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フラーレンは振られない  作者: フィボナッチ恐怖症
3/5

3話 雪島

「ぼくに彼女は......」


 よし、決めた。


「いるよ」


 そう言ってぼくはチラッと小山さんの方を見る。しかし、その時には小山さんはもうこっちを見ていなかった。


「まじか......」


 雪島はまさかそんなはずはないと思って聞いていたようだ。


「だれだ? 誰なんだ?」


「ちょっとそれは言えないかな」


 ここで言いふらされても困る。それに、小山さんは今日一日学校では一度も話しかけにこない。つまりは、人とは関わり合いたくはないのだろう。


「もしかして、彼女なんていないのにやんわり断ろうとしてるわけじゃないだろうな?」


「違う違う」


「じゃあなんで言えないんだよ」


 雪島の声が少し大きくなる。


「プライバシー的にダメだから......お願い、引いて」


 何をされるかわかったもんじゃない。けれど、彼女が小山さんということだけはバラしてはいけない気だけがすごくするのだ。


「そっかぁ。なら仕方ない。またの機会に迫りに来ることにするよ」


「できたら、やめて欲しいけど、気持ちは嬉しいかな」


「くそっ。勝者ぶりよって。いつか惚れさせてやる」


 そう言って雪島は去って行った。


 さて、帰るかな。学校では小山さんはきっと話してくれないだろうし。

リュックを背負って教室から出ようとすると、


「ちょっと待ってよ。何で置いていくのさ」


 ん?


「小山さん。ここ学校だよ」


「いや、そりゃ見りゃわかるわよ」


 未だに小山さんが話していることに違和感がある。


「話してるところ見られてもいいの?」


「今、教室には誰もいないし、話してるだけだったら別に1人2人に見られても何の問題もないだろ?」


 それもそうか。

1人で納得していると、


「で、なんで彼女いるとか言っちゃったわけさ?」


「いや、だってさ、嘘つけないし......」


「いや、今嘘ついてるだろ?」


 ばれていたらしい。


「えっと、あの、その、小山さんに不誠実かなって思ったから......」


 恥ずかしくて声が尻すぼみになってしまう。


「そうか。顔が赤いぞ」


 少し下を向きながら左手を口元に添えて、クスクスと小山さんは笑う。

一瞬、小山さんの頬が赤くなってるように見えた。けれど、左手が邪魔でよく分からない。


「それでだ。彼女いるとか言ったらこれから先、人に告白できなくなるってことちゃんと考えたんだよな?」


「あ」


 間抜けな声が出てしまった。


「まったく。何をしてるんだか」


 やれやれという感じで小山さんはこちらを見る。


「で、雪島がフラーレンに彼女がいるってことを言いふらしたらどうするんだ?」


「他校の生徒ならいけると思う」


「それはどういう意味のいけるなんだか。それはいいとして、他校の生徒とどうやって絡むわけさ。ここから一番近い学校、15キロくらい離れてるけど」


「確かに、それも現実的じゃないね」


「とりあえず、明日になるまで待ってみるのが吉だと思うぞ」


「そうするよ。それじゃあ」


 ぼくは手を小さく胸の前で上げて、それから教室を出ようとした。


「ちょっと、ちょっと待ってよ......」


 小山さんがぼくのカッターシャツの袖をくっと掴む。


「え?」


 小山さんはそのまま右手首を掴んできた。

急な出来事でぼくはとても困惑する。


「ど、どうしたの?」


「き、北村君」


「きゅ、急に本名で呼び出して、ほ、ほんとにどうしたの?」


「弁当箱、忘れてるよ」


「へ?」


「ふふふふ。あははは。あーおかしっ」


 めっちゃからかわれた......


「心拍数すごい高いよ」


 小山さんがつかんでいるぼくの右手首を見ながら生き生きと言ってくる。


「はい。弁当箱」


 小山さんはぼくに弁当箱を手渡す。


「それじゃあね」


 小山さんが小さく手を振る。


「また明日」


 そう言ってぼくは教室を出た。




 翌日。学校に来るのが少し早くなった。原因は5時に鳴った目覚まし時計だ。お母さんが設定を変えたままほったらかしにしたからだ。

教室には小山さんしかいない。


「小山さん、おはよう」


「おはよう」


 ......気まずい沈黙が流れる。

ぼくは話上手ではない。それはきっと小山さんだって同じはずだ。


「小山さん毎日早いよね。いつ頃来てるの?」


「えっと、今から1時間くらい前だと思う」


「はや」


「なんでそんなに早いの?」


「......」


「急にどうしたの?」


 小山さんは廊下の方を指さす。

廊下の方からガヤガヤと騒がしい声が聞こえてきた。


「なるほど」


 ぼくは自分の席に移動する。


「お、北村。今日は早えな」


「あれ、沢高くん。ぼくのことなんか気にしてたんだ。さすが委員長だな」


「まぁな。普段は俺が一番だからな」


「え? 普段より1時間以上遅いってこと?」


「いや。俺は平常通りに来たぞ」


 ん? どういうことだ? 小山さんがいるはずなのに。


「小山さんがいつも一番に来てるんじゃないのか?」


「小山さん? そんな人クラスにいたっけ?」


「ちょっと待ってて」


 ぼくは教卓の引き出しから名簿を引っ張り出してくる。

そして、小山沙耶と書いてあるところを指さす。


「ほら、いるでしょ?」


「確かにいるな。でも、どこにいるんだ?」


「ほら、あそこに」


 そう言って指さした先に小山さんはいなかった。


「おかしいな」


「まぁ、なんでもいいか」


 そう言って沢高は去っていく。すると、小山さんが教室に入ってきた。

もしかすると、目立ちたくないのかな......


「ねーねー北村」


 この声は雪島だな。


「私と付き合わない?」


 どういうことだ????


「すまない。無理だ」


 できるだけ冷静に返答する。


「なんでだよ」


「なんでもだって」


「そうか。なら、また放課後にでも」


「やめて。そんなことされたら本格的に拒否ることになるから」


「う、分かった」


 そう言って雪島は去っていった。


キーンコーンカーンコーン


 授業が始まった。

数学の教科書を開くと紙切れが入っていた。


 騒いでいたら、おとなしい子からは嫌われるかもよ。


 そう書いてあった。

確かにそうだ。それなら実行は簡単そうだ。

善は急げだ。


「先生! お腹が痛いです!」


「そうか。がんばれよ」


「先生! お腹が痛いです!」


「で、どうしたいんだ? 北村は」


「別に、ただの報告です!」


 その瞬間、教室に笑いが起きる。


 そんな調子でぼくは一日中暴れまわった。

その結果。職員室に呼ばれた。


「どうした、北村」


「いや、あの、そのですね、」


「今日は早く帰って寝ろ。新しい病気かもしれん。今まで、問題行動一回も起こしていなかったから、何かの以上かもしれん」


 先生が優しくて助かった。

教室に戻ろ。教室には一人だけ女の子がなぜか残っていた。北本由香だ。


「あ、あの、これ......」


 そう言って北本さんはぼくにプリントを渡してくれた。名簿が一個違いだったからだろう。

ホームルーム前に呼び出し食らってたからな。


「ありがと」


 そそくさと北本さんは帰ろうとする。

そうだ。


「北本さん。付き合ってくれない?」


「あ、え、あ、あの、え、えと、え、」


「おい、何してんだよ。北村。彼女いるんじゃないのか?」


「雪島!?」

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