狼王憑依!
「ちょ、ちょっとぉ! 心眼さん? 本当に愛姫ちゃんそんなこと言ってたんですかぁ?」
「シッ! もそっと小声で話さんか! これはヤツのやる気を引き出す儀式なのじゃ!」
「と言うことはデタラメであって捏造だてことね? 口なしさん」
「そうじゃ!」
三人は腕輪の装着者アシガルを無視してしゃがみ込んでコソコソ話をした。
「確かにさっきまで眠気眼だったアシガルが物凄い勢いで煩悩を貯め込んでいるわね」
「なんだ、よかったぁ……愛姫ちゃん裏ではそんなこと考えてたのかとビックリしちゃったよぉ」
アシガルはお尻をフリフリして安心した美菓子の水色のブルマでさえも見逃さなかった。
「うぉーー!! 煩悩貯蓄完了!!」
どうやら煩悩とはアシガルの生きる活力でもあるらしい。
戦いの最中、一時の睨み合いのまさにその時、アシガルは獣霊石に聖気を送り、獣霊石はその加護を愛姫子に向けた。
「愛姫子ちゃーん! 獣人変化するんだ!」
横目でチラッと見た愛姫子はニタッと笑うと、
「仕方ないわねぇ! 受け取ってあげるわ! うぉぉ! 獣人変化!!」
今ここに二度目の変化を遂げた愛姫子が降臨、その戦闘力を遥かに上昇させて猛烈な勢いでラヴチューンに肉弾戦を仕掛けた。
「あれが獣人変化!? 三角耳が可愛い♡」
「愛姫子にはもってこいの力だわね」
「ねっ!? そうでしょ? 露出ハンパないっしょ!?」
一人だけ的外れな感想を述べたところで、第二幕の始まりであった。
「今度は肉弾戦! 獣人の加護により数倍力を増しているように見える愛姫子が優勢でしょうか?」
「いやいや、ラヴチューンもまた格闘はお手の物! ヤツには海波拳がある!」
「だったら愛姫ちゃんだってブレイズブローがありますよぉ!」
「はぁぁぁ! 海波拳!!」
「ブレイズブロー!!」
二人は得意技を繰り出しつつ、激しい格闘戦を繰り広げた。
「兄さん! まさにフェンリルが憑依しるね?!」
「あぁ! あの力は聖人にしか扱えぬ代物! 愛姫子様はまさしく選ばれた存在!」
「覇暫来檄!」
「狼王正拳突ぃ!!」
猛烈なラヴチューンの足技と愛姫子の拳は激突する度に大地を揺らし、空をうねらせるようだった。
「強力な技の打ち合いじゃが、決め手に欠ける! 双方が最大の技を繰り出す時に勝負が決しそうじゃ……」
「はい。聞けばラヴチューンは荒波激海嘯と言う必殺の一撃があるとか!」
放送席も盛り上りをみせるメインイベント。
「愛姫ちゃんのそれってなんだろう? ブレイズブロー……じゃないよね?」
美菓子の言葉にこれまでに数々の技を編み出してきたスズキとサトウであったが、美菓子には本気パワーなる謎のスキルが付いていたが、愛姫子にはあったかどうか一同は首を捻ってしまった。
「どうやらその辺がこの戦いの勝敗を左右することになりそうじゃ!」
「つまりこのバトルで新必殺技を出せなければ愛姫子の負け……と言うことですね?」
(ムムムムムムゥ……俺の愛姫子ちゃんは絶対負けない! あの美ボディにフェロモンは永遠に不滅です!!)
何故かボウボウと燃え盛る闘志を抱くアシガル。
「それ来たっ! ヤツの奥義、荒波激海嘯!!」
「愛姫子様! フェンリルの加護を信じるのです!」
「信じる者にこそ力を授けてくれるのがフェンリルですよぉ!!」
獣人にして聖人たるローウェンとエピカの声は確かに愛姫子に届いていた。
そして煩悩貯蓄を最大限にまで完了させたアシガルは人が変わったかのように叫んだ。
「愛姫子ぉ! 受け取れぇ!!」
膨大な煩悩パワーとフェンリルの加護を得て、愛姫子は鋭い目付きでラヴチューンの放った奥義に向かい合うのであった。
つづく