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第002話

 風呂場のマットの上にしゃがみ込んで下腹部に力を入れると、さきほど体を重ねた男の精液が出てきた。二度も出されたため、その量はいつもより多かった。どろっとした液体が糸を引いて陰唇から垂れてきて、水色のマットに広がっていく。シャワーを手に取ったコメットは、さっさとそれを排水口に流してしまった。

 そのままそこにシャワーを掛けながら、指を突っ込む。今日の男が出した精液を掻き出すように、そして男の痕跡を全て洗い流すように、乱暴に手洗いしていく。ひとりになった瞬間に性器周りの感覚器官はほとんど切ってしまったので、コメットはそれを痛いとも、気持ちいとも思わない。膣の内壁に指が触れているということ意外、なにも感じていなかった。いつもどおりのルーチンだ。

 おおかた掃除をし終わると、シャワーをフックに戻し、頭から被る。髪がしっとりと濡れてきて、少しずつ重くなっていくのを感じた。

 シャワーを止め、前髪を掻き上げる。時計をみると、午前二時を少し過ぎたところだ。お客さんが来ないことも考えられるが。店は営業中だから、まだ帰り支度するには早いだろう。

 二年前、「アンドロイドにも人権を!」と立ち上がったアンドロイド等がいた。最初は小さなデモだったが、やがてそれは大きなコミュニティになり、月面のティコ・シティーをまるまる占拠するかたちにまで大きくなってしまった。人間とアンドロイドの溝はついには修復不能な段階にまで発展し、世界中……いや、人類の活動圏全てを巻き込む戦争に発展した。幾万、幾億ものアンドロイドと人類が犠牲になった後、アンドロイドが負ける形で戦争は終わった。戦後処理のさなか、一部とはいえアンドロイドにも様々な自由が許されるようになった。戦中に製造され、亡命するような形で地球にやって来たコメットからすれば、非常にありがたいことなのだが、それを良く思わない人間がいるのも確かなのだ。

 そして、戦争によって一度社会に根付いてしまった偏見や嫌悪はなかなか簡単に消えるものではない。最後の頼みだった軍人等にしても、最近は慰安用のセクサロイドが導入されたらしく、わざわざ金の掛かる風俗店には来なくなってしまった。この風俗店だって人間のために働くアンドロイドが集まっているというのに、人間等はこちらを見ようともしなくなってしまったのだ。

 それを物語るように、次々に他のアンドロイドたちも店をやめていった。職業選択の自由が許された今となっては、わざわざ人の入らない風俗に勤める理由はない。今この店で働いているのも、ここのオーナーであるメアリーとコメットを除けば二人のセクサロイドがいるのみだ。

 さっと体を流すと、コメットは浴室を後にした。びしょびしょの体をまま部屋を横切り、部屋の隅に丸まっていたタオルで体を拭いた。

 突然、ベッドの側に置いてある電話が鳴った。コメットはタオルをその場に落とし、一糸まとわぬ姿のまま受話器を取った。

「はい、コメットです」

「今大丈夫かしら?」

 メアリーからだった。

「お客さんも帰られて、今かるくシャワーを浴びていたところです」

「そう。じゃあ、着替えたら受付のカウンターに荷物と一緒に来てくれる? 大事な話があるの」

 荷物をまとめてと言うことは、ついにそのときが来たと言うことなのだろうか。

「分かりました」

 コメットが返事をすると、メアリーは黙って電話を切った。

 大事な話。わざわざメアリーが電話してきて声を掛けるということは、よっぽど大事な話なのだろう。その内容も、このお店の置かれている状況を考えれば、おおよそ想像できる。

 どのみち、メアリーをあまり待たせるわけにはいかない。タオルで残った水分を拭き取りながら、部屋に散らばったコメットの服を足の指を使って近くへと集めた。

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