魔軍進行!
「あっ!」
愛姫子は自分達が異世界に転移し、その世界を救うために試練に入ったことをようやく思い出した。
「ねぇ美菓子! これは試練なのよ、あたしらここで何かを得なきゃ戻れないわよ!」
「そういえばそうだったっけ?」
虚ろな返事をした美菓子だったが、思い出した瞬間、アシガルや氷雨、それにローウェンにエピカ、異世界で出会った数々の仲間の姿が走馬灯のように甦った。
「愛姫ちゃん! 私達にも仲間がいるじゃない!」
「えぇそうね! あたしらは女神になるために異世界に行った。それはあるべき姿を手に入れる冒険だったんだ!」
「はぁ~? 何わけわかんねぇこと言ってんだよ? 異世界? 女神?」
「グンジ、ありがとう。確かに苗字に拘って人生に目を背けるなんてバカバカしかったわよね」
「そうだよ! よく考えたらサトウでもスズキでもいいじゃない!? 要は中身ってことよね!」
愛姫子と美菓子は雷にでも打たれたかのように己のわだかまりを振り払った。
この試練は自分に劣等感を感じて本来の力を発揮できていなかった二人を在るべき姿に誘うものであったのだ。
「そうと決まれば、」
「行こう、 愛姫ちゃん!」
二人は立ち上がりカフェを後にするのであった。
「あのぉ……あのお二人の会計がまだなんですけど……」
「えっ!? あ、あいつらぁ……」
グンジは渋々会計を済ませながらも、何かを掴んだかに見えた旧友の後ろ姿にニッコリするのだあった。
――――――――――――
「力持ちゴブリン、前に!」
重魔隊長ゴウワンの大音声にゴブリン等は隊列を組んだ。
「あれがゴウワン自慢のパワー系部隊ね?」
「ゴウワンは優しいのよねぇ。出来損ないのゴブリンを集めては鍛えて自分の部隊で花を咲かさせるのよ」
マタタキはそう言ってゴウワンの優しさと強さを物語った。
「あら? マタタキちゃんだって魔界の駄鳥と言われるほど使い道のない鳥人間達をしっかり育てて自分の眷族にしてるじゃない!」
「そうだぞ。マタタキ殿の包み込むような温情を感じているからこそ鳥人間達も必死に働いておるではないか! ナハハハハ」
マキとラヴチューンとはまた変わった形で己の個性を出すマタタキとゴウワンの誉め合いを見て姉妹は微笑んだ。
「鳥人間たちー! 出撃よっ」
陸をゴブリン、空を鳥人間の編成部隊は速度を合わせまっしぐらに妖精国側が陣取った地へと進行を開始していくのであった。
一方その頃、アッパレらはようやく辿り付いた妖精の住まう大陸で、またしても謎の塔を発見し、攻略を進め、ついには最上階へと登りつめるところであった。
「ぜはぁ……なんたる試練の旅路であったか……」
見たこともないモンスターとの死闘を経て到着した一室には、以前魔軍姉妹に語り聞かせた時と同じ宝箱がポツンと置いてあるだけだった。
「はぁ~もぉ疲れたわぁ……アッパレ、さっさと宝箱を開いて魔法で脱出しましょ!」
魔力を使いきったと豪語して戦闘に加わらなかったインラバはちゃっかりと離脱魔法を唱えるだけの魔力は残していたようだ。
(また謎の語りが、あるだけであろうか……)
箱を開くとチラチラと光が迸り、アッパレとインラバを包み込んだ。
「第二の封印は解かれた! 次に進むは竜人国なり」
「はぁ……それだけか……」
しかし前回同様に身体は軽く感じ、心が清らかになっていく不思議な体験であった。
「ん? あれっ!? アッパレ様、角がなくなってるっす!」
「あぁ! インラバ様の尖った耳が人間みたいな耳になってるぅ!!」
身体と心は元より、今度は見た目までが変化していく二人。
(いったいどういうことなんすかぁ??)
ピューロは人知れず不安に駈られていくのであった。
つづく