ベルティーナの腕前
姿見の前に立ち、クルクルと回転してみた。
ドレスも靴も装飾品もバッグも、ベルティーナが選んでくれたのである。
一応、お姉様が嫁いできたことになっている。当然、嫁ぐ前にお姉様用のドレスや靴、装飾品が準備された。
正直なところ、それらはわたしの好みとはかけはなれすぎている。
わたし自身はフォーマルドレスだけでなく、普段着用のドレスもシャツもスカートもズボンも、見る人に不快感を与えない程度の物でいいと思っている。
公式の場だったら、王族としての品格を貶めない程度の物かしら。
それに、そういったものに執着心もない。さらには、多くは必要ない。
お姉様のように、胸元のカットが目を覆いたくなるような「バーン」となっているのとか、あざやかすぎて目が痛くなるようなド派手な色とかは好きじゃない。そして、一回着用しただけであたらしいデザインとか流行の色とかが欲しくなったりもしない。
公式の場への出席が重なったとしても、二着あれば事足りる。そして、クリーニングやメンテをしてもらえば、いくらでも着まわせる。
太ったり痩せたりはあるけれど、それも仕立て直し出来る。
つまり、持って来たお姉様用のドレスは、わたしにはまったく合わないのである。っていうよりかは似合わない。それに、着たいとも思わない。
嫁ぐ直前のことである。お姉様が「ドレスは置いていけ」、とわがままを言いだした。
ドレスは「自分が着用するから」、と。
一応、お姉様は高嶺の花的存在の花嫁である。そして、カナーリ公国は裕福すぎるわけではないけれど、貧乏すぎるわけでもない。
体裁を整える必要があることは言うまでもない。わたしが持っている数着のドレスだけで嫁入りなどしたら、貧乏くさすぎてポリーニ帝国の人たちに笑われてしまう。
だから準備してくれた衣服すべて、お姉様に無断で持って来た。
馬車に積み込むよう、侍従にお願いしたのである。
おそらく、お姉様はこのことを怒っているでしょう。
まあ、どうでもいいんだけど。
お姉様用のドレスもだけど、自分の分も持って来た。
普段着は、やはり自分のドレスやシャツやズボンじゃないと。
ベルティーナは、ムダに数あるドレスの中から選んでくれたわけである。
それはなんと、お姉様の為に準備されたあたらしいド派手なドレスではなかった。わたし自身が持っていて何度も着用している、淡い青色のフォーマルドレスだった。
それは、デザインも色も時代遅れで、何度も着用しているということが一目でわかるほどくたびれているドレスである。
内心で驚いていると、彼女はドレスと同じ色のバラを胸元とスカート部分に飾ってくれた。
思わず、そのアイデアにクラクラしてしまった。
もちろん、立ち眩みとかめまい系のクラクラではない。
素敵で斬新なアイデアだったからである。
「すごいわ、ベルティーナ。あなた、天才だわ。こんな素敵なドレスなら、こんなわたしでも公式の場に出てもみっともなくないわね」
「恐れ入ります」
ベルティーナは控えめすぎる。いまも照れ笑いを浮かべつつ、化粧道具やわたしが脱ぎ捨てた衣服を片付けてくれている。
「だけど、どうしてこのドレスと靴なの?」
母国から持って来ているのは、お姉様の為のドレスや靴や装飾品がほとんどである。それなのに、彼女はわざわざクローゼットの端っこにひっそりと掛かっているわたしのドレスを選択し、靴や装飾品を探し当ててきた。
「どうしてでしょうか?ほとんどのドレスが、素敵なデザインですし色合いです。ですが、そのどれもが妃殿下のイメージとはかけはなれている気がするのです。あ、申し訳ありません。所持されているのは、妃殿下が選ばれたドレスや靴ですよね?」
彼女は、いまはドレスの裾を直してくれている。直しながら、そう謝罪してきた。
やはり、彼女は違うわよね。ドンピシャすぎる。
なにより、わたしの性格とか好みを的確にわかっている。
まだそんなにいっしょにすごしているわけじゃないのに。
だけど、身代わりだってバレるからいまのわたしの感動を彼女に告げることは出来ない。