ラスト編14 ピューロの墓標
ロッシュの案内により通された先は北の塔でも南の塔でもなく、剣道場であった。
てっきりピューロと肆方神に祈りを捧げつつも復興に尽力しているとばかり思っていたアシガルらは、ロッシュの頭にしてサンジョー国の居候である魔剣聖キッシュと熱心に剣術の稽古に励むアッパレを見ると己らの憂いが的中し、確信へと変わった。
「えいっ! やぁ! とうぅ!!」
「まだまだ! さぁもう一本!!」
「他の国はみんな一丸となって国の再興に頑張ってるのに……」
「こ、こんな形もあってもいいのかしらね……アハハ……はぁ……」
「おいアッパレ!! お前なにサボって剣術のお稽古なんかしてんだよ! 早く国がまとまるようにしっかり働けよなっ」
しかしそんなアシガル達の怒りや嘆きに反比例する形でワクワクしだしたのはバトル大好き愛姫子であった。
「楽しそうなことしてんじゃない! あたしも混ぜなさいよ!」
伝説の、それも黄泉姫をも凌ぐほどの強さを持つ愛姫子に一瞬にしてのされたアッパレとキッシュは、目が覚めたかのように目を瞬かせて始めてアシガルパーティーが自国を来訪したことに気付いた。
「これは手痛いことです! アッパレ殿、勇者パーティーのお出まし。稽古は中断し、新生サンジョー国を案内してはどうですかな?」
「むむぅ……さすがは俺が一度は惚れた愛姫子! やはりてんで敵わぬわ! 久しぶりだな、みんな!! さぁ我が国の栄えた姿を紹介しようぞ!」
そんな誘いはどうでもよいとばかりにアッパレにいちゃもんつけ始めたのはアシガルであった。
「おい! 聞き捨てならないなぁ! なんだって? 愛姫子ちゃんに惚れてたのかよ?」
「インラバという美女がいるっていうのに……」
「えぇ!? アシガルさんも氷雨お姉様も知らなかったのぉ!? 私はちゃんと気づいてましたよ。えへへ」
うっかり過去の想いを口走ったところでなんと隣国ツバーメ国からインラバが到着し、アッパレとキッシュ、それになんの罪もないロッシュまでを手厳しく叱り始めた。
「まったくあなた達は! スキを見付けては剣術の稽古ばかり! 少しは国の行く末を考えなさいっ」
大の大人が揃いも揃って一人の美しい聖女には頭が上がらぬ様を見ると、アシガルらはインラバがいればサンジョー国もなんとかなるかと苦笑いするしかなかった。
そしてアッパレは北の塔に一行を連れて行くと、彼の専属使い魔にして度重なるピンチを救い、ついには落命したピューロの墓前で祈りを捧げる。
ピューロと親友であった飛竜のザードはその塔に住処を作り片時も離れないのだそうな。そんな姿を見ると目を潤ませてピューロの笑顔を思い出すそれぞれなのであった。
「犠牲はあまりにも大きいが、立ち止まるわけにはいかない。俺も王子として信仰と剣の国、サンジョーを豊かで活気のある国にしていく! それにキッシュとロッシュ。二人の得難い新たな仲間も来てくれたしな!」
そう言ってアッパレはキッシュとロッシュに笑いかけ、魔族ながら人との共存に躊躇うことなく、アッパレのいう理想の実現にその身を捧げる覚悟の二人との絆を見たアシガルらは、先程までのサボりは見逃すこととして、ピューロの墓前から険しい山々に囲まれながらも直向きに生きる人々の暮らしを見詰めるのであった。
「そういえばウチのじいちゃんも来てるんだって? 何処にいるんだ?」
「おぉ。ガンテツ様は鍛冶町で今日も御高説だ! なんでもしばらくは帰らないからよろしくなと言っていたが」
奔放な祖父のその言葉にまたもや苦笑いしたアシガルは、祖父の顔を一目みることもせずに次なる目的地へと向かうべく浮遊船に戻ると宣言。
「も、もう行くのか!? 早いぞ! 少しはゆっくりしていけばよいものを……」
伝説のパーティーの後ろ姿を見ながら名残惜しそうにそう言ったアッパレであったが、振り返りもしないパーティー。
「ちゃんと稽古して腕を磨きなさいよ! アッパレ」
「ロッシュさん、サンジョー国のことお願いね!」
「キッシュさん。あなた方のお陰でサンジョー国は安泰ね。インラバもしっかり監視は怠らないでね!」
「俺達はさすらいの旅人! 一箇所に長居はしないんだよ! じゃあなアッパレ!」
去りゆく浮遊船を見上げながら溜め息をつくアッパレに寄り添うようにしたインラバは、ポツリと一言。
「あの子達のお陰で世界は救われたわ。あの子達にしてあげられることは私達には何もない。有るとすれば見送るだけね」
「そうか……いよいよ伝説のスズキとサトウがこの世界を去る日も近いということか……」
アシガル達はサンジョー国とツバーメ国の深い繋がりは今後の世界にとって大切になると確信し、氷雨とアシガルの故郷にして今や世界の中心となりつつあるマンテス国へと舵を切るのであった。
マンテス国でもいつの間にか姿をくらましたアシガルパーティーの行方を探るべく各国に問い合わせを行っていたが、ことごとく彼らの足跡しか辿ることは出来ず、雲月に王位を継承する決断をしたケムタ13世は肩の荷が下りたのか、少しは元気を取り戻し、愛娘氷雨の帰宅を待ちわびているのであった。
つづく




