ぼくに文才をください
三年目の夏が過ぎ去る前に 秘めた想い打ち明けたくて
白い便箋を買ったんだ
顔文字じゃ伝えきれない 伝えきれるわけないと思ったから
下書きのシャーペンもてあそびながら ぐるぐる思い巡らしてみるけど
すきです
それきりペンが進みやしない
ひとことで言えば 好きなんだけど
どんなふうに好きなのか 考えてみたこともなかったよ
友達はみんな ゲームに夢中だってのに
ひとり 文庫本に首ったけのきみ
手のひらの中の世界は どんなに広くて深いんだろう?
きみに勘違いされたくない
きみに見放されるのが怖い
さぼってるんじゃない
うまくいかないんだ
きみの推し作家と比べたら
くやしいけど ぼくは素人だ
三年目の冬が過ぎ去る前に 胸の想い打ち明けたくて
書き方の本を買ったんだ
絵文字じゃ伝えきれない 伝えきれるわけないと思ったから
メモ書きのシャーペン待ち構えながら 必死でページめくってみるけど
がっかり
知りたいことが載ってない
ひとことで言えば 好きなんだけど
どんなふうに好きなのか 上手く伝えられる自信がないよ
友達はみんな ネットに夢中だってのに
いつも 文庫本に首ったけのきみ
手のひらの中の世界を どんなに旅してきたんだろう?
きみに失笑されたくない
きみに見下されるのが怖い
さぼってるんじゃない
うまくいかないんだ
きみの愛読書と比べたら
くやしいけど ぼくのは紙くずだ
きみが遠くへ行ってしまう前に ぼくの想い片付けたくて
白い紙飛行機を作ったんだ
言葉じゃ伝えきれない 伝えきれるわけないと気づいたから
無理して読み漁った恋愛小説も たいして役には立たなかったよ
さよなら
あれきりペンは進まなかった
ひとことで言えば さみしいんだけど
どんなふうに好きだったのか 考えてみてもよく分からないよ
友達はみんな 恋バナに夢中だってのに
ひとり 文庫本に首ったけのきみ
手のひらの中の世界で これからも旅してゆくんだろう
きみに勘違いされたくなかった
きみに見放されるのが怖かった
さぼってたんじゃない
うまくいかなかったんだ
きみに失笑されたくなかった
きみに見下されるのが怖かった
さぼってたんじゃない
うまくいかなかったんだ
きみのすごさと比べたら
くやしいけど ぼくは紙くずだ
すきです
それきりペンは進まなかった
四年目の春の風が吹いて 白い紙飛行機を攫っていったよ