仲間と!
(ムムム……こやつ、自ら力を一段階解放しおった。愛姫子と美菓子が無事に究極魔法を会得した明かしか、それとも氷雨を、仲間を傷付けられたからか?)
心眼の腕輪は無言裏にアシガルの心の変化に気付いたが、黙っていた。
「みんな、もう少しの辛抱だ! もうすぐ愛姫子ちゃんと美菓子ちゃんが来る」
まるでアッパレやラヴチューンらも仲間であると言わんばかりにアシガルはそう言って腕の中の氷雨をさらに強く抱き締めた。
(ほぅ。やはりスズキとサトウの気配を感じていたか?)
「誰ですって? 仲間に助けられるだけの無能が勇者とは聞いて呆れますねぇ。今度はとどめ、刺させてもらいますよ」
五明はまたもや妖力波を放とうとしたが、今度は妖精巫女のオモチと防衛組長のシンが守りの体勢をとった。
「ドワーフ・大地シールド!!」
シンを筆頭にドワーフらは両手をかざすとミルフィーユのように幾重にも重なった黄金の盾で仲間と、そして驚くことに魔軍幹部らを守った。
「エルフ・治癒微風!」
そしてオモチと後方支援の妖精らもまた、両手を合わせ癒しの風をアシガルと氷雨、そして魔軍幹部らに吹かせた。
「なんて慈愛に満ちた微風か……」
傷付いたアッパレらは先程まで敵味方に別れていたにも関わらず守り、癒してくれるドワーフと妖精らに急な親近感を覚えた。
いや、それはマキもラヴチューンも、つい先程まで敵対していたマタタキやゴウワンでさえも。
それにインラバと使い魔二人も同感であった。
「フッ、シンのヤツあんな隠し技を持っておったか!」
嬉しそうに言ったのはゴウワンだ。
「だけどどうして私達まで助けてくれるのかしら?」
マキの疑念に答えるように気だるくオモチが言う。
「勇者アシガルがみんなと言った。その一語でオモチとシンはあなた方も仲間と認識した……」
『仲間…………』
魔軍幹部らは深い絆で結ばれた戦友であったが、まさか敵対しているはずの勇者から仲間と認知されるとは夢にも思っていなかった。
「フフッらまぁ五明とかよりは仲良くしたいわね。ありがとう! 妖精とドワーフ!!」
竹を割ったような性格のラヴチューンは心のまま感謝を述べ、キッパリと五明らに敵意を剥き出しにした。
「そうだ! シンとのタイマンを邪魔しおって! 許せん!」
「だよねぇ、アタイもオモチちゃんとの勝負が流れちゃったし、それに奮戦していた氷雨が殺られたのはマジイラだよっ」
憤怒するゴウワンとマタタキ。
「待ってよぉ、私もありったけの魔力で回復してあげるから!」
インラバはそう言って自身も傷付いていることなどお構い無しに、氷雨に駆け寄り呪文を唱え続け、マキも及ばずながら同じく氷雨の治癒に当たった。
「あ、ありがとう! インラバさん! マキさん!」
インラバとマキはニコッと笑って、なおも治癒を続けた。
「おやおや、私に敵意、宿敵に笑顔ですか。それは魔軍幹部としてどうかと思いますよ? そんな出来損ないは粛清して差し上げますよ」
不気味な笑みはそのままに五明は再度、魔樫の杖を構えると、まずは黄金の盾を破壊し始めた。
「マタタキ殿、行くぞっ! 剛腕ディフェンス!」
「えぇ! 超音螺旋陣!!」
ゴウワンとマタタキも守りの体勢を取り、力持ちゴブリンと鳥人間達も隊長の行動に同期するかの如く、力をゴウワンとマタタキに集めた。
「まったくもって小賢しい。煩わしいことこの上ない」
ついに五明の顔から笑みが消えたその時、遥か遠方から狙撃するかのような強烈な炎と氷の魔法攻撃が五明を襲った。
「ブレイズインパクトォ!」
「フロストインパクト!!」
大乱戦となった現場は騒然となっていたのだが、その燃え盛る炎と揺らめく聖なる冷気の渦の根源たる方角を見詰めていた。
「やっと戦闘に参加できたわ」
「どうなってるの? これは……」
漆黒の空を照らすようにメラメラと燃え盛る愛姫子と安らかな水色に闇を塗り替える美菓子の姿が確かにそこにはあった。
「愛姫子ちゃん!」
アシガルは物凄く久しぶりに会ったかのような顔をし、
(なんだ、元気そうじゃん!)
「アシガル!」
(あんたがやられたんじゃないかって急いで来たのよ……)
「美菓子ちゃん!!」
「氷雨お姉様は大丈夫なの!?」
さらにさらに風雲は急を告げていくのであった。
つづく