感情の振れ幅が大きい彼女は幸せを彼に見いだす
幸せになりたい。そんなことを常日頃から考えて、彼と一緒にいることが私の幸せなんだ、と、彼のそばにいたいと渇望している私は、ついにその願いをかなえるためにとある計画を実行に移す。しかし、彼に思いのたけを伝えようとするが失敗し、酷く気に病んでしまう。しかし、そんな時に件の彼が目の前に……。私の幸せは叶うのか……?
幸せの条件ってなんだろう。
不意によく考えることで、案外深くていつも答えが出ないままそんな考えは立ち消える。
誰だったか、足るを知り満足することができれば幸せ、と言った。
だけど、何かを渇望して、それが手に入らなかった時の虚無感、絶望感、損失感と言ったら計り知れない。
だから、私は幸せになるということは、望むものを失わないことだと思った。
そう定義づけて生きてきた。
そして、その望む対象は身近にいる。
中学のころから同級生の彼、だ。
彼はあまりしゃべらないタイプで、まだクラスの全員と喋ったこともないような人だけど、話しかければ面白かったり、それなにの返事はしてくれるいいひとだ。
それに、一見周りのやつはクソだ、みたいな鋭い目つきをしているが、思いのほか周りのことをよく見ていて、困っている人がいたら助けに行く、なんてこともしていたりする。
この前、彼に不審者が付きまとわないか見守っていた時だって、彼は必ずすれ違う人すべてに挨拶していたし、困っていたご老人の方がいたら進んで助けていた。
それにそれに……。
ああ、いけないいけない。
このままだと一生彼の話をするだけで寿命がなくなってしまって、彼とお近づきになる時間が無くなってしまう。
今日こそどうにかして彼と近づかなければ……。
不審者がクラスの人だけで済む今のうちに私のものにしないと……。
そう意気込んで私は登校した。
ずばり、彼とお近づきになる作戦はこうだ。
まずは高校生活での告白の定石、下駄箱のラブレター作戦——彼のメアドさえ持っていれば呼び出しは簡単だし、もっと距離詰めてから告白できるのに~、なんで携帯持ってないの~——そして、放課後に体育館裏で告白大作戦。
よし、行ける。
そう思っていたのだが、学校について早々私は緊張してきた。
まず、朝一に登校することで、誰にも見られずに彼の下駄箱にラブレターを入れることには成功した。
しかし、いや、それが成功したからこそ現実味がどんどん帯びてきて、余計に心臓の鼓動が早くなっていくのがわかった。
おかげで朝のホームルームはおろか、2時間目までの授業の内容すら全く入ってこなかった。
そして、1と2時間目の間の休憩時間に彼の方を見たのだが、彼は何とはない様子で、いつも通り、読書に精を出しているといった様子だった。
そんな彼を見て、私は顔を真っ赤にした。
そしてついに放課後になった。
私は体育館裏で彼を待った。
5分経った、10分経った……30分経った。
結果、彼は来なかった。
なんでどうして?
そんな疑問の言葉が私の頭をずっとぐるぐると回っていた。
涙もこぼれた。
その場にうずくまった。
もはやこの世界に生きている価値はないとすら思った。
でも、彼は来なかったという結果は覆らない。
私はひとしきり泣いた後、彼の下駄箱を確認した。
そこには彼の上履きが入っていた。
帰っちゃったんだ……。
そう思うと、自分が滑稽見えて、涙がまたこぼれそうになってきた。
いや、もうこぼれだしていた。
どうしようもなく自分が惨めに見えて、散々優しいと思っていた彼は、私に冷たい対応を取った。
その事実が、彼にとって私はいらない、差別されているような気がして辛かった。
実際はそうでなかったとしても、私には耐えがたいことだった。
そこで、私は決心した。
なにがなんでも、彼を私のものにする。
そう思ったのち、私は教室に戻って、彼の席に座ってまた泣き始めた。
どうせもうこの教室に来る人は今日はいない。
だったら、彼の席で泣いていようが誰も注意しないだろう。
好き勝手やってやる!
そんな自暴自棄な気持ちで彼の席に居座った。
どれほど時間が経っただろうか。
体全体が痛い。
そんな感覚を背負って目をこすると、窓の外はすっかり暗くなっていて、黒板上の時計は7時を指していた。
あのまま寝ちゃってたのか。
そんな風に独り言を言って、カバンを取って帰ろうと彼の席を立つと、私の横に彼がいるのがわかる。
「えっ⁉なんで、いるの?」
「なんでってまぁ……その机の中に色々プリント入れっぱなしにしちゃって……取りたかったんだけどさ、あまりにいい寝顔してたから起こすのも悪いかなって……」
彼は私から顔を逸らしながら言った。
私も顔を真っ赤にして彼から目を背けた。
「あと、体育館裏に来い!って手紙くれたんだけどさ……ごめん、体育委員の仕事でいけなかった!もし帰っちゃってたらって思ったけど、下駄箱に靴あるし、いるからせっかくなら用事も聞けるし、起きるのを待ってもいいかなって思ってさ」
「私は待ったんだよ!」
彼が言い終わるのを待ってから、私は彼に向かっていった。
「どれだけ待ったと思ってるの?用事があるなら用事があるって言ってよ!」
「いや、まあ、おっしゃる通りです」
「それに、下駄箱に靴がないから無視して帰っちゃったとも思ったんだよ!」
「それは~、まあ、体育委員の仕事をグラウンドでやったから、靴履き替えたんだよね……」
私はそこまで言って、むぅ~、と頬を膨らませて彼をにらみつける。
彼は気まずそうに顔を逸らした。
「それで……ぼくに何か用事があったなら、今聞くけど……それで問題ない?」
「……」
私は彼の気遣いに答えなかった。
それは、もういい!と突っぱねるような気持ではなく、ついにここまで来てしまった、という気分の高揚と緊張が、私をそうさせているのだ。
ああ、心臓の鼓動が早い。
きっと噛んでじゃうんだろうなあ、だなんて弱気な気持ちも湧いてくる。
でも、決心しだんだ。
そして、今チャンスがある。
私は言った。
「……結婚したい、でしゅ……」
あ~、噛んでしまった!
言ってしまった!
きっと今なにこいつ、おもっ!とか思われて引かれてて、今からきっと罵詈雑言を浴びせられるんだぁ~。
「あ~、えと……」
彼は右手を首筋に当てて首を掻きながら感嘆詞を並べてその次に行った。
「将来見据えすぎじゃない?ぼくまだ進路すら決まってないんだけど?」
「え、まあ……ダメ?」
苦笑しながら言う彼に、私は悲しい顔をして言った。
「いや、ダメってわけじゃないんだけどさ。その~、人生長いし世界は広いと思うんだけどって話……ぼく以外にもいい人と出会うんじゃないかなって……」
アハハ~と笑ってごまかす彼は、それを言った後、あ、と小さくつぶやいて私から目を逸らした。
「どうしたの?」
それにすぐさま私は疑問を向ける。
「いや、めちゃくちゃ言い方悪いけど、人生長いし世界は広いから、今のうちからキープ作っておこうって考えてぼくのこと選んだのかなって……」
彼は今度は苦笑せず私から目を逸らして言った。
「そんなわけないじゃん!」
私は大声を上げていった。
彼は驚いた顔で私の方を見た。
「本気であなたのことが好きだし、本気で結婚したいとも思ったの!だから……だから、本気で思いを言ったの!」
「……」
今の私の声を聞いて彼は、完全にやっちゃったなぁという顔をする。
私としては、全然気にしていないし、むしろそれで彼が私に対して悪いと思ってくれたのならば、それが少しでもこの告白に益をもたらすのなら、いいなあとすら思っている。
「ごめん、変なこと言った。それでその……」
そう言って頭を下げた彼は、少し口ごもって間をとってから言った。
「君にとっては、ぼくはこの上ないくらい素晴らしい人なのかもしれないけど、ぼくは残念だけど君のこと全く知らないんだよね。……だから、まあ、友達以上くらい?から、仲良くしてくれればって思うんだけど……」
彼はゆっくり噛まないように私に向かってそういった。
……これは、つまり……成功したってこと?
そう私が認識した瞬間、私の頭の中は歓喜の声であふれかえった。
その様子は筆舌に尽くしがたいもので、なんというか、その~、人生の2番目くらいに匹敵する喜びだ。
1番目?それは、もちろん、彼との結婚式だ!
「じゃあ……」
私は自分の頭が整理し終わってから彼に声をかけた。
「明日~、休日だから、どこか行かない?」
「え、うん、いいよ」
私はそれだけ聞いて、じゃあ、またね、と言って教室を出た。
これ以上一緒にいると頭から熱が出る!
そう思ったのだが、教室を出ても、歩いて熱を冷まそうとしても全く冷める気配はなかった。
そう、これから彼とどんどん右上がりに親睦を深めていくのだ。
私はそれが楽しみで、心躍らせ続けるのだった。
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