軍資金ちょうだいよね!
広大な敷地を有するマンテス国の象徴たる王都は天高く荘厳な出で立ちで国の中央部に位置し、列強各国を睥睨するだけの国力を誇っていた。
当代の国王、ケムタ13世は名だたる王家の頂点とだけあって、博識と威厳に満ち溢れ、寛容な人物で知られていた。
「アシガルパーティーをお連れしました!」
真っ白でふさふさの髭を撫でながら、その尊厳王は待ちわびていたかのように立ち上がると、勇者アシガルには見向きもせず、愛姫子と美菓子を小気味良く見比べて言った。
「そなたらが奇跡の召喚されし少女らか?」
その目はこんな華奢で麗らかな少女らに果たして魔王を退ける力が備わっているのかといった疑問の色をしていた。
「えっ? あぁまぁそうなんですかねぇ……」
(めっちゃ在り来たりな王様! ウケるぅー!)
愛姫子は内心揉んどりうった。
「そうなりますかね……」
(すっごい立派な衣服! お姫様のドレスなんてくれたりしないのかしら?)
御前で無関係な事を考える美菓子。
以上の如くを、まったくもってのカラ返事で答えたものだ。
「そこにいる技術神官から話は聞いた。今まで召喚せし者が複数であったことは未だかつて無きこと。これは瑞光とみてソナタらを一級パーティーに任ずる!」
意味不明な任命に首を傾げた二人だか、流石にアシガルはそうではなかった。
「いっ一級!? 嘘でしょ!?」
驚きのあまりついつい王様にタメ口をきいてしまい、またしても技術神官と呼ばれた人物に頭を打楽器として叩かれた。
「国王様にむかってなんと無礼な!」
しかし一級と位置付けられたアシガルは珍しくも強気に出た。
「おいおい、そこのヘボ神官! 俺を誰だと思ってるの? 俺は王様に一級の称号を頂いた勇者だぞ!?」
「なになに? 急に態度がでかくなってない? アシガル」
「ですね。一級とはそんなに偉いものなんでしょうか?」
親切な王様はそんな二人のヒソヒソ話まで拾ってくれると、国の定めをツラツラと語り出した。
「特別に教えてしんぜよう。その国の王が認めたパーティーは一級から四級までランク付けされ、級が上であればある程、冒険に融通がきくなんともお得なランキング制度じゃ!」
「なるほど! だからアシガルも早速融通をきかせてもらって態度Lに出たってわけね?」
「なんて便利な機能!」
神官は地団駄を踏むも融通をきかせなければならない掟に準じ、勇者アシガルに深々と謝罪した。
「なんだこりゃ! スゲー気持ちいい!」
まるで性格が変わったかのようなアシガルを可憐な二人は目を細めて呆れ顔した。
「そして聞けばソナタらはスズキとサトウという名じゃそうな! スズキとサトウとはこの世界で一、二を争う伝説の英雄の名じゃ! ソナタらには絶大なる期待を寄せている! 頼むぞ!」
あれほど忌み嫌った苗字が、この世界では伝説の英雄と持て囃される事態に複雑な表情を浮かべたのは女子高生だ。
「嫌いなんだよなぁその苗字……」
「私もよ。改名したいくらいだよぉ」
儚げにうつ向く二人は悲しみと題した名画のように、そこに居並ぶ者達を魅了してやまなかった。
「でもそういえばこっちの世界に来てから身体が軽いっていうかなんか一皮剥けたような気持ちなんだよね!」
「確かに! 今まで我慢していた事が嘘のように消えて、爽快だよ!」
二人は知らなかった。
現世で在り来たりな苗字を持つ者ほど、この世界カラケルでは絶大な力を有することを。
つまり珍しい苗字の者ほど雑魚なのだ。
一、二を争うほど多い苗字、鈴木と佐藤こそ最強の名を欲しいままにできることを。
彼女らは知らなかった。
そして、その性格さえも変えてしまうことも。
実際に現実的世界では沈鬱でネクラな二人は水を得た魚のように闊達であったし、何よりも生き生きして見えた。
その二人を同時に引き寄せたアシガルにも不思議な力が備わっているのだが、それはまだまだ先の話であった。
「とにかく! 都の市場で旅立の準備をし、早々に魔王退治に出発してもらいたい!」
旅支度の物資を受け取ると、国王の鶴の一声でアシガルパーティーは城から追い出されると都の市場目指して歩を進める。
「あぁ! 軍資金貰うの忘れたじゃない!」
まるで損をしたようにアシガルに詰め寄る愛姫子だったが、美菓子に一級にして融通がきく夢のシステムを耳元で囁かれると、有頂天に武器屋・防具屋目指してウキウキルンルンと前進していくのであった。
この時に勇者アシガルは1つの縛りを己に課した。
(よし、俺はいつも最後尾でかわいこちゃんを眺めながら行こう)
「いっくよぉ! アシガルぅ!」
「おいて行きますよぉ!」
「はい! 今、行きますよー!」
美女と可愛いコンビニに桃色の声とエロチックな姿で手を振られたアシガルは、だらしない顔で小走りするのであった。
何はともあれ、小さなパーティーがここに誕生し、冒険の旅がはじまったのであった。
つづく