1話 初めての告白
新連載です。もしよければ見ていってください!
「好きです。明日も明後日も明々後日も10年経っても100年経っても好きです。付き合ってください」
「いや、無理」
「え、なんで......?」
「興味ないから」
「それだけ?」
「それだけ」
こんなことがあったんだ、と友達の山内が言ってきた。彼は僕とはとても仲が良いため、何も隠すことなく話してくれたんだ。
「フラーレン、ほんと、酷いと思わないかぁ......?」
泣きそうな声で山内がぼくに同意を求める。
「まぁ、そうだな」
「あ? ほんとに分かってんの?」
「ま、まぁ」
一転して山内の語気が荒くなり、自然とぼくの声が小さくなっていく。
「まぁ、お前は俺と違ってシュッとしてるし、見た目もいいもんな。分からないよな。どうせ振られたことないだろ? 同情するのは振られてからにしろよ!!」
「お、おい......」
山内がそう言い捨てて椅子から立ち上がり教室から出ていく。
すぐ次の授業が始まるのに。
キーンコーンカーンコーン
授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、ドタドタと足音を立てて山内はぼくの後ろの席に戻ってきた。
「何してるんだよっ」
明るく話しかけてみるが、山内は何も言ってこないどころかぼくから目を背けてしまった。
何がいけなかったのだろう......?
ぼくは先程の会話を思い起こす。いや、やっぱりぼくに非はないよな。同情してほしそうにしてたのに、したらしたでキレてくる。
けれど、
(改行しない)山内の態度は冗談では済まなさそうだし、小学校に入って以来、もう10年の付き合いだ。何もしないわけにはいかないかな。こんなモヤモヤしたままなのは嫌だしね。
そうだ。
「......たむら? 北村?」
「はいっ! 思いつきました」
「そうかそうか。それなら、この問題を解いてもらおうか」
......へ?
気づいたら数学の発展問題の一番難しいやつを解くことになっていた。
「なぁ」
振り返って山内に聞こうと思ったがやめた。
「先生、やっぱ思いついてません」
教室から笑いが起こる。けれど山内は笑っていなかった。
「まったく。ぼーっとするのは大概にしておくんだぞ」
先生の邪魔が入ったが、いい案を思いついた。
誰かに告白して振られてみよう。
そうすれば、山内の気持ちも分かるかもしれない。
きっとそうだ。それが最適解だ。
当てられた問題では最適解は出せなかったけど。
キーンコーンカーンコーン
授業が終わり、放課後になった。
善は急げだ。とりあえず、誰か今まで話したことのない人に告白して、早く振られよう。
ぼくは教室内を一周ぐるりと回り、一人にターゲットを絞った。
小山沙耶。いつも教室の隅っこに一人でいて、誰とも話している印象はなく、それでいて一人で何をしているかというと何もせずにどこか遠くを見ているような人だ。
いったん深呼吸をする。ぼくは恋愛をしたことがない。だから、告白と言ってもよく分からない。けれど、なぜだか鼓動が速くなる。
「あのさ小山さん話したい事があるんだけど来てくれない」
やってしまった。まったくトーンの変わらない棒読みのような言葉。
小山さんは何も話さない。聞こえているのかすら怪しい。
「おーい。おーい」
何の反応も返ってこない。人選をミスったようだ。また、別の人にしよう。
ぼくは、帰り支度を済ませて、教室を出る。
ぼくの下校ルートはいたって単純だ。校門を出て、そのまままっすぐ。以上だ。
ゆっくりと考え事をしながら歩いていると、後ろにピッタリとついてくる気配があった。
振り返ってみると、目線の少し下に、小山さんがいた。
「あ、また会ったね」
やはりなにも返ってこない。
再び前を向いてぼくは歩き出す。
「ね」
「ん?」
「用事あるんでしょ?」
小山さんが話しかけてきた。初めて声を聴いた気がする。落ち着いた声というより、やんちゃな感じがする。意外だ。
「まぁ。あるかな」
「何?」
「えっと......」
心の準備をさっきはしていたけれど、まさかのタイミングで戸惑う。
「山内と喧嘩したんでしょ? あんた」
「よくわかったな」
「それはいいとして、要件は?」
よし、今ならきっといける。
「付き合ってほしいんだけど」
「いいよ」
「え? 嘘。いいの?」
「いいよ」
ちょっと待て待て。脳の処理が追い付かない......
「いや、え? 振らないの?」
「なんで告った方がきょどってんのさ」
逆に何で落ち着いてるんだ? 付き合うって、結婚するってことになるんじゃ......
「顔が赤いぞ」
顔に触ってみると、ぼくのとは思えないくらいにとても熱かった。
「ふぅ」
いったん息を吐いて、体のほてりを覚まそうとしたが、無駄だった。まだ熱い。
「な、なんでオッケーしてくれたの?」
「お前、私のこと好きじゃないだろ?」
「ほぇ?」
変な声が出てしまった。
「だけど、誰かにやらされてるわけではなさそうだ。こっちが切り出すまで何もできなかったわけだからな」
「ほへぇ」
「いつまでぽかんとしてるのさ。聞かせてくれよ。何が目的だったのか。私は人の素性が分かるまでは基本話しかけない。だから、こんな珍しいことはないんだ。いや、珍しいどころか、はじめてだな」
なるほど。何もしてなかったというより、人を分析している途中だったわけだ。で、誰の素性も完璧に分かることは不可能に近いから話さないわけだ。なぜ、そんな性格になったのかは今は触れないでおこう。
「振られたかった。ただ、それだけ」
「は?」
「だから、振られたかっただけだよ」
そこから、ぼくは10分ほどかけて、山内との喧嘩の詳細を包み隠さず話した。人に話しかけない小山さんなら問題ないと思ったからだ。
「まだ、不可解だが、いったん飲み込んだとして、お前はただ振られたい。面白そうだ。人間観察の対象として、その様子を見てみたい。お前が振られる様を」
「お前っていうのなんかやめてほしいかな」
なんとなくぞんざいな扱いを受けているみたいで、いい感じはしない。
「じゃあ、フラーレンと呼ぶことにしようか」
「それ、山内がぼくにつけてくれたあだ名じゃないか」
「いいあだ名だな」
フラーレン。それは、科学の授業の時にフラーレンのことを間違えてプラレールと呼んでしまったことがきっかけだ。
普通それなら、プラレールな気もするけど。
「よし、フラーレン。お前に振られ方を教えてやろう。私はおま......フラーレンの彼女だから、お前には振られてほしい」
「まだ、付き合ってることになってるの?」
「フラーレンが告ったんだから、責任とれよ。な?」
小山さんの笑っている顔を初めて見たが、不意を突かれたせいか可愛いと思ってしまった。
「何見てる? ほら、作戦会議だ」
そう言って、小山さんは近づいてくる。
「もちろん、振られたいなんて言ってる時点で、振られないです。って言ってるみたいで少し、自信過剰だと思うぞ」
耳元で、小山さんがささやく。
「あ......そんなつもりはまったくなかったんだけど」
「フラーレンは振られんってか」
クスクスと小山さんは笑う。
「もう、やめてぇぇぇ」
そうして、ぼくの振られたい生活が始まった。




