愛姫子×ラヴチューン!
「よくやったわね! 美菓子!」
愛姫子はそう言ったが視線は既にラヴチューンへと向けられていた。
ラヴチューンは吹き飛ばされた姉を救助に向かい、例の魔界の木の実を口に含ませ回復させた。
「完敗だわ……底知れぬ戦闘力を秘めている。さすが伝説の存在……」
そっと地面に寝かせられ、木にもたれ掛かったマキは力なくそう呟いた。
ラヴチューンは何も答えずにスタンバイしている愛姫子と対峙した。その瞳にはメラメラと闘志がギラついていた。
双方は自前の剣を抜き合うと言葉もなく戦闘を開始した。
烈風と烈風の攻めぎ合いのように超高速の剣技を駆使して双方は一歩も引かぬとばかりに全神経を集中させている。
「まずは剣での勝負じゃな!」
「愛姫子は鋭く速い剣さばき。ラヴチューンは巨大な剣で防ぎつつ力強い一撃を繰り出す。見物ですね」
心眼の腕輪と氷雨は実況と解説者にでもなったかのように二人のバトルを観戦し始めた。
「凄いスピード! 私ついていけないや……」
「俺も目を細めないと何をどうしているのかサッパリわからない!」
エピカとローウェンもまた凄まじい攻防に圧倒されている。
「だ、大丈夫ですよね? 愛姫ちゃんは勝てるよね!?」
疲労困憊の美菓子はグデッと座り込みながらもアシガルに同意を求めたが、アシガルも実は物凄く疲れていた。
(いやぁ……ラヴチューンも凄い強いよ? つーか何!? この疲れ! ダルい気だるい! もう眠ってしまいそうなんだけど……)
どうやらアシガルはこれまでに出したことのない煩悩照射に疲れ切っているらしい。それを知っているかのように心眼の腕輪は言った。
「おい! しっかりと意識を集中せぇ! これしきのことでへこたれていては先へは進めぬぞ!」
「だ、だって……」
ヘロヘロなアシガルは懸命に目を擦ると幾重にも重なって見える愛姫子を遠望するように見た。
「バーニングスラッシュ!」
「海神突斬!」
二人の剣技はぶつかり合い、鎧は傷付き、肌は斬り傷でそこここが血で赤く染まっていた。
「まさに激戦!」
「今のところ五分五分でしょうか?」
「ウム。じゃが敵は将軍! 隠し玉でも持っている可能性はあるが……こらアシガル! 昨日のように早々に愛姫子に獣人変化させるのじゃ! でないと手遅れになるぞ」
氷雨とローウェン、それに美菓子はまだ見たことのない愛姫子の変化に強く興味を抱いたが当のアシガルはまだ睡魔と戦っていた。
「アシガル?! 早く口なしさんの言う通り愛姫子をパワーアップさせないとまずいわ!」
氷雨の助言ですら朦朧とする意識下においてよく聞こえてはいなかった。
「アシガルさん!?」
美菓子の声ですらそうだ。
「仕方ない。トッテオキの話をお前に教えてやろうかのぉ」
心眼の腕輪は急げとせかした割に今度はのんびりとした口調で話始める。
「お前この間、我を脱衣所に忘れていったことがあったであろう?」
突然の、なんの脈絡もない話に思わずアシガルは答えていた。
「え? そ、そうだっけ?」
「あぁそうだ! お前が出た後、今度は愛姫子が風呂に浸かりに来たと思え!」
「フムフム。次に愛姫子ちゃんがね……」
「愛姫子はこう言っていたぞ! 最近アシガルのセクハラが少なくて寂しいなぁ……」
朦朧としていたはずのアシガルは急にシャキッとすると続きを促した。
「なんだって!? セ、セクハラ所望なんか!? 愛姫子ちゃんは!??」
「そうだそうだ! そしてこうも言っておった。せっかくの美ボディを覗きに来ないなんて物足りないにも程があるわぁ♡ とかぬかしくさった!」
そこに眠気を催したアシガルはもう居なかった。
鼻血を両側の穴から沸き出しながらも、
「ナハナハハ……そ、そうだったのかぁ!!!」
と、激しく叫びながらメリメリと煩悩貯蓄していくのであった。
つづく