激闘! その後~魔軍姉妹~
例の木の実で体力回復をしながらも、満足げな顔を浮かべていたのはラヴチューンであったし、清々しく夜空に輝く星々を眺めていたのはその姉マキであった。
完敗という不名誉がどうしてここまで心地よさを届けてくれるのか不思議でしようがなかった。
思えば仲違いしたはずの姉妹は愛姫子と美菓子とのバトルを経て元通りの仲良し姉妹に戻り、恐らくは限界以上の力を発揮出来たと確信していた。
「負けても悔しくないのは愛姫子の闘志に共鳴したからかな?」
「えぇ、美菓子の誰にも譲らない信念は共感して余りあるものだったわ……」
姉妹は考えも感想も一致させると手を繋いでクスクスっと笑って、また星空を眺めたりしていた。
そのうち聞き慣れた飛竜の翼をはためかせる音が聞こえたかと思うと目の前に着地し、乗っていた数人の人影がゾロゾロと近付いて来た。
「おぉ、やはりあの強大な魔力は海鬼将殿であったか!」
「それに混沌の光を操っていたのはやっぱりマキっちだったのね!」
姉妹は暗がりの中、目を細めて馴れ馴れしいその男と女を交互に見て驚いた。
「アッパレじゃない! 剣魔隊長のアッパレ!」
「ハッハッハッ! ラヴチューン殿、俺はもはや剣魔隊長に非ず! 今は無名の浪人・アッパレでござるよ」
「それに離反した妖魔隊長インラバちゃんじゃない!」
「ウフフ。私も今はその肩書きでなくってよ! 妖魔導士インラバと名乗ってよ!」
姉妹は魔軍を抜けた二人の元幹部との再会に驚いたが、アッパレもインラバも大して驚いてはいなかった。
「その感じだと愛姫子に敗れましたな? マキ殿!」
知ったか振りをかまし、不適な笑みを見せたアッパレだったが、お門違いも甚だしかった。
「アハハ、アッパレは相変わらずなのね! 愛姫子に負けたのは妹のラヴチューンよ!」
「えっ!? お、おぉそうでありましたか! でしたらマキ殿はもう一人の何て名であったか? おぉそうだ氷雨とか申す美女に??」
わざとなのか何なのか、久しぶりに登場したアッパレはボケ老人のように呆けていた。
堪えきれずに専属使い魔のピューロは助け舟を出した。
「ちがいますよぉアッパレ様……もう一人の伝説の英雄、サトウなんちゃらさんですってば」
「その通り。私は美菓子に負けたのです」
開いた口が塞がらないアッパレの変わりにインラバが口を開く。
「だけど負けた割にはスッキリした顔をしているのね? それにいつも険悪な雰囲気を醸し出していたラヴちゃんとマキっちが仲良さげにしているなんて明日は雪か槍でも降るのかしら?」
一同は空を見上げたが雲一つないから明日は晴天だと笑い合い、その後少し雑談を交えて話込んでいく。
「それで二人は今後どうするつもりなのだ? 俺は打倒・愛姫子を目指して遊歴の旅の途上! インラバも何だか知らぬが着いてくることになったのだが」
「あんたが誘ったんじゃないのよ!」
「う~ん……そうであったかな? な?」
「ボケ浪人! そうだったでしょうが! インラバ様を誑かしたのはっ!」
ついに黙って従っていてインラバ直属の使い魔ミューロは苛々しながらツッコミを入れ、誘われた側のインラバは何故か頬を染め両手で熱を帯びたその頬を押さえて、自慢の曲線をサボテンのようにくねらせた。
「そうね、どうしようか? 姉さん」
「……私達姉妹は一度は魔城に戻って魔参謀ビジョン様に報告をして今後を委ねるしかないわね」
真面目なマキはそう言うとラヴチューンの手を強く握った。
「そうね! わざと負けたわけでもないし、今後のことはビジョン様に任せましょう!」
それを聞いたアッパレもインラバも旧知の仲である姉妹の答えに和んだような笑みで頷く。
「それはそうと遊歴の旅って離反してから一体何してたのよ? アッパレ!」
話は尽きないとばかりにまだまだ夜更けの座談会は続いていくのであった。
つづく
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