に着く。先に降りたフローラは、敷地内の変化に気づいて声を上げた。
「あれ?」
レイアも降りてきて、少し驚いたように口を開く。
「小屋が増えてますね」
「あのテントは何かしら。農具でも入れてあるのかな?」
事業拡大でもしたんだろうかと話しながら扉まで行く。コンコンとノックをすると、少しして中から声が聴こえてきた。
「あんたは出てこなくていいから!」
「まあまあ、一目確認したら奥に引っ込むって」
マーシャさんと…男の人?
レイアとフローラは戸惑いの視線を交わす。そのすぐ後、ギイッと扉が小さく開いて、いつものように黒いフードをかぶったマーシャが姿を現した。
「お久しぶりです。マーシャさん」
「あんた…レイアじゃないか」
マーシャが応えると、レイアの後ろに隠れていたフローラがひょこりと顔を出した。
「こんにちは、マーシャさん。…え? クリフさん?」
フローラは、マーシャの後ろに控えていた男の顔をみて、目を丸くする。
「お? ケインの幼馴染の嬢ちゃんじゃないか」
「は?」
マーシャはフローラとクリフの顔を交互に見る。知り合いだと悟ると、額を押さえて、はああと大きなため息をついた。
クリフを小屋から追い出して、マーシャはレイアとフローラを中に入れた。「客が二人で来ることなんかないんだよ」と言って、調合台の椅子をテーブルまで持ってくる。三人が椅子につくと、フローラが目を輝かせてマーシャの方へ身を乗り出した。
「マーシャさんの旦那様がクリフさんなんて、私、本当にびっくりです」
「…お嬢さん、他言しないように。人に言ったら取引をやめるからね」
「えっ それは困りますね、言いません…けど」
「フローラ様、ケイン君にもだめですよ」
「やっぱり?」
レイアは、あの日この小屋を出てからのことをマーシャに話した。
「生活は大変ですけど、でも幸せです。あの時のことを思えば」
「…そうかい。それは良かったね。旦那の治療や訓練にも、王都の方がいいだろうよ。いつ発つんだい」
「はい、明後日には。あの時は、本当にありがとうございました」
「あたしが勝手にしたことだ、礼は必要ないけどね。身体には気をつけなよ」
レイアが微笑んで頷くと、次はフローラが輝くような笑顔で報告する。
「マーシャさん、私もね、この間ちゃんとプロポーズされたんですよ。十八になって結婚したら、また移動食堂やろうって話してるんです」
「そうかい。それはめでたいことだね。出発する前に、また薬を買いに来たらいい」
「そのときは、クリフさんに護衛をお願いしてもいいですか?」
すると、マーシャはフッと笑った。
「悪いけど、一週間以上の依頼は断ってもらうつもりだよ」
「えー、そうなんですか」
「ふふ…わかります。そうですよね」
小一時間ほどお茶をして、レイアとフローラは帰って行った。マーシャにしては珍しく、二人が馬車に乗り込んで出発するまで、小屋の前で見送った。
こんな訪れも、たまには悪くないなと、そう思っていた。
・・・・・・・・
その町は、領主の城の城下町の、隣にある町だった。
魔竜の影響があるにはあったが、町はおおむね平和で、人々はいつものように毎日を営んでいた。
そんな中でも彼女たちには、驚くような人生の転機が訪れた。
彼女たちの人生は、これからも続いていく。
剣も魔法も使えない。英雄譚にあるような戦いにはでない。
時間は前にだけ流れ、過去に戻ることはできない。
日々は選択に満ちていて、時には大きな決断に迫られる。そんな人生が。
戦わない女たちのRPG・終
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活動報告も書いてみたので、良かったら読んでくださいませ。




