皇太子って前に結婚していたの?
昼食もテラスで食べた。軽くサンドイッチや果物である。
さて、と。
お昼から何をしようかとかんがえようとしているのに、気がつけば先程の第一皇子とその婚約者との会話のことを思い出してしまっている。
訂正。向こうが一方的に喋るのをきいていた、よね。
まず、第一皇子よね?彼がお酒に依存しているか溺れているかは別にして、彼は第一皇子なのよね?
皇太子って、通常は第一皇子がなるものじゃないの?
すくなくとも、うちは第一王子であるお兄様が王太子になった。とはいえ、王子は他に双子の弟しかいないんだけど。
どちらにしても、知るかぎりでは他の国もだいたいそのはず。それから、小説に出てくるような国々もだいたいそうだわ。
架空の世界なら、第一皇子とかが出来が悪すぎるから、それ以外の皇子や王子がなるというストーリーもあるけれど。
そういうストーリーって、第一皇子をさしおいて皇太子になるのは、たいていは母親がお手つきの子とか身分が低いとかで幼少から蔑まれているのに、本人の能力がとってもすごいからなのよね。お手つきの子で、周囲から蔑まれたり反発されながら立派な皇太子になる。
そんなストーリーは、王道よね。
まさか、ここの本物の皇太子ってそのパターンなのかしら?
お酒命っぽい第一皇子ですもの。どうかんがえても、皇太子は不適格でしょう。
ランチ後の紅茶を飲みながら、とりとめのないことをかんがえている。
二羽の小鳥が、テラスの手すりにとまった。
今朝のことを思い出した。
小鳥たちが、山のようにでっかくていかつい替え玉皇太子の手の上で羽を休めていたっけ。
『皇太子のあたらしい嫁というのはおまえか?』
わたしを見た、第一皇子の第一声がそれだった。
たしかに、そんなことを言ったわよね?
あたらしい嫁?
フツーは「皇太子の嫁というのはおまえか?」、もしくは「皇太子に嫁いだのはおまえか?」って尋ねないかしら?
「あたらしい嫁」ということは、以前にも嫁がいたことにならない?
副隊長が咳ばらいをしたので途中からよくきこえなかったけど、公爵令嬢は「あんな人に嫁ぐなんて。彼女で何人目」っていうようなことを言っていたような気がする。
ということは、やはりこれまでに何人か嫁がいるわけよね。もしかして、側妃でもいるのかしら?
だけど、それだったら正妃とか正妻とか、表現しないかしら?
仮に側妃ではなく正妃が何人かいたとして、すべて離縁とか死別とかしているわけでしょう?まぁ、彼らの言い方からすれば、死別はなさそうね。離縁っぽい気がする。
じゃあ、すべてあの替え玉が夫婦のふりをした後に離縁をしているの?
わたし同様、これまで何人かのレディが替え玉発言され、ほとぼりが冷めたら離縁されているの?
このポリーニ帝国とわたしの母国カナーリ王国とでは、わたしの母国の方が弱い。もう間もなく締結するはずの条約は、わたしの母国の方が不利になる条項も幾つかあるらしい。
わたし、ではなくお姉様は、いわばその条約を承諾する為の人質である。承諾しなければ、お姉様がどうなるかわからない。もしかすると、武力も行使されるかもしれない。
だからこそ、世間的に評判のいいお姉様が人質同然で嫁ぐことに決まったのである。それも、ポリーニ帝国が強制したわけではない。あくまでも、お父様が自発的に決めたことである。
もっともお父様は最初から愛する娘、つまりお姉様のことだけど、彼女を嫁にやるつもりなどなかった。
身代わりにわたしをやるつもりでいた。
あらためてかんがえると、ムカついてきた。
それだったら、最初からわたしをやればよかったじゃない。
ああ、そうだったわね。
わたしの評判は、この大陸で一番悪いんだったわ。
お姉様とは正反対。
そんなわたしが嫁いできたところで、ポリーニ帝国
ひいては皇太子にとってはただの嫌がらせでしかないわよね。
条約が白紙に戻ってしまうかも。
だけど、嘘がバレるよりよほどマシだと思うのよね。
ダメダメ。脱線しちゃった。
お姉様やわたしのことじゃない。
皇太子、ではなくその替え玉のことよね。