妖精!
「お~い! 妖精さぁ~ん! 大丈夫ですかぁ~??」
妖精にただならぬ愛着を見せていた美菓子は早くその姿が見たいが故に洋上で声を張り上げた。
愛姫子は興奮冷めやらぬ体で、なおもアシガルに当たり散らしている。
「ちょっちょっとぉ! 俺のせいじゃないでしょ~」
「まだまだ未熟な証拠じゃ! 早くフェンリルの力を自在に操れるようになるしかなかろう!」
そう心眼の腕輪は言い、なだめたが、氷雨はこう言った。
「愛姫子はいつだって直情的だからね、あぁいう変わったタイプの敵には不向きなのかもね」
「向き不向きで魔軍退治は出来んぞ! 伝説の存在とはいえ努力と成長は必須!」
お師匠さんのように物申す腕輪の言葉に一理あるかと、胡座をかいて頭をポリポリかく愛姫子であった。
「みなさぁ~ん! 妖精さん達、姿を見せません! なんでぇ??」
呑気にワクワクする美菓子に獣人船頭は助け船を出した。
「獣人ならきっとなにがしかの返事がかえってくるはずですわ。なんたって我々獣人と妖精側は貿易してますけん」
そう言うと手を上げて船頭は妖精船に語りかけた。
すると静まりかえっていた妖精船からヒョコヒョコと小さい妖精が顔を出してきた。
「か、可愛いぃ!! ねぇねぇ愛姫ちゃん見て見てぇ!」
はしゃぐ美菓子に引っ張られ愛姫子は仕方なしに見てみて驚いた。
「なんじゃありゃ! ずいぶん細かいのねぇ!」
「どれどれ~!?」
「私にも見えるかしら?」
遂にその姿を現した妖精らはこちらが獣人国の船と気付くと背中の羽で飛び回り始め、美菓子らに挨拶してきた。
「これは危ないところを助けて頂き、感謝です!」
「あれ? 獣人船に人間も乗ってる! 珍しいです!」
「本当だ! 人間なんて見るの久しぶりです」
お話好きなのか妖精らは細かく飛び回りながらペチャクチャ談義をやめない。
「可愛い♡ それぞれ個性が強そうねぇ」
瞳をキラキラさせて美菓子は満開の桜のようにときめいたが、厳しい一言にびくついた。
「妖精達よ、無闇にその姿を晒すものではない!」
声を荒げてそう言った人物は妖精とは段違いな体躯と剛毛、太く低い声と精悍な顔付きで愛姫子らを睨んでいた。
「あ、あのデカイ人も妖精なんすかねぇ」
「さぁ? 妖精っていうか……」
「ドワーフ?」
「そうですよ! あの鼻の大きさ! モジャモジャの長い髪! それにあの立派な髭! まさしくドワーフ!」
美菓子のテンションは最高マックスまで上昇、それぞれの疑問に答えるように心眼の腕輪が口を開く。
「そうか、お前達は知らなかったか? 妖精の郷といってもなにも妖精だけが住んでいるわけではない。ドワーフもまたこの国に住んでいるのじゃ!」
「へぇ~そうなんですね!!」
「ねぇ? なんでそんなにテンション高いのよ?」
愛姫子の疑問に美菓子は身を乗り出して答えた。
「だって、可愛い妖精さんとカッコいいドワーフさんがいるんだよ!? あの渋い声! もう惚れぼれしちゃうじゃない♡」
「またぁ!? ローウェンに失恋したばっかでしょ!?」
「えっ!? あの渋いドワーフにぃ!??」
「恋多き美菓子の再来ね」
もはや瞳をハートに変えた美菓子は盲目とばかりに愛しの渋いドワーフにまっしぐらなのであった。
(くっそぉ……俺の美菓子ちゃんは渡さないぞ!)
アシガルは静かに闘志を燃やすのであった。
つづく
萬しくお願いします!