一番近くで君を見ていたから、一番君と幸せになりたい
幼馴染と同棲している青年は、他愛もない話をする、といった何気ない毎日を彼女と過ごす。それは彼女のモテる話だったり、コイバナだったり……。しかし、それを聞いているうちに彼は思うところがある。ぼくが彼女を一番幸せにできるんだと……。そんな時、とある出来事から彼女の本性を彼は目にすることになる。彼の思いはどうなっていくのか……。
ぼくには幼馴染、という人がいる。
もちろんそういう名前じゃない。
彼女とは小学校の授業参観で親が仲良くなった、と言うところからの付き合いだ。
家族ぐるみの付き合い、と言う方がわかりやすかったかもしれない。
そんな幼馴染と言う関係は、高校になって壊れた。
別に振られたわけでも、彼女に彼氏ができたわけでもないのだが……(逆も然りで)。
彼女の家族が転勤して外国に行ったのだ。
しかし、彼女はなぜかついて行くのを断固拒否。
結果として、ぼくの家族が彼女を家に置いている状態なのだ。
もはやこれは家族の一員であるといっても過言ではない。
そんな彼女は学校ではぼくと全く話してくれない。
いや、ぼくにかまっている暇などないのだ。
だって彼女は、それはそれはすごいモテてるし、女子の友達だって多いのだ。
悲しいことにどこぞの根暗とは違うのだ。
しかし、どうやら嫌われている、と言うわけではないらしくて、たまにぼくの部屋で雑談や相談をしてきたりする。
現在はその真っ最中である。
「もう~!ラブレター2通もいらない~。そんなもの送るくらいなら直接言って来いってのよ~!」
彼女はぼくのベッドの上で足をバタバタさせながらぼくにそう言う。
「直接言ったら付き合うの?」
「そんなわけないじゃん」
ぼくの言葉に、枕に顔をうずめていた彼女は真顔になってそういう。
「やっぱり~、私には理想の王子様像があるから~、それにはまってくれないとね~」
「例えばどんなの?」
「え~、君に言ってもしょうがないよ~」
「え、何それ。ぼくそもそも選考外?」
ニヤニヤしていった彼女にぼくは、多少びっくりしたリアクションをとってそういった。
「もっと悔しがれよ~」
ポコポコとぼくの背中を殴りながら彼女はそういった。
「いや~、ぼくはそういうのいいかなって」
「私、異性として見られてなかったりする?」
ぼくがおどけて言ったのに対して彼女はぼくの顔を覗き込んでそう言った。
「好きな人いるの?」
彼女は追い打ちをかけるように立て続けにぼくに質問する。
ぼくは顔を逸らして、適当に苦笑いする。
別に彼女に言うのが恥ずかしかったとかではない。
「いたとしても言わんだろ」
「協力してあげようか?」
「なににだよ」
「場を取り持つくらいには?」
「誰とだよ!」
ぼくがそうツッコミを入れると彼女は笑いだす。
ぼくはバツが悪くなったような顔をして彼女を見る。
「なに~?顔に何かついてる?」
さっきまで笑っていた顔はすぐにいつもの可愛い顔に戻ってぼくに彼女は言った。
「じゃあ、逆に言うけど、好きな人いるの?」
「ん~、いる!」
「……」
えへへ~、と笑って言う彼女を見てぼくは何も言わなかった。
多分、いや、本当に多分で根拠のない自信なんだけど……ぼくは君が好きだと思う人よりも君ことを幸せにしてあげられると思う。
「ん~?なんだ~?嫉妬してるのか~?」
「嫉妬してたら君のこと好きって言っているようなもんじゃない?ぼくに好きな人はいないよ」
「ん~、そっか。まあ、私の好きな人って私の理想の王子様像を満たしてる人だから……きっとどこかにいるでしょ!って言うのが答え合わせね?」
えへへ~、騙されただろ~、だなんてニコニコしながら彼女は言った。
「じゃあ、いないんだ」
「存在はしてるよ~」
「姿はわかってないじゃん?」
「……ん~?ちょっと安心した?」
「いや?そんなことないよ。ただ、君を幸せにするのは誰なんだろうなぁって」
「私の王子様かな?」
彼女はちょおとおどけてぼくにそう言った。
ぼくはちょっと胸をなでおろすと同時に、彼女の鋭い言葉にドキッとしたりもした。
変な汗をかかされてちょっと変な気分だ。
「じゃあ、もう私寝るから、おやすみ~」
そう言って、彼女は今いるぼくのベッドに横たわったまま毛布をかぶってしまった。
「じゃあ、ぼくは君の部屋で寝ようかな……」
ぼくがそう言って部屋を出ようとした瞬間、ドタドタドタと足音を立ててぼくの背中からぼくのお腹周りに彼女が抱きついてきた。
「じゃあ、私の部屋で一緒に寝る!」
「君がここにいるからぼくはしょうがなく、しょうがなく君の部屋にいくんだぞ?」
ぼくがあきれ顔でそう言うと、え~ケチ~、と言って彼女は自分の部屋に戻っていった。
もう、本当に手がかかるんだから……。
ぼくはそう思いつつも、抱きつかれたことにちょっとうれしさを覚えてベッドに入って寝た。
次の日になって、いつも通り別々に登校した。
わざと登校時間をズラしているのではない。
ぼくが早く学校に行ってもすることがないだけで、早くいく意味がないと思っているだけである。
登校してみて異変がすぐに起こった。
下駄箱の何かに何やら紙切れが入っているではないか。
いや、きれいな包装がされている……手紙だこれ。
きっと送り主を間違えたのだろう。
ぼくはそう思ったがどうやら違うらしい。
その手紙の右端にしっかりとぼくの名前が書かれているのだ。
流石のぼくでも、自分の名前くらいは間違えない。
その後、昼食時にトイレの個室に入ったぼくはそれを確認する。
内容は、技術室に放課後来てください、とのことだった。
タイマンを挑むなら確実に相手を間違えていると思うが、なんて思いながら、まさかなぁとも思いつつ、ぼくはそれをポケットにしまって個室を出た。
そして、そのタイミングで幼馴染の彼女と彼女がいつも喋らないであろう、あまり社交的でない印象を受けるクラスの文学少女が一緒にいるのを見つけた。
あまり見ない組み合わせに少し驚いたが、それ以上に何をするのか、なぜ二人でいるのか、と言うところの方が気になった。
そして、ぼくはその二人に気付かれないように後を付けて行った。
しばらく後を付けると、着いた場所は体育館裏。
いかにも、と言ったスポットだ。
そこで急に彼女は言った。
「彼の下駄箱に手紙、入れたよね?」
文学少女は恐怖で体が動かないのか返事はしなかった。
実際、今の彼女は笑顔でこそいるものの、にじみ出るオーラは憎悪そのものだった。
「彼は私のものなの。そう、私のもの。勝手に手を出さないでくれる?彼は、ずっと私のそばにいて、素敵で、かっこよくて、私のことを理解してくれて、私の全てを知ってくれている。あなたが付け入るスキなんてないの。彼に近づかないでくれる?」
さっきと打って変わって強烈な圧を放ちつつ、彼女は文学少女に言った。
文学少女は足がガクガク震えて、今にも泣き出しそうな状態だった。
「ねえ~?聞いてる?私の王子様に出だししないで?話、理解してくれたかな?」
文学少女はコクリとだけ頷いて、猛ダッシュでその場を離れていった。
不幸なことに、ぼくの方に走ってきたおかげでぼくの存在が文学少女のせいで彼女にバレてしまったのだが。
「あ~、アハハ~、見てた?」
苦笑でごまかそうとしながら彼女は言った。
「まあ……見てた」
「どこから?」
「……最初から」
「ん~、そっか……」
彼女は特別焦ったようなそぶりは見せず、むしろ冷静なままでいた。
不気味、と言うか今している笑顔はどういう意図なのか全くわからない。
「ねえ、好きだよ」
彼女は言った。
「……」
それに対してぼくは目を逸らして何も言わなかった。
「君の寝顔とか、私がじゃれついたときに見せるうれしそうな顔とか、私がわざとお風呂入る直前で服脱いでる途中に入った時の焦った顔とか、全部。そう、全部好きだよ」
「ぼくだって君のこと好きだよ。ずっと、前から。小学校の時、気兼ねなく話してくれたこと、誰にでも優しさを振りまけること、結構我慢できることだって知ってるよ?」
真摯に彼女が思いを伝えてくれたから、ぼくも彼女に思いを伝えた。
次の瞬間、彼女はぼくに抱き着いて泣きながら言った。
「重い女でもいいの?今までもこうやって他の邪魔な女消してきたんだよ?君が一人だったのは、私が男でも女でも近づけさせなかったからだよ?いいの?私幸せになっていいの?」
「君は今まで頑張ってきてたから、そういうことはわがままになってもいいんじゃない?」
ぼくは彼女に言った。
彼女はぐすっぐすっと言っているばかりでとても返事ができそうにはなかった。
「幸せにするよ」
ぼくがそういうと、一層彼女から涙が溢れ出てきた。
結果、ぼくの制服がぐちゃぐちゃになるまで彼女は泣き続けた。
しかし、最後には彼女は笑顔でいてくれたから、これから頑張ってこの笑顔を守っていこうと思えた。
ご読了ありがとうございます。もしよろしければ、評価やいいねをいただけるモチベーションにつながりますのでよろしくお願いします。また、こういうのが見たい、この短編の後日談、続編が見たい、等々ありましたら意見、感想をいただけると参考、検討させていただきますので、是非いただけると幸いです。では、次回作をお待ちくださいね~。ではでは~