勇者の村
「おはよう!」
四人はそれぞれ起きると旅の支度をはじめる。
チュンチュンとスズメのさえずりが長閑に鳴る片田舎で充分に身体を休めたこともあって気分は爽快。
「さて、では早速なんすけど村長の家に行きましょう!」
ニタニタ笑いながら氷雨はアシガルと愛姫子を交互に見たが、美菓子はハテナマークをつけた。
大した距離もなく村長宅に到着すると歓待された。
頭にバンソウコウを貼った村長は用意していた物をドカッとテーブルに置くとペラペラ喋り始めた。
「よいかアシガルよ、お前を勇者として都へ送ったのには確かな根拠がある! 無理やりお前に押し付けたわけでもない!」
ピクッと緊張したアシガルはその根拠とやらが気になった。
それは美少女らも同じであった。
「この村は前勇者カラケル様が先の大戦において見事に魔軍の勢力を一掃し最後に辿り着いた地。勇者カラケルを慕って集まった人々で形成された、謂わば勇者の郷なのじゃ」
「前にも同じような戦いがあったんですか?」
「えぇ。342年前、世界を席巻しつつあった魔軍に対して立ち上がった一人の若者と、それに付き従った者達……この世界の誰でも知っている古の物語……」
「その通りですじゃ! アシガル、16年前お前が生まれたその時、空から真っ白な何かが舞い降りた。それは小さな赤子を包み込むと聖玉となって小さなお前の手に握られていた」
「それは普通じゃないって思うわよね」
「う、うん…………」
「歴代の村長に伝わる言葉がある。天から光降りしとき、魔星が蘇る兆し……とな。そこでワシは開村以来、秘密に伝承されてきた勇者の伝聞を開くことにした。そこには聖玉を携えし者、次世代の勇者なり! とそう書かれてあったのじゃ」
「これがそんなに大事な物だったのか!」
アシガルは首もとから引っ張るように表に出したペンダントをプラプラさせながら言った。
「それが聖玉ですかぁ!? 綺麗ですねぇ」
うっとりした美菓子。
「へぇ~それがアシガルが勇者である根拠ってわけね!?」
「なるほど……」
「そしてこれからが本題となりますじゃ。勇者の伝聞にはこうも書かれている。世界各地に点在する勇者伝説を巡り、勇者の伝聞の続きを探しだし、己を鍛え、仲間を募り、そして魔軍を退治するのだ! と……」
「このまま魔軍に乗り込んでも勝てないってこと!?」
流石に美菓子も氷雨も能天気な愛姫子の顔を覗くと、
『それはそうでしょう』
と言った。
「どうじゃ? アシガル。世界を周り、己の生まれた意味を探す旅に出る覚悟はあるか?」
アシガルは昨晩の愛姫子とのやり取りを思い出しながら、少し天井を見上げてから愛姫子に視線を落とした。
愛姫子は腰に両手をあててワクワクするような笑顔を返してくれた。
美菓子も弓杖をギュッと握り多少は勇ましい顔をしていたし、氷雨もまた腕組みして大きく頷いた。
(俺がこんな美女達との冒険をしないわけないでしょが!)
「俺は行くよ! 世界を知り、魔王を倒して……そしたらまたこのニシナカ村に帰ってくるよ!」
村長は生まれてからこのかた定められし生き方しか出来ないと決まっているアシガルを不憫に思ってきた。いや、それは村人全員がそうであったし、何より家族は断腸の想いでアシガルを見守り育ててきた。
そしてアシガルはスクスクと成長し、誰にでも分け隔てのない優しさと、いつも困っている人を助ける優しさを併せ持っていた。
(お前は一人じゃない。村の連中も、そして苦楽を共にしてくれる仲間もいる)
だがそうは思っても止めどない涙が村長を襲うのであった。
つづく