中学生で別れたはずのヤンデレの元カノが高校に転校してきたら……
転校生が来た。中学生時代に別れたはずのヤンデレの元カノが……。もう、関わらないでいようと思った。だけど、彼女はぼくの家にいた。なぜ、どうして?しかし今それは考える余裕はない。どうにかして、彼女を引き離さなければ……。ぼくは彼女を引き離すために頭を回転させていく。
転校生が来た。
最近のアニメだったり、ラノベだったり、ラブコメだったりの典型的な始まり方であり、それは大体新しいことの始まりの予感である。
そう、基本は新しい未来への希望を意味するのである。
基本は、基本は……。
しかし、それはぼくにとってはとてもとても楽しいだなんて言えるものではなかった。
まあ、中学時代の元カノがやっと別れられたのに高校で再開しただなんてうれしいとは思えないでしょ。
彼女は転校初日とあって、彼女が席に着くや否や、即行で人だかりができる。
もちろんぼくはいかなかったが。
行かなかったのに、会いたくないと思ったのに……。
家に帰ったら彼女がいた。
「なんでここにいる?」
「私のこと覚えてくれてたんだ!」
喜々として彼女は言った。
彼女の笑顔は残念ながら僕には畏怖の対象としてしか見えなかったけども。
「質問に答えてくれよ」
「彼女が彼氏の家にいておかしい?」
「ぼくは君を彼女だと思ってないし、分かれるってことで同意した覚えがあるんだけど?」
「ヤダよ、あんな別れ方。……なんでこんなに愛してたのに私から逃げたの?」
彼女はぼくの胸ぐらをぼくより一回り小さい小柄な体で掴む。
その目は怒りや憎悪と言ったものよりは威圧と言った方が正しいらしい。
「そりゃ逃げるさ。何が楽しくて監禁されなきゃいけないのさ」
「それは君が他の女とすれ違って他の女の臭いをしみつけるのが悪いんだよ!」
「……」
「わかってくれた?」
「いや、ツッコミどころが多すぎて反論する気も起きないだけだよ……」
ぼくがあきれた様子でそう言うと、ぼくの胸ぐらをつかむ彼女の手が震える。
「なんでわかってくれないの!」
次の瞬間にはそんな怒号がぼくの耳に飛んでくる。
「私は君のことを心配していっているんだよ?私なら他の邪魔な女たちが君のことを汚さないように守って上げれるよ?何もしなくても一生幸せに暮らせるよ?それなのになんで私のことをそんなに毛嫌いするの!」
「だってそれぼくにペットになれって言ってるじゃん」
「……幸せでしょ?」
そして次の瞬間、彼女に押し倒され馬乗りの状態になって胸ぐらをつかまれる。
「君は私が幸せにするから、何も考えなくていいんだよ?まあ、ちょっと待っててね?」
次の瞬間、ハンカチを口元に当てられて気を失う。
きっと睡眠薬とかを使われたのだろう。
目が覚めた瞬間、そこは見慣れた檻の中だった。
見慣れたって表現が不適だって?
……カレカノ時代にもやられたんだよ、これ。
はあ、といつもの癖でため息を吐こうとするが、今はそれができないことに気付く。
布が口に詰められて、ぼくの顔に巻き付けられているのだ。
参った、これでは彼女に反論できない。
お前は黙ってろってことか……。
しかも、両手両足には手錠をかけられほとんど身動きもとれない。
そんなことを思っていると彼女が鉄格子越しにぼくの目の前に現れる。
「やっと起きたんだね」
ニコニコした笑顔で彼女はぼくにそう言った。
ぼくは何も言わず、ただただ彼女の顔をにらみつけていた。
「出来立ての私のパンツの味はどうだったかな?」
エヘッ!だなんてかわいらしい——一般論では——声を上げて言う彼女を見てぼくは、もしや……と顔が青ざめる。
「あっ!今頃気づいたの?ンフフ~、そうだよ。今君のうるさい口をふさいでるそれ、さっきまで私がつけてたパンツなんだ!ということは今の私は……なんてね?君が咥えてるのはパンツだけどしっかりはいてるよ?」
ちょっと顔を赤面させて言う彼女に、ぼくはどうすることもできずただ茫然としていた。
本当だったら、メンタルがやられないように反論の言葉を口にして精神で負けないようにするんだけど、声が出せない。
このままだと、確実にメンタルがやられて彼女の人形にされる。
中学の時以来、彼女の対処法は学んだつもりだった。
しかし、彼女もぼくのその対処法に対するメタを張ってきたのだ。
まずい、本当に状況がまずい。
ぼくは初めて監禁されたあの中学時代の時と同じように冷や汗をかく。
といっても、あのころよりも数十倍やばさが増しているのだけれども。
「とりあえず、ご飯食べなくちゃね?えへへ、君のために料理まで覚えたんだよ?」
そういって彼女は後ろからチャーハンを取り出し檻の中に入ってくる。
ぱっと見、そのチャーハンには異物は入っていない。
前なんてラーメンのスープ赤かったし、鉄のさびた味したし、麺がそうめんとスパゲッティとそばの混合麺だったしで、最悪だった。
彼女はコンクリートの冷たい床に一旦それを置くと、ぼくの口をふさいでいた彼女のパンツを回収し、ぼくの口を開ける。
「おいしかった?私のパンツ」
「うがいしたいくらいだったよ」
ぼくは見上げるような体勢で彼女に言った。
「お口直しにチャーハン作ってきたから、食べさせてあげるね?」
「手錠を取ってくれれば話が早いんだけど?」
「それはだーめ。はい、お口あーんして?」
「……」
ぼくは黙った。
いや、せっかく作ってきてくれたんだし、それを食べないというのはいささか不道徳な気もするのだが、やはり彼女が作ったものだ、あまり気が進まない。
そんな風に攻めあぐねていると彼女は有無を言わさずぼくの口にチャーハンをすくったスプーンをねじ込んだ。
味の方は……普通だった。
可もなく不可もなく……普通に言うならおいしい。
「どう?」
「まあ、悪くはないかな」
「えへへ~、でしょ?ね、私なら君のこと幸せにできるよ?ほかのゲロ豚と関わるのやめよ?ずっとそばにいるって今ここで宣言して」
「……それはできない」
ぼくがそう言い終える前に、彼女はまたスプーンをぼくの口にねじ込んだ。
「ね?宣言して?」
「待った。条件を付けよう」
ぼくがそういうと、彼女はスンと冷めた顔になってぼくに聞いた。
「条件って?」
「一週間、ぼくは君の言う通りどの女性とも関わらないようにする。だから、君も一週間ぼくに危害を加えないでくれ」
「破った場合は?」
「ぼくが破ったら、宣言でも何でもしよう。だが、君が破ったら、ぼくはどんな手を使ってっでも君を地獄に堕とす」
「ん~」
そう彼女はしばらく体を左右に揺らしながら考えた。
そして、満面の笑みに戻ってぼくに言った。
「いいよ。じゃあ、手錠外すね?」
次の瞬間には手錠が外れていた。
意外とあっさりだな。
ぼくはその時はそう思ったのだが、その次の日から地獄は始まった。
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