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晩餐会

 晩餐会には皇太子とわたし以外に、第一から第三皇子とそれぞれのパートナー、官僚数名、そして、カナーリ王国からやって来ている使者が参加するらしい。


 参加者じたいの数は多くないので、大広間ではなく大食堂で行われる。


 大食堂へ行くと、すでに替え玉皇太子が待ってくれていた。


 皇太子は、わたしを見るなり髭面をプイと横へ向けた。


 髭、剃ればいいのに。

 彼の髭のない顔は、どんな感じなんだろう。


 ついついどうでもいいことをかんがえてしまった。


「殿下、お待たせいたしました」


 彼の側により、腰を落としてドレスの裾を持ち上げた。


 が、彼はかすかにうなずいただけである。


 いつも以上に不愛想よね。


 エスコートしてもらいやすくしようと、腕を軽く曲げてみた。が、彼は顔をそむけたまま固まっている。


「殿下っ!」


 そのとき、副隊長が皇太子を呼んだ。彼の体がビクリと震えた。が、すぐにわたしの腕に自分のそれを絡ませた。


 そして、彼にエスコートしてもらって大食堂に入って行った。



 双子のお兄様たち、それから宰相や外交官たちの顔ったらもう。


 すでに着席している彼らがわたしを見た瞬間、一様に口をあんぐりと開けた。


 母国にいるときのわたしの恰好や行動を知っている彼らである。いまのこのお淑やかな姿を見れば、驚くのも無理はないわよね。


 いつもだったら、彼らはわたしを揶揄ったり野次ったりする。だけど、いまはお姉様ってことになっている。


「美しくって性格もいい」という前提だから、彼らも何も言えない。


 そんな彼らの顔を、「どんなものよ。恐れ入ったでしょう?」という気持ちで眺めまわした。


 皇太子は、ちゃんと椅子を引いて座らせてくれた。


 並び座るわたしたちの向かい側は、双子のお兄様たちがおんなじ顔をしてわたしを見ている。


 とくに話が盛り上がるというわけでもなく、食事が進んでゆく。


 どの料理も完璧。一皿一皿を堪能した。


 最初こそ、ちょっとだけ緊張していた。だけど、それも食べている間にじょじょになくなっていった。


 そして、いよいよデザートが配られた。


 全員の前に西洋梨ペラのパイが置かれたタイミングで、わたしが作ったのだと自分で告げた。


 すると、双子のお兄様たちと外交官たちが、あからさまにイヤそうな表情を浮かべた。


 カナーリ王国にいるとき、料理やスイーツの練習はこっそりやっていた。知っているのは、料理長と数人の料理人だけである。彼らがそのことを他に漏らすことはない。


 いろんな意味で嫌われているわたしのことを話題にすることで、誤解を招く恐れがあるからである。


 わたしとは、いっさい関わり合いにならない。


 彼ら料理人だけじゃない。それが、宮殿で働く者たちの認識である。


 だからお兄様たちは、わたしがパイに毒を盛っているとかむちゃくちゃマズいとか、そんなふうに思っているに違いない。


 その証拠に「腹がいっぱい」だの「もう充分だ」、だのと食べることを拒否しはじめた。


 すると、第一皇子が絡みはじめた。


 晩餐会がはじまってから、っていうかはじまる前からお酒を飲んでいたであろう彼は、かなり出来上がっている。


「化け物皇太子のが作ったものだ。わがポリーニ帝国のもてなしを断るとは、いったいなに様だ

?」


 そんな内容のことを怒鳴りだした。


 呂律がまわっていないので、正直なところよくききとれなかったんだけど。


 当然、その婚約者の公爵令嬢も絡むにきまっている。


 というよりも、規模は小さくてもこの公式の場に、まるで奥方のような顔をしてしれっと参加している彼女もすごいわよね。


 いずれにせよ、一見擁護してくれているように思える。が、違う。


 結局、彼らは皇太子を貶めたいだけなのである。お兄様たちが「おもてなし」を拒否するということは、皇太子をなめている。皇太子をなめているということは、つまりこのポリーニ帝国をなめている。


 はやい話が、なめられている皇太子は不甲斐ない、と言いたいのである。


 正直、ムカついてしまった。


 お兄様たちや母国の外交官たちに対して、ではない。


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