朝食
朝食は、ベルティーナが運んで来てくれた。
部屋のガラス扉を開けると、テラスになっている。そこに、真鍮製のテーブルと椅子が二脚置いてある。
二階からの眺めは、なかなかのものね。
眼下にひろがる庭園には、色とりどりの花々がこれでもかというほど美しさを競っている。
なんとなくいい香りがする。
生まれ育った王宮の庭園には、その権勢を誇示するかのようにムダに銅像や石像や噴水が多い。
国を守った将軍とか偉大なる皇帝とかそういう銅像や石像ならまだしも、歴代の皇帝の肖像よ。
というわけで、庭園にはお父様の石像もあるわけで……。
縦の物を横にすらしたことのない、お飾り皇帝の石像なんて趣味が悪すぎる。
あるとき、耐えかねていたずらをしてしまった。
お父様は、頭がかなり残念である。と表現すると語弊があるかもしれないけれど、頭の毛がかなり残念な状態。
なのに、石像がお披露目されて驚いた。
石像のお父様は、髪の毛がふさふさしているのよ。
これはもう、ある意味詐欺だわ。
だから削ったりこすったりして、本物同様残念な頭の状態にしてあげた。
そもそも石像なんて不相応である。その上、真実からかけ離れすぎているんですもの。
でっ、なぜかバレてしまった。
わたしがやったと、大目玉を食らってしまった。
たしか、あのときには三週間の謹慎をくらったっけ?
なにせしょっちゅう罰をあたえられていたから、いちいち覚えていない。
そんな思い出はともかく、この皇宮の庭園には本来の意味での植物しかなくってシンプルで素敵だわ。
「うわあ!美味しそう」
ベルティーナがテラスのテーブル上に並べてくれたのは、オムレツにソーセージにキノコのソテー、色とりどりのサラダにドレッシング、それから二つある内の一つのカゴには四種類のパンが入っていて、もう一つのカゴには五種類の果物が入っている。ヨーグルトとチーズも添えられている。
甘い香りのする紅茶は、フレーバーティーね。
量もたくさんある。
もしかして、皇宮の料理人はわたしがたくさん食べるということを知っているのかしら?
「妃殿下、美味しそうじゃなく美味しいのです。ここの料理人たちは最高なのです。妃殿下がいらっしゃってくださったので、料理人たちはたいそうはりきっています。ですが、ここの料理人たちは、妃殿下が召し上がっていらっしゃったような高級食材を使うおしゃれな料理というのは、平素はあまり作りません。他国から貴人を迎えたり、何らかの行事のあるときくらいです。ふだんは、このようにシンプルな料理ばかりです。ですから、妃殿下のお口に合わないんじゃないかと、彼らはいまごろ厨房でヤキモキしているはずです」
感動だわ。
わたしの為に、そこまでかんがえてくれているなんて。
「とんでもないわ。わたしもシンプルな料理の方がいいわよ。じつは、わたしは料理が趣味なの。もちろん、食べる方が大好きなんだけど。って、そんな話はどうでもいいわよね。とにかく、お腹が減って死にそうだから、いただくわね」
わざわざ作ってくれた料理人たち、食材を作った人たち、こんなに素晴らしい糧をあたえてくれた神に対して、手を合わせて感謝することを忘れてはならない。
「いっただきまーす」
一心不乱という言葉通り、脇目もふらず食べた。とはいえ、ちゃんと味わいつつ。
美味しすぎる。どの料理も心がこもっている。
料理って食材よりも心なのよね。