悪魔と酒と、たまにイカ
潮風の残り香が店の中を漂い、薄まっていく。どこまでも続くような海と空を眺めつつ、トビアス達は昼間から様々なイカ料理を楽しんでいた。
「そういえば、二人はお酒を飲まないの?」
トビアスは未成年だが、ハルディンとヨノンは余裕で二十歳を過ぎている。宴会といえば酒のイメージがあったトビアスとしては不思議だった。
「お前は酒気帯び状態で飛んで帰るつもりだったのか? 危なっかしいな」
「最近、法改正があったのよ。人間の法律は守らなきゃね」
イカをもりもり食べながらトビアスは首をかたむけた。よく噛んで食べ終えたトビアスがヨノンを見る。
「ヨノン先生、酒気帯びってなに?」
「解説しよう。酒気帯びとは呼気中アルコール濃度が――――」
長年医者をしているだけあって、辞書のように正確な情報が語られる。言葉遣いに反して子供に優しいヨノンの解説を、トビアスが真剣に書き取る。料理そっちのけで道路交通法にまで派生したやり取りをかわす二人に対し、ハルディンは柔らかい笑みを浮かべた。