魔軍会議 其の一
荒れ果てた大地を切れ間無く暗黒の雲が覆いつくし、時折落雷が巻き起こっていた。
そして魔軍指令室に各国に散っていた部隊長、そしてその上の存在である三将軍、魔参謀ビジョンが円卓を囲んでいた。
二つの空席の他、既に全員が揃っている。なかなか到着しないその二席の隊長を訝しみ、ビジョンに問いかけたのは重魔隊長・ゴウワンである。
「魔参謀殿! 剣魔隊長アッパレ、それに妖魔隊長インラバはどうしたのか?」
魔参謀の進行を待つ三将軍は視線をビジョンに向ける者、そして瞳を閉じ静観を守る者と落ち着いてはいたが、その下の隊長クラスはゴウワンの開口につられるように、口を開き二人の遅刻を糾弾し始めた。
「静まれ! 先に言っておく。剣魔隊長アッパレは謀反した。もう魔軍には帰らぬ。無論、魔軍でももはや奴の存在は抹消済みである。おそらくは妖魔隊長インラバもアッパレと行動を共にしているものと思う……」
その驚愕の事実にまたしてもざわつく各隊長であったが、裏切りの経緯を聞くとそれぞれが顔を見合い息を潜めた。
「んで? そのアシガルとか言う勇者見習い連中をぶっ殺せばいいのか? それに裏切り者二人もなぁ!!」
血走った目をギョロリとさせて一同をなめ回すようにぐるりしたのは槍魔隊長・バレンコフだ。
「まぁそう息巻くでない! 話した通り、アッパレが返り討ちに合う程の実力を持っている。もはや隊長クラスが個々に攻めたとて討伐することは出来ぬと判断しておる」
青筋を立てて憤怒を露にしたバレンコフだったが、なかなか話が進行しないことに遂に三将軍が口を開いた。
「バレンコフ、その辺に致せ。貴様の癇癪は見飽きた」
さしもの魔軍きっての暴れ者バレンコフも上司であり遥か上の存在でもある将軍、陸鬼将オルドランの一言で鳴りを潜めた。
「さぁ魔参謀殿、話をお続け下され」
(さすがは魔軍きっての重鎮! まさに鶴の一声……)
ビジョンは内心そう思ったのだが、つゆほども顔に出さず魔会議を進めた。
「勇者パーティーも気にはなるが各国への侵略もまた急務である! そこで部隊を再編成していく! これまでの侵略によって各国の強みと弱点を計算した。それによって導き出された編成を伝える!」
一同に緊張が走った。
「まずは中央大陸、マンテス国だが。この国は我が魔軍に最も好戦的と言えよう。軍事力もさることながら版図はどの国、大陸よりも大きく、人口もしかりである! この大国を攻めるは槍魔隊長バレンコフ! それに淫魔隊長ルシカァー!」
「まかせろ!」
バレンコフは自慢の長槍を引き寄せるとニタリと笑い、
「承知致しました……」
前妖魔隊長インラバと並び称される魔軍きっての美貌の持ち主ルシカァーは小声で答えた。
「伝えた通りの国力を誇るマンテスをバレンコフの猛進とルシカァーの幻術を駆使し魔王ジクイル様に献上致せよ!」
魔参謀の指令はそのまま魔王ジクイルの指令でもある。集まった総幹部はそれに従い、そして膝をついて黙礼する慣わしだ。
「次に西の大陸、妖精が統べる地には重魔隊長ゴウワン! それに翔魔隊長マタタキ! そちらは陸を力押し、空からはマタタキの部隊得意の飛び道具で細かな妖精どもを狙い撃ちにしてやれ! が、しかし妖精どもは失われし魔法をまだ多く持つという! くれぐれも抜かるなよ!」
「おぅ!!」
「了解です」
剛と柔の強者はそれぞれ正反対の気合いを持って返事をしていくのであった。
つづく