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第三話 だいたい全てを諦めている女のRPG(3)

 ツルリネ山で採集するのは、白百合に似た花だ。古文書には、『影の中の光に咲く』と書いてあったそうだが、具体的にどこに咲くのかわからず、登りながら探さなくてはならない。

 あまり標高の高くないツルリネ山が難所なのは、一年中雪が降っているからだ。今は夏だから大雪とまではいかないが、ちらちらと小雪が舞っているし、地面にも薄く積もっている。当然寒い。おまけに昼には大型の獣が、夜には魔獣が出る。

 体力低下や危険を回避しながら探すため、クリフが以前通った比較的なだらかなルートを登り、途中の洞窟を拠点にしてその周囲を探していくことにした。まずは最初の洞窟まで登らなくてはならない…のだが。

 マーシャはハアハアと息を切らせながら、少し前を先導するクリフについて登っていた。彼は彼女を振り返って、やや心配そうに声をかける。

「おい、大丈夫か。背負ってやろうか?」

「背負ってて護衛できるのかい」

「だよな」

 すげなく反論されてクリフが前を向き直した途端、右から熊が飛び出してきた。彼は剣を抜いて横薙ぎにし、あっという間に倒してしまう。そんな光景をもう見慣れてしまったマーシャは、驚きもせず熊の骸を見下ろした。

「ああ、これは今日の夕飯に使えるねえ。良さそうなとこ、ブツ切りにして持ってくよ」

「…あんた、そういうとこはたくましいよな」

「ふん。これでも森の薬師だからね」

 そうして熊の腕を切り落として担ぎ、再び登り始めてしばらくすると、クリフが思い出したように話し出した。

「…けど、最初は本当に背負って登ることも考えてたんだぞ」

「え?」

「いや、あんたのこと、もう少し歳がいってると思ってたからな。顔は見えないし、喋り方も」

「ああ、まあそうかもね」

 マーシャのこの喋り方は、祖母譲りのものだ。五歳から十三歳までの八年間、マーシャの話し相手は祖母だけだった。移ってもしょうがない。年老いても気っ風のよかった祖母の顔を思い出していると、クリフが話を続けた。

「本当にツルリネ山を登れるのか?と思ってたし、なんなら俺が代わりに取ってくることまで考えてた」

「ふ、そりゃ悪かったよ。余計な気を遣わせて」

 そう肩をすくめたところで、前を行く背中から小さな声がした。

「だから余計になあ…」

 よく聞こえなかったマーシャが聞き返す。

「何か言ったかい?」

「いいや、別に」

 笑いを含んだ声は、なんだか少し優しかった。


 最初の洞窟についた頃には陽が落ちたので、今日はここで打ち止めだ。クリフが火を起こして、マーシャが熊鍋を作る。椀に注いでクリフに渡すと、一口食べて「美味いな」と言った後、ふと首を傾げた。

「…ん? 食事は各自用意じゃなかったか?」

「あんたが熊を用意してあたしが鍋を用意したんだから、間違ってないだろ」

 マーシャは平然と自分の椀にも注いで食べている。クリフはその顔をじっと見て、少し嬉しそうに「それもそうか」と笑った。そうして二人とも腹いっぱい食べて、なめした鹿の皮を地面に敷き、交代で火の番をして眠った。

 次の日から、その洞窟を拠点に花を探した。『影の中の光』というからには、木陰の陽だまりに咲くのではないかと考え、そういう場所を主に探したが、なかなか見つからない。マーシャが探している間、しょっちゅう熊だか狼だかが現れたが、襲われそうになる度クリフがなぎ倒すので、しまいには獣の方が逃げていくようになった。夜は洞窟に戻って、また日中に探しに出る。そうして過ごす中、クリフはぽつりと、「こういうのも…悪くないよな」とつぶやいた。


 数日後。あまりに見つからないので、次の洞窟まで登って探す場所を変えることにした。その道中、マーシャはふと思いついてクリフに話す。

「もしかしたら、影ってのは夜のことで、光は月明りのことかもしれない。あるんだよ、他にも月明りにしか咲かない花ってのが。夜に探してみようか」

 夜に探すということは、昼に寝ないといけないということだ。洞窟の、陽が当たらないところでマーシャは横になり、昼寝しようとした。最初は良かったが、だんだんと西日が差してきて、寝ている彼女の顔を照らしてしまう。

(寝てても眩しそうだな)

 クリフは、眉をひそめるマーシャの顔をしばらく見つめ、手の平でそっと目を覆ってやった。


(……なんだろうね。この感じ)

 うとうとしていたマーシャは、目の上に当てられた大きな手と、その温もりに、何か不思議な感覚を覚えていた。夢うつつの中、家に一枚だけ残っていた姿絵が、瞼の裏に浮かんでくる。…ああ、そうか。父親だ。いつの日か、こうやって父親も、自分に手を当ててくれたんじゃないだろうか。

 顔も覚えていない、滅多に帰ってこない、母を寂しいまま死なせた父親。だけど、母と子が暮らしやすいように、二人が暮らす家を守るように、たくさんの魔術具を置いていってくれた。その気持ちは、信じられた。信じられるから…安心するんだ、父親のように。あたしを守ってくれる、この手の平の、温もりに。


 ***


 夜になって、二人は松明を手に花を探し始めた。あと少しで満月の今宵は、月の光も明るい。魔獣を倒しながら木々の中を探すが、それらしき白い花は見つからない。二人は一度洞窟まで戻って、探す場所の手がかりを考え直すことにした。腰に手を当てて考え込んでいたクリフが、「あ」と顔を上げてマーシャに話す。

「少し登った先に、縦穴から降りる洞窟があったはずだ。そこには月明りが入る。前来た時は大雪で底がみえなかったが、もしかしたら…」

 クリフの先導でその縦穴に向かうと、穴は小さく、大人三人くらいがやっと入れる大きさだった。縦穴の淵に立って下を覗くと、確かに穴の底まで月の光が届いている。その光の端に…。

「あった!」

 マーシャが思わず歓喜の声を上げる。白百合に似た大きな花が一輪、雪解け水の近くに咲いていた。月の光に照らされて、ぼんやりと輝いている。

「俺が取ってこようか?」

 クリフが尋ねるが、マーシャは首を振った。

「採取してすぐ保管容器に入れたいから、あたしも降りる」

 そこで、まずは近くの木にロープを固く結んで、残りを穴に垂らした。クリフがそれを伝って先に底に降りる。

「気をつけて降りて来いよ」

 上から覗き込むマーシャに向かって声をかけると、彼女はうなずいて松明を脇に置いた。その時だった。

 キシャアアアア!

 辺りをつんざく耳障りな高音が背後で響いた。バッと振り向くと、巨大なカマキリのような魔獣が大きくその腕を振り上げている。マーシャが恐怖に目を見開いた時、クリフの叫び声が聴こえた。

「飛び降りろ!」

 振り向いて、クリフが両手を広げたのが見えた瞬間、マーシャは地を蹴って飛び降りた。躊躇はなかった。何も怖くなかった。必ず、受け止めてくれると信じていた。そのとおりに、クリフはマーシャを受け止めた。しかしさすがに落ちた勢いが良過ぎて、クリフは二、三歩よろけると、ドスンと地面に座り込んでしまった。

「おっと、と。おい、大丈夫か?」

 クリフは首にしがみついているマーシャの背中をぽんぽんと叩く。

「…魔獣は?」

「ああ、ほら、上見てみろ。大丈夫だ」

 マーシャが振り向いて上を見上げると、縦穴の入り口に魔獣の腕の鎌がひっかかってカチカチと音を立てていた。そのうち諦めたのか、鎌がみえなくなり、耳障りな鳴き声が遠ざかっていく。マーシャはホッとして、クリフの身体の上から降りた。白い花の傍に寄ると、ポケットから保管容器とナイフを出して花を採取する。保管容器のふたを閉めながら、背後で見ているクリフに声をかけた。

「…あんたの言った通りだったね」

「ん? 何がだ」

「ここに最初に来てたら、あたしは飛び降りずに死んでたよ」

 あんたを信じられたから、飛び降りられた。遠回しにそう伝える。

「はは、そうか」

 クリフのとても嬉しそうな声が聴こえて、マーシャはクスリと笑った。


 それから、雪で滑らないようゆっくりと山を降り、一週間かけてカルテヒア領まで戻ってきた。採集も、いよいよ最後の四つ目だ。近くの村の宿を出て、昼過ぎに東端の森に入ったところで、雨が降ってきた。

「どうする? 村に戻るか?」

「この森は前に来たことがある。少し行ったら猟師小屋があるはずだよ」

 どうせ拠点が必要だからと、二人は小雨の降る中、馬を引きながら猟師小屋を探した。しかし雨はだんだん激しくなってきて、猟師小屋を見つけた頃には雷まで鳴りだした。二人は馬を軒下に繋いで、急いで小屋に入る。二人ともびしょ濡れになっていたので、とりあえず暖炉に火を起こした。マーシャは黒いマントを脱いで椅子にかけ、暖炉の前に引きずってきた。マントの下の洋服は無事だったので、助かった。だが、クリフは全身濡れたはずだ。

「あんたも服脱がないと風邪ひくよ。…なんだい。まじまじと見て」

「いや… マント脱いだの、初めてみたから…」

「…そうだったかい?」

 クリフは、白いブラウスに青のズボン、茶のロングブーツ姿のマーシャを、じっと見つめていた。彼は野営の間も、マーシャが着替えたり身体を拭くときは後ろを向いていた。だから今、初めて見たのだ。やや細身で、しかし熟した丸みもある、まさに人間の女である彼女の姿を。マーシャはそんな彼の視線に少し気まずくなって、小屋の中を物色しだす。

「ぼーっとしてないで服乾かしなよ。本当に風邪ひくよ」

「あ、ああ」

 クリフはハッと我に返って服を脱ぎだした。武具と上着を脱いで上半身裸になったが、さすがに下を脱ぐのはとためらっていると、マーシャがひざ掛けと毛布を探し出して投げてきた。

「気にしないでいいから下まで脱ぎな。それで隠せばいいだろ」

「あんたはちょっと気にしろよ」

 そう言い返したとき、窓の外がカッと光り、直後にドオン!という雷の音がした。近くに落ちた、そう二人が思った途端、外からヒヒーンという馬の鳴き声が聞こえ、ドドッドドッと足音がする。

「しまった!」

 クリフは玄関の扉を開け、軒下を覗き込む。案の定、雷に驚いた二匹の馬が、繋いだロープを引きちぎって逃げていた。もうその姿は小さくなっている。この大雨では追いかけられないだろう。クリフは額を押さえてハア~と大きなため息をついた。マーシャも後ろで苦笑する。

「カルテヒアに戻った後で良かったねえ。ここからなら、歩いても何とか城下に戻れる」

「あんたの足じゃ何日かかるかわからん。途中の町で乗合馬車にでも乗るか…」

 扉を閉めて再び服を脱ぎだしたクリフに背を向け、マーシャは自分の毛布を羽織って暖炉の前に座った。彼女は内心、少しホッとしていた。雨が止んで、採集が終わり、ギルドに戻れば依頼は終了だ。そうなれば、クリフは自分の護衛でなくなる。馬がいなければ。徒歩なら。共に過ごす時間がもう少し手に入る。

(…何を考えてるんだかね…)

 膝を抱え、暖炉の火を長いこと見つめる。窓の外からは、激しい雨の音がし続けている。小屋の中はもともと暗かったが、さらに暗くなってきて、陽が落ちかけているのがわかった。今日はもうここで泊りだろう。気がつくと、暖炉の傍にコート掛けと椅子が寄せてあり、クリフの服が上から下までかけてあった。彼の姿はない。少し離れた背後でカタンという音がしたので、テーブルのあたりに座っているのだろう。マーシャは少し考え、火を見つめたまま声をかけた。

「身体が冷えたかい?」

「ああ、まあな」

「酒でも飲んで温まったらどうだい。リュックの中に少しあるから」

「…いや、いい。今飲むと…酔いそうだ」

「…そうかい」

 暖炉の薪がパチンと音をたて、火の粉が舞う。マーシャは再び、口を開いた。

「…報酬を二割減なら、一晩付き合ってもいいけどね。身体が温まるし」

 その一瞬で、二人の間の空気が変わった。緊張が張り詰め、音が消える。


「………」

「………」


 数秒後。ザアァと降る雨の音だけが小屋の中に響いていく。

 永遠のような長い沈黙の後、クリフがため息をつくように言った。

「正直かなり惹かれる話だが、やめておく」

「さすがに二割減は辛かったかい、アハハ」

「そうじゃない」

 落ち着いているが断固とした声に、マーシャは少し視線を落とす。

「…仕事中だもんねえ」

「…そうだな。それに、あんたは商売してる女じゃないから、金をはさみたくない」

「…ふふ。あんたはいい男だね。偉いよ。じゃ、おやすみ」

 マーシャは毛布を身体に巻き付け、横になった。


 …商売じゃないなら、気持ちがないと抱けないということだろう。しょうがない。信じられる男に抱かれる、あたしにとっては人生で最後のチャンスだったと思うけど。…諦めればいい、いつものように。眠ってしまえばいい。いつものように。


 マーシャはポケットから眠り薬を取り出して飲み、深い眠りに落ちた。クリフはしばらく背後から彼女を見つめ、近づいてその寝息を確かめると、少し距離を置いて暖炉の前に座った。ゆらゆら揺れる火を見つめ、ぽつりと零す。


「一夜のことには、したくないんだよな…」


 そうつぶやいた言葉は、マーシャには届かなかった。


 ***


 次の朝、クリフが目を覚ますと、既にマーシャは起きていた。もう乾いたマントを着て、フードをかぶっている。

「おはよう。風邪ひいてないかい?」

「…おはよう。ああ、大丈夫だ。服も乾いたしな」

 いつもよりほんの少しフードを深くかぶっている気がしたが、それ以外、マーシャはいつも通りに見えた。雨も止んでいたので、森で四つ目の材料を採集する。最後の材料は、小さな赤い木の実だ。割って、中の白い部分をすり潰して使うのだという。幸い、小一時間くらい探して見つけることができた。クリフが木に登って枝を切り落とし、マーシャが木の実を取っていく。小さな篭いっぱいになると、マーシャはふう、と息をついて「終わったね」とつぶやいた。


 東の森を出て、帰途につく。その日の宿で食事をするときも、いつもどおり二人で一緒に食事をした。だが。

「あんた、今日は酒飲まないんだな」

「疲れがたまってるからね。酒を飲んだら悪酔いしそうだよ」

 そう言って、食事だけを淡々と食べていく。今までは、疲れた時にだって必ず一杯は飲んでいたというのに。マーシャは食べ終わると席を立ち、木の実をすり潰す作業をするからと、さっさと二階の部屋に行ってしまった。クリフはその背中を見送り、はあ、とため息をつく。

「どうするかなあ…」

 自分は酒を一杯頼んでチビチビと飲みながら物思いにふけっていると、皿を取りに来た給仕が声をかけてきた。

「お客さん、もしかして傭兵さんですか? 今、仕事とか受けられますか?」

「いや、今は別の仕事中だから無理だが…どうかしたのか?」

「最近この村で、スリの被害が頻発してるんですよ。今までそんなことなかったのに、どうやら別の町から凄腕が入り込んできたらしくて。旅の人が被害に遭って困ってるんです。村の評判が落ちたら客が減りますからね」

「なるほどなあ…仕事は受けられないが、気にかけとくよ」

 スリも凄腕なら賞金がかかっていることもあるし、窃盗団の一味のこともある。捕まえて兵士団に連れて行けば、損はない。…それに、マーシャに手を出させるわけにはいかない。護衛としても、男としても。

 クリフは残りの酒をぐいっと飲み干し、ダン、とグラスを置いた。


 次の日。その村には乗合馬車が来ておらず、二人は徒歩で城下町を目指した。いつもより早足でざかざか歩くマーシャの後ろを、クリフが呆れた顔でついて行く。

「おい、もう少しゆっくり歩いたらどうだ。次の宿に着く前に倒れちまうぞ」

「採集も済んだし、さっさと帰りたいんだよ」

「なんでそうせっかちなんだあんたは」

 そう言い合いながら歩いていたが、クリフは数十歩背後に人の気配を感じ、マーシャの腕を掴んだ。

「ちょっと待て。話がある」

 その警戒した声色に、マーシャも立ち止まった。並んで歩きだしながら、抑えたクリフの声に耳を傾ける。

「この前の宿を出てから、子どもが一人後をつけてきてる。宿で聞いたスリかもしれん」

 マーシャは少し考え、ふうっと息を吐いて応える。

「放っておきなよ。あたしたちにはまだ何もしていない」

「窃盗団の斥候という可能性もある。放置は危険だ」

「…なら、そこの森を通って()いていくかい?」

 マーシャは左手の方に見える森を指さした。そこはマーシャの住む森に一部連なっていて、彼女には土地勘があった。クリフも了承し、二人は森の中に入って行く。マーシャが歩く方にクリフも歩いていくが、子どもの気配はまだしていた。

「しつこいな。しかもだんだん近づいてきてる」

「森の中をついてくるなんて、たいしたもんだ。怖くないのかねえ」

「感心してる場合か」

 そう言った時だった。クリフはハッと立ち止まって剣を構えた。気がつくと、木々の間からいくつもの獣の目がこちらをみている。グルルルルという唸り声がしたと思ったら、何匹もの黒狼が一斉に飛びかかってきた。クリフがマーシャを背中に庇ってざあっと剣を振るうと、ギャン、という鳴き声がして黒狼が一斉に地面に落ちていく。マーシャが一瞬ホッとしたところで、近くから「うわあああっ!」という悲鳴が聴こえた。バッと振り向くと、八歳くらいの少年が黒狼に襲われている。必死で抵抗しているが、噛み殺されるのは時間の問題だ。マーシャがそちらに足を向けようとすると、クリフが腕を引いて反対側に引きずっていく。

「ちょっと! なんであの子を助けないんだよ!」

「俺の護衛対象はあんただろ!」

「この…頭でっかちが!」

「はあ⁈」

 クリフが振り向いた時、再び黒狼が飛びかかってきた。攻撃のためにマーシャの腕を離した途端、彼女は少年のところへ駆け出した。少年に圧し掛かっていた黒狼を、右足で思いきり蹴り上げる。キャン、と一回はひっくり返った黒狼だったが、再び唸りを上げて飛びかかってきた。マーシャは少年にガバッと覆いかぶさって抱きしめた。

「マーシャ!!」

 クリフの声がして、ギャン、と黒狼の悲鳴がした。ホッとして振り向いたのもつかの間、クリフの後ろに酷く大きな熊が迫っていた。

「クリフ、後ろ!」

 クリフが振り向きざまに剣を振るうと、それは熊の両目を切り裂いた。熊は苦痛にもがき、暴れた拍子に大きな爪が少年からマーシャを引きはがして放り投げた。マーシャは勢いよく木にぶつけられ、ドサッと地面に落ちる。

「マーシャ!!」

 左腕と肩の辺りが火を噴いたように熱い。頭がぼうっとしてくる。

「マーシャ!! しっかりしろ!!」

 クリフの叫ぶ声が聴こえる。…そういえば…名前呼んでくれたの…初めてじゃないか…? …最後に聴けて…良かったかも……しれないね……


 意識が途切れる瞬間、微かに、犬の遠吠えが聴こえた気がした。


書きたくてしょうがなかったとこですね。頭の中のもの、早く全部吐き出したい。次回で第三話も終わりです。

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