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気合い入れます

「ベルティーナ、謝らないで。ほとんどが侍女長が勝手に選んで持たせてくれたものなのよ。わたしの好みや趣味じゃないの。あなたが選んでくれたものは、すべてわたしのお気に入りばかりよ。だから、そればかり着用してしまう。あなたのお蔭で、最新のドレスなんかよりずっと素敵になったわ。これだったら、皇太子殿下に恥をかかさなくってすむ」

「妃殿下、もっと自信を持って下さい。あなたは、この大陸一の美女なのですから。それに、内面だって素晴らしいのです」


 ちょっと待って!


 まだそんな噂を信じているわけ?


 あらためて心苦しくなってきた。いくらなんでも、これ・・が大陸一の美女に見える?素敵な内面だって感じられる?


 彼女は、そう思ってはいない。わたしに気を遣ってくれている。


 いまさらながら、嘘をついていることへの罪悪感に押しつぶされそうになってしまう。


 思わず、彼女にほんとうのことをいいそうになった。実際、口を開きそうになった。


 だけど出来なかった。


 一応、条約の調印は無事にすんでいる。だけど、いまカナーリ王国から嫁いできた花嫁がじつは偽物だったということが発覚すれば、条約なんて簡単に破棄されてしまう。


 いったん失われた信頼を取り戻すことは難しい。条約をふたたび結ぶことは出来ないかもしれない。結べたとしても、かなりの労力と時間が必要になる。


 しかも、それでなくってもカナーリ王国に不利な内容なはず。さらに不利になれば、大変な目に合うのはわたしたち特権階級ではなく王国の民よ。


 やはり、言えない。


 もう間もなくここから放り出される。それまではお姉様のふりを続けるべきよね。


 たとえ良心の呵責に苛まれ、罪悪感に押しつぶされようとも。


「ベルティーナ、ありがとう。とにかく、あなたのお蔭よ。皇太子殿下に恥をかかせないよう、皇太子妃をがんばって務めるわね」


 これ以上心苦しくならないように、言葉すくなめに応じた。


 それから、部屋を出ようとした。


「あの、妃殿下」


 扉のノブに手を掛けたタイミングで、ベルティーナに呼び止められた。


 体ごと向き直ると、彼女は距離を置いた位置から再度わたしの全身をチェックしてから大きくうなずいた。


「妃殿下、殿下のことをよろしくお願い致します」


 それから、そう言った。


「その、殿下は不愛想で不器用で、妃殿下をうまくエスコート出来ないかもしれません。ですが、けっして悪い方ではありません」


 ベルティーナ……。


 そこまで彼のことを愛しているのね。


 またしても胸の奥がチクチクと痛む。


「心配しないで。わかっているわ。それはそうよ。そうあって然るべきだわ」


 胸の奥の痛みは気のせいだと自分の中で言い聞かせ、彼女に微笑んだ。


 愛する女性以外の女性に愛想を振りまき、積極的かつスマートにエスコートすることの方がどうかと思うわ。愛する女性がいることをかんがえると、わたしに対しては不愛想かつ不器用であって当然。


「はい?それは、どういう意味でしょう……」


 彼女が何か言いかけたけど、いたたまれなくってさっさと彼女に背を向け部屋の外に出てしまった。


 あいかわらず、近衛隊のメンバーが部屋の外で控えてくれている。


 部屋から出た瞬間、彼らは戸惑ったようにお互いの顔を見合わせた。


「あら?どこかおかしいかしら?」


 いつもだいたいシャツにスカートかズボンという、ラフな恰好をしている。だから、こんな恰好を見せるのは気恥ずかしい。


「あ、いえ。とてもお美しいです」


 副隊長がお世辞を言ってくれた。顔をひきつらせながら。


 気を遣わせてしまって申し訳ないわよね。


 さあ、行くわよ。


 たかだか食事に行くのに、これだけ気合いを入れるってどうよって感じよね。


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