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ラスト編12 慈愛の国

 ベアー王から大事な言葉をもらったアシガルパーティーはそれでも別れという避けては通れぬ道に胸が締め付けられたが、そこは久しぶりのアシガルのセクハラがウヤムヤにした。


「すきあり!!」

「きゃっ❤」

「そこも!」

「いやん❤」

「ここも!」

「はん❤」


 アシガルは愛姫子の腰を両手でいやらしくさわり、美菓子のたわわなおっぱいをツンツンし、氷雨のぷりんぷりんのお尻を下から上へとベロンとした。

 急なセクハラに三美少女らは真っ赤になってアシガルに暴行を加えたが、何回セクハラされようと、やはり別れは辛かった。


 だがそれはアシガルも同じなのだと分かっているだけにいつもより増して暴行にも力が入る。


「あ、あのぉ……そろそろ……俺、死んじゃうよ?」



 そんな生死の境を彷徨うアシガルを無視して、愛姫子は向かう先に真新しいお城が見えてきたことに声を大にし、美菓子も氷雨も新たに建設されたツバーメ国のシンボルを眺めて笑顔になった。


「し、死ぬよ?」



 ツバーメ国の姫であるインラバは復興に尽力し、信仰する肆方神(しほうしん)の加護、そして世界各国の支援によりまたたく間に国を蘇らせていた。

 信仰と美の国として今や世界が注目する存在となっていた。



「アシガルの兄ちゃーん!!」


 新たな城の西の塔から顔を覗かせてそう叫んだのはインラバの専属使い魔のミューロであった。

 ミューロ、それに戦いの最中で戦死したピューロは度重なるアシガルらとの交流で、特にアシガルによく懐き、兄のように接していた。

 そしてそんなミューロの隣に芳しき美人がいることを見逃すアシガルでなかった。


「ミューロー!! 誰だぁその美人はー!? 俺に紹介しろー!!」  


 またまた暴行を加えられたことは言うまでもなく、中庭に不時着した浮遊船から飛び降りた愛姫子、美菓子、氷雨はそれが誰なのか気になるところではあった。


「やっと新ツバーメ国にも来てくれたんだね! インラバ様もお待ちかねだよ! さぁ!」


 隣に控える美人を紹介するでもなくテクテクと誘おうとするミューロの襟を掴んで止めたアシガルは、先程と同じ質問を投げたか。



「えー!? 本気で言ってるのぉ?! サンキラークさんだよぉ」


 サンキラーク。

 魔界の稲妻使いとして魔技場でインラバと激しい魔法合戦を繰り広げた強敵である。

 だが、アシガルらが覚えていたのは恐ろしく根暗な表情に黒いローブを着込んでいる姿しか思い出せなかったが、目の前にいるその女性は晴れやかな顔立ちと、神にその身を捧げるシスターにしか見えなかった。



「皆様が驚くのも無理はありません。私はインラバ姫に敗れ、聖なる魔法に閉じ込められたのですが、魔元城が爆発する寸前にこの国で信仰されている肆方神(しほうしん)に助けられたのです。それ以降心を入れ替え、対戦したインラバ姫を支え、神に祈りを捧げる毎日を送っております」



 だがそれにしては見た目が変わり過ぎてはいないかと全員がツッコミを入れると、微笑みながらサンキラークは答える。


「ウフフ。この国は美の国でもありますわ。健全なる生活と祈りの日々は内に潜む黒き邪念を綺麗に洗浄してくれました。見た目が変わったのは心が変わった何よりの証拠。嬉しい限りです! ウフフン」


 ここまで様変わりするからには毎日厳しい信仰に励んだ結果なのだと理解した一行は、今度こそミューロの案内でインラバの元へと向かう。

 黄泉姫の腹心にして魔界の頭脳と異名を持つ五明の罠にはまり、大国マンテスを妬ましく思っていたツバーメ国とサンジョー国の王は、カラケルらによって封印された魔軍を開放してしまい、結果二国は地中深く埋没させられていたが、世界が一つとなり、元通りとはいかないまでも日をまたぐごとに国民らも復活を果たしていた。



 ツバーメ国には肆方神を祀る塔が東西に二塔あり、ミューロは西の塔から東の塔へとアシガルらを誘い、一日でも早い復活を日々祈るインラバの元へと連れて来た。



「おぉ! 神に祈りを捧げるシスター姫!! なんて美しいんだっ……」


 ひざまずき、両手を合わせて祈るインラバは確かに聖女に見え、長い勤めを終えるとすっくと立ち上がり、木漏れ日のような笑顔をアシガルらに向けた。


「お久しぶりね。世界各国の協力の元、我がツバーメ国の復興もあと少しのところまで来ているわ! それに国民も少しずつ封印を解かれはじめているし」


 インラバとアッパレはお互いの国が落ち着いたところで挙式を行うことになっている。

 二人の思いに準じるかのように開放された国民もまたツバーメ国の()を取り戻そうと日夜懸命に復興に尽力している。


 そんな中、インラバは一つの大きな石像を新たに設置したことをアシガルらに告げる。


「これは黄泉姫の石像。彼女も深い闇の底でもがき苦しんでいた悩める仔羊……私は慈愛を持って終生彼女を供養し続ける事を己に課しました」



 巨大な黄泉姫の石像を見上げたアシガルらは、きっと黄泉姫も喜んでいるであろうと笑顔で思いを馳せる。


「ありがとね、インラバ! あんたの祈りが黄泉姫を癒やしてくれるわよね」

「そうだね! 黄泉姫さんもきっと喜んでいると思う!」

「……世界の一箇所だけだとしても彼女を祀る場所がある。インラバにしか出来ないことね」



「きっとそのうち彼女を供養するために多くの人々がこのツバーメ国に渡ってくるようになったら……世界に正真正銘の平和がもたらされたのだと、私は信じたいの」



 インラバとミューロ、そして改心したサンキラークは並ぶと再びひざまずき、いつまでも祈りを捧げていくのであった。



 つづく




長らくお付き合い頂きましてありがとうございます!

ラスト数話となりました、最後までお付き合い頂けたら幸いであります!

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