二人をくっつけなくっちゃ
ベルティーナは、いつもの時間にやって来た。
それまで寝台の上にゴロンと横になり、ついさっき庭園で自分が目にしたことを悶々とかんがえていた。
「あら、妃殿下。今朝はお寝坊ですか?」
ここのところそうであるように、彼女は今朝も胸元に花束を抱えている。
黄色いバラが三本入っている。
間違いない。
先程、替え玉皇太子が渡していた花束の中に、黄色いバラが三本あった。
なるほどね。
ベルティーナは、自分が替え玉皇太子からもらった花束を、わたしに譲ってくれているわけね。
だから、わたしが庭師に会いたいと言っても、会わせてくれなかったんだ。
そう結論付けると、すべてが符合する。
彼女に気を遣わせてしまっている。
心から申し訳なく思ってしまう。
わたしに嘘をつかせてしまっていること。それから、愛する人からもらった花束をわたしに譲ってくれていること。
二人のあの親密さはただならない。おたがいがおたがいを愛している。
それがイヤというほどよくわかる。
最初の日に替え玉皇太子から「愛せない」発言をされたけど、替え玉だからという以上にベルティーナのことを愛しているからよね。
「寝坊じゃないの。二度寝、かしらね。レシピをかんがえていたんだけど、行き詰まっちゃって。でっ、気分転換に寝転んで瞼を閉じていたわけ」
「ふふっ、二度寝の斬新な表現方法ですね。では、妃殿下。二度寝から目覚めて朝食を召し上がられますか」
「もちろん。お願いしていいかしら」
「承知いたしました」
「あっ、待って。今朝は、皇太子殿下はいらっしゃるのかしら?」
「はい。すでに起床されていらっしゃいます」
「だったら、朝食をご一緒出来ないかしら。晩餐会のデザートのことで、どういうスイーツを召し上がられたいか、参加される皇太子殿下に意見をきいてみたいの」
「本当ですか?」
ほんの思いつきである。
替え玉皇太子にも侍女はいるだろうけど、ベルティーナに給仕をやってもらったら、二人一緒にすごすことが出来る。
とっさにそう思いついた。
「ぜひともそうなさってください。わたしもうれしいです。さっそく、皇太子殿下にそのように伝えます。すぐに準備いたしますね」
「あっ、ベルティーナ。もしかしたら嫌がられるかもしれないから、あくまでも晩餐会のデザートの意見がききたいということを強調しておいてね」
「はい」
ベルティーナったら、すっごくうれしそう。
もっと早く気がついていたら、と思うとよりいっそう申し訳なく思ってしまう。
部屋を意気揚々と出て行く彼女の背中を見ながら、ふと思った。
先日の第一皇子とその婚約者は、替え玉皇太子に対してほんとうの皇太子のように振る舞っていた。
ベルティーナも同様に、本当の皇太子に対するように振る舞っている。
ということは、彼は双子なの?だったら腑に落ちる。外見が同じなら、だれだって見分けがつかないでしょう。
どちらがほんものの皇太子でどちらが偽物なのか、見破ることは難しいかもしれない。
お兄様たちだって双子で、家族やほんとうに親しい人以外は、どちらがどうかわからないんですもの。
なるほど。そういうことね。
結論付けると、スッキリした。
さしあたって、替え玉皇太子とベルティーナをわずかな間でもいっしょにすごさせてあげなくっちゃ。
先程の話からすると、ベルティーナは替え玉皇太子のことを替え玉と知っているのかしら。そうと知っている上で、替え玉皇太子のことを愛しているのかしらね。それとも、彼女は替え玉とは知らず、皇太子として愛しているのかしら?
ビミョーよね。
それにしても、あの大男が花を摘んで愛する人に贈るって、いろんな意味でびっくりだわ。
っていうよりかは、女性をあれだけ溺愛出来るんだ。
そのとき、扉がノックされ。
ベルティーナが戻ってきたのである。