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替え玉皇太子と朝食を

「妃殿下、朝食はそちらのテラスにご用意いたします」


 主寝室、つまり皇太子殿下の部屋のテラスね。


「ありがとう。思いつきのことでごめんなさい」


 寝台から立ちあがり、主寝室に向かいかけた。思いなおしてテラスからそのまま行こうとガラス扉の方へと向かう。


「あの、妃殿下……。皇太子殿下は、その、とても不愛想なのですが、悪意があってのことではございません」


 ベルティーナが、背後で言いにくそうに口を開いた。


「ああ、いいのよ。大丈夫。当たり前でしょう?わたしは気にしないから。でも、せっかくだからいっぱい話しかけるかもしれないわ。だけど、けっして変な気持ちを抱いているわけじゃないから安心してね」


 当然よ。愛する女性の前で他の女性に親し気にする方がおかしいわ。


 いくらわたしが子どもっぽくって女性らしくなくってもね。


「は?妃殿下、いまのはどういう意味で……」


 ベルティーナに呼ばれた気がした。ちょうどガラス扉を開いたタイミングだったから、小鳥たちのにぎやかなお喋りが邪魔をしてよくきこえなかった。


 まっ、いいわよね。


 そして、テラスへと出た。


 替え玉皇太子もちょうどテラスへ出てきたところである。


 主寝室と続き部屋の間には当然壁と扉があり、隔たれている。しかし、テラスにはいっさい仕切りがない。

 それぞれのテラスに、真鍮製の丸いテーブルと椅子が置いてある。


「おはようございます」


 まずは人間ひとして、当然身についているはずの作法である挨拶をした。


 最初に会ったときですら、二人の間は遠かった。いまの方がまだずっと近い。


「……」


 が、彼は無言のままである。かすかにうなずいた気がしたけど、目の錯覚だったのかもしれない。


 ワオ……。


 間近で見たら、彼はさらにさらに大きい。


 聳え立つという表現と、ごついという表現(それ)がピッタリである。


 わたしは小柄である。だから、並んで立ったら最悪なことになるわ。


 どうしようもなく小さく見えてしまう。


「殿下、急なお誘いに応じて下さってありがとうございます」


 替え玉皇太子に、にこやかに話しかけてみた。しかし、彼はきいているのかきいていないのか反応がない。


 顔面髭だらけだから、表情が余計にわかりにくい。


 先程、庭園でベルティーナに見せていた笑顔。あれは顔全体がやさしかったし、うれしそうでもあった。


 やっぱり、愛する女性ひとでないとダメなのね。


「お待たせいたしました。皇太子殿下、妃殿下、すぐにご用意いたします」


 その彼の愛する女性ひとであるベルティーナが、ワゴンを押して主寝室からテラスへと出て来た。


「お二人とも、どうかおかけ下さい」


 彼女に促された。


 そうよね。二人してぼーっと突っ立ったままというのもおかしいわよね。


「皇太子殿下っ」


 そのとき、ベルティーナが大声で替え玉皇太子を呼んだ。


 彼女のいつにない大きな声に、体がビクッとしてしまった。


「そ、そうか……」


 驚いたのはわたしだけではなかった。替え玉皇太子は、口の中で何やらつぶやいた。それから、あいかわらず無言のままテーブルをまわってこちらにやって来た。

 真鍮製の椅子をひき、座らせてくれた。


「ありがとうございます」


 いくらかりそめというか偽装というか、あるいは期間限定カップルというか、真実はそんな関係であっても、表向きは夫婦ですものね。必要最低限のエスコートはしてくれるわよね。


 座りながら彼にお礼を言うと、彼はうなずくことすらなく自分の椅子の方に戻って座った。


 ベルティーナが料理やパンや紅茶やジュースを、サササッと並べてくれた。


 今朝もとっても美味しそう。

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