決戦前夜1
「か、勝ったんだよね……」
文字通りの全力投球をなした美菓子はそう言うと力が抜けるようにへたり込んだ。
氷雨は敵将を撃ち取ったことにより形勢は大きくこちらに傾いたのだと、なおも魔軍の撤退を強く進め、残ったモンスターらもシドロモドロで動きに精彩を欠きはじめた。
そんな時に愛姫子との激戦を退避してきた海鬼将ラヴチューンは残存部隊を伴ってやって来たが、マキの敗北を知ると、いよいよ焦りは沸点に達したかのように狼狽したが、平静を装い美菓子らに告げた。
「今回の戦い、魔軍の全面敗北を認める。しかし我ら残った部隊は占拠した北の砦に立て籠り、最後の一人までお前達と戦おうぞ!」
決着は砦とばかりにマキを担ぐと飛竜に股がり北の砦方面へと消えて行った。
美菓子部隊も大勝利に沸いたが、遅れて合流したアシガル、愛姫子、エピカらの無事な姿を確認した美菓子は顔をクシャクシャにして泣いて喚いて愛姫子に抱き付いたのであった。
その夜、盛大に祝勝会が催されたが、美菓子を庇って重症をおったローウェンは集中治療を受け、固定され、話すことだけ出来る状態であった。
「さすがは伝説の勇者パーティーでありました! このローウェン、あなた方への度重なる非礼を改めて謝ります! 済みませんでした」
と几帳面に頭を下げた。
「ウフ、いいって! あたしもバトル楽しかったし!」
「まだまだ粗削りなのだとしても協力すれば魔軍幹部とも渡り合えると確信できたの。この戦いに参加した意義は大きいですわ」
愛姫子と氷雨の言葉に包帯グルグル巻きのローウェンは感服した。
「愛姫子様も氷雨様もなんと寛大な! あとは北の砦に立て籠った残存部隊を討伐するだけ! お力をお貸し下さい」
愛姫子は頬をポリポリしたし、氷雨は眉を下げてローウェンの打って変わった態度に益々メロメロだった。
「それに美菓子様の勇姿! このローウェンしかとこの目に焼き付けましたぞ!!」
「も、もぅ! 様とかやめてってばぁ! ローウェン!」
そのやり取りを見ていたアシガルは眉を吊り上げ、不服な顔をしてますよとばかりに不機嫌を露にした。
「なによ? 何でむくれてんのよ?」
「だって……あの戦い以来、美菓子ちゃんローウェンさんにベッタリ過ぎじゃないっすか!? しかもいつの間にか呼び捨てにしてるし……」
「ウフフ、気になるの?」
「そりゃあ、まぁ……」
(だって俺の美菓子ちゃんだし!)
ローウェンにヤキモチを焼いていることを知った愛姫子は何故かアシガル以上に不機嫌になり、苛ついた顔をアシガルに近付けると、
バチンッ
「あんたのものじゃないでしょうが!」
と言って頬をひっぱたいた。
「い、いったいなぁ! なんで暴力ふるうんすかぁ」
「なんでもないわよ! それよりも明日は決戦よ! あたしらが戦ったラヴチューンも相当強かったけど、なんちゃら隊長とかってマキもかなりの腕前とみたわ! みんな明日は油断しないでしっかり勝利していきましょう!」
まるでパーティーのリーダーを乗っ取ったかのようにツラツラと口を動かす愛姫子を見て氷雨は、
(まったく。愛姫子も素直じゃないわね。アシガルも鈍感だし。照れ隠しはねぇ暴力ではなくて素っ気ない態度の方がキュンとくるものなのよ)
と、心の中で思うのであった。
決戦前夜、アシガルパーティーらは獣人部隊と共に大いに盛り上がったのだが。
ラヴチューンとマキもまた絆という名の失くしものを探しあてるのであった。
つづく