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ラスト編 終 ニシナカ村、再び!

 世界を救った救世主にして世界すべてを結び付けた最大の功労者は、王の御前での許されざる蛮行が元でマンテス城を摘み出され、呆れながらも冒険の終焉の地へと向かう三美少女。


 パーティーの並びは始まって以来、愛姫子・美菓子・氷雨・アシガルの黄金率を保ったまま、今回は愛姫子と美菓子が元の世界に戻る方法を知るテンガンも同行していた。



「なぁテンガンさんよぉ、本当にこっちでいいのかよ? こっちは俺の生まれ育った古びた村しかねーぞ?」

「オッホン! クソ勇者殿、私には相変わらずの口調ですな。そうです、スズキさんとサトウさんを元の世界に帰すためにはある場所へと行く必要があるのです」

「ねぇそれどこよ!?」

「私達に内緒にする必要ないじゃないですかぁ!」



 一列縦隊を保ったままあれこれと文句を付けるアシガルパーティーに苛立つテンガン。

 しかし氷雨は何となく向かう先が分かったような気がしたが、黙っておくことにした。




「あれー!? アシガルの兄ちゃんだ!」

「本当だ! またあの綺麗な姉ちゃん達を引き連れてるぞ!!」


 マンテスから歩いて一日ほどの距離に位置するニシナカ村に到着してみれば、田舎の子供達は村の兄貴分たるアシガルの帰郷に歓喜し、そして三美少女を眩しくも女神でも見るように瞳を輝かせていた。


「チェッ。なんだよこの村には大勇者アシガル様が世界を救ったことがまだ伝わってねーのかよ」



 久しぶりに足を運んだ故郷で早速悪態をつくアシガルの頭をコツンと叩いたのは村長である。

 アシガルの祖父ガンテツと共にアシガルを幼少期より育てた村長は、ついに目的を果たして戻ってきたいわば孫のような存在のアシガルを涙ぐみながら迎えいれ、アシガル宅に着くと積もる話に花が咲いた。



「でね、あたしがトドメの一撃をこうザバッってやったわけ! そしたらラスボス黄泉姫も我、やぶれたりぃぃって言って消えたのよ!」

「なんか変な脚色してるー!」

「そうよ! みんなで勝ち取った平和でしょ」



 入れ代わり立ち代わりでこの長い冒険譚を語り尽くした愛姫子と美菓子は、これまでの旅の疲れが一気に出たのか、テーブルに上半身を任せて寝入ってしまった。

 その寝顔を見ながら村長はテンガンが同行していることに疑問を呈した。



「はい。いよいよ伝説のお二方が元の世界に戻られる時が来ました。私はシンガン様に言付かっておりましたので……」

「そうか。勇者カラケル様と刻の賢者シンガン様が次代に繋いだ真の敵を、この子らが見事に打倒してくれたのだな。姫よワシからも礼を言わせてくれ。おそらくは貴方様がいたお陰でアシガルも無事に戻ることができた」

「いいえ、私達は四人……いえ。口なし……いえシンガンさんが導いてくれたから……」


 静かになった部屋に風呂の準備のため不在であったアシガルが戻って来たことにより愛姫子と美菓子は目を覚まし、明日は早い出立であることも相まって風呂に入って休むこととなった。



 アシガルをじっと見詰める村長は、もう何も聞こうとはせず、見送りはしないと一言だけ言って自宅へと帰っていった。


 順番に風呂で旅の疲れと汗と埃を流した一行は沈黙の中、以前割り振られた部屋へとそれぞれが向かう。

 ただアシガルだけは裏の草むらで胡座(あぐら)をかいて、出発前とまったく同じ星空を眺めていたか。



(前にもこうして星空を見てたよな。あの時は自分に何が出来るかってスゲー不安だったけど……何とかなるもんだな。へへ)


 そんなふうにこの旅の思い出に浸っているとザッザッと何者かが近付いていることに気付き、その方角をじっと見詰めた。



「なぁにしてんのよ、アシガル」

「なんだ、愛姫子ちゃんか」

「なんだとは何よ」


 アシガルの脇に座った愛姫子はアシガルと同じように満天の星空を見詰め続け、二人はそれっきり長い時間言葉を発しはしなかった。


 どれくらいの時間が過ぎたのだろう、月はいつの間にか移動し、辺り一面が深い眠りについたような静けさであった。

 そして不意に愛姫子が口を開く。



「この世界に呼んでくれてありがとね。あたしら()()()では自分に自信が持てない陰キャだったんだけど、あんたと出会って、そんでもって冒険して……たくさんの強敵と、たくさんの仲間に出会うことができた。全部ぜんぶいい思い出よ!」


「そ、そんな……いっつも助けてもらってばっかで俺こそお礼を言わなくちゃ」



 アシガルがそこまで言った時、愛姫子は突然身体をアシガルに預け、潤んだ瞳と洗いたての髪の芳しきにおいが包み込んだ。

 何処にあんな力があったのかと驚く程に細いその身体を支えたアシガルは、愛姫子と目が合った瞬間であった。



 生温かい唇が微かに自分の唇と重なったような気がした。




 プイッとそっぽを向く愛姫子はもういつもの愛姫子であり、キスをしたのかしなかったのかさえ不明であったが、確かに彼女のすべてをほんの一瞬だけでも受け止めたことに間違いはなかった。


「ほら、明日は早いんだからあんたもさっさと寝なさいよ」


 いつもどおりの口調で部屋へと戻る愛姫子を呆然と見詰めるしかないアシガルなのであった。



 そんな二人の一部始終を見逃すはずがないのが美菓子であり、氷雨であり、ついでにテンガンであったか。


「いやぁ〜ん❤ ついに()()()()しちゃったぁぁ!! 愛姫ちゃんたらもぉぉぉぉ」


「やっぱり愛姫子はアシガルよね。これがフレンチキッスってやつなのね。ウフフ❤」


「ウヌヌヌヌ……エロ勇者め! 生意気な! 羨ましいことこの上ない!! もう寝る!!」



 それからも気が抜けたかのようにその場に座り続けるアシガルなのであった。


(愛姫子ちゃんの唇……やぁらかくって……メッチャ気持ちよかった……)


 やめろ、みんなの愛姫子なんだぞ、アシガル。



 次回、最終回


次が最終回となります!

萬しくお願い致します(`・ω・´)ゞ

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