ラスト編9 新たな門出と神器よさよなら!
「ロキス、そこまで僕を慕ってくれていたんだね。嬉しいよ。だけど僕はたった今まで愛姫子に想いを寄せていた。ここで心が揺れ動き君の愛を受け取ってよいのだろうか……」
当然といえば当然か、今の今まで愛姫子ラブで通してきていたのに、他に己を想ってくれる素敵な女性が現れたことにより簡単に乗り換えて良いものでもなかったか。
しかしそこは愛姫子がピシャリと斬り捨てた。
「大丈夫よ! だってあたし、あんたの嫁になんかならないから! はい長嶺はたった今、フラれました。はい、これでロキスとくっつく口実が出来ました! めでたしでめでたしー」
「何回でも言うが、お前にはもったいない程の美人で綺麗でエッチで美人なロキスがお前がいいっていってんだ! さっさと結ばれろ、このクソキザ野郎!」
始まって以来のイケメン長嶺は実は告白されたのは初めてであった。これまでチヤホヤされてきてはいたが、竜王の末裔として竜人国のシンボル的存在である長嶺に想いを告白する者などなかった。
そして根が優しいだけに無下に断ることも出来ず、かといってロキスに対して哀れみや情に絆されたわけでもなく、長嶺はロキスのその想いをすんなりと受け入れ、ここに竜王と飛竜族長のビッグカップルが誕生した。
「こうなればゆくゆくはロキスも中央に居住せねばなるまい。そうなると北方をまとめる者が不在となるが……」
「それならいい案があるぞバルザーク! 久遠殿が北方をまとめればよかろう!」
「そうねぇ! 元々火竜と飛竜は親戚みたいなものですし」
「なっ!? ワシは宰相として竜王の補佐をする立場! 中央を……長嶺様の側を離れるわけには……」
ロキスを脇に迎えた長嶺は少し照れつつも、子供のように駄々をこねる久遠に甘い言葉を吐く。
「久遠、頼む。こんなことを頼めるのは君しかいない。それはこの国を平和に治めることにも通じる」
「な、長嶺様のたっての願いとあらば、この久遠何処へでも参りますぞ! 御免!!」
ポイントは君にしかであり、長嶺命の久遠は即座にキリッと長嶺に一礼すると、即刻そのように手配りし、北方へと向かうべく奔走し始めるのであった。
「なんつーか、バカなのか忠義に熱いっつーか……」
「ホッホッホッ! これで万事解決だな……世話が焼ける竜王だわい。身近に大切なものがあることに気付かぬとはなぁ……アシガルパーティーよ、久方ぶりじゃの! どれ、神器をそこの前竜王・炎舞様の銅像に戻してやってくれんかの」
「あれー? じいちゃんいたんだ!」
「本当! お久しぶりです籠場様!」
久々に姿を現した前宰相である籠場は、初めて出会った時よりも数段成長しているアシガルパーティーを頼もしそうに見詰め、それと同時に愛姫子を取り巻く身の毛もよだつ長嶺関連の出来事は丸く収まった。
長嶺にはロキスが、ロキスには長嶺が必要であり、そのために久遠は北方へと旅立ち、改めて盤石となった竜人国。
残すは神器の返却だけであった。
「ありがとう。竜心の胸当て、それに双翼のピアス!」
「すっごく助かったよ! 竜気のマントちゃん❤」
「これでお別れね……あんたのお陰でバトルが楽しめたわ! 龍神の腕輪、竜王牙!」
凛々しい銅像に神器が嵌まり、前竜王の偉大な姿は光輝き、いつまでも竜人の国を守護しゆく。
その雄大なる姿を目の前にバルザークは目頭が熱くなり、長嶺はロキスの肩を抱き、さらなる飛躍を誓う。
盟友の面影に、伴峰はそこに居並ぶ勇者達が仇を取ってくれたと心密かに報告しゆくのであった。
「それでこれから何処へ向かうのだアシガル」
海鏡の相変わらずの無表情にして無感情の問いに、前竜王に感謝の思いを伝えていたアシガルは、愛姫子、美菓子、そして氷雨を順番に見ると笑顔で答える。
「次は妖精の国だ! 行くぞっみんな!!」
再会も束の間、竜人国の人々との別れを済ませ、飛び乗るように浮遊船に乗り込むと、大地が裂ける程の地震と当たり一面を焼き尽くさんはばかりのマグマを吹き出す火山の国、最強にして最恐の竜人らが住まう地をその目に焼き付けるのであった。
「さらば初恋の人よ」
「あなた方のお陰で結ばれました!」
「達者でなぁ! 愛姫子!!」
「氷雨、また会いましょうね!」
「やっぱ俺は美菓子が一番タイプだったかもなぁ。ありがとよ、伝説のスズキ、サトウ!!」
「……伝説はいつまでもその場に居てはならぬもの。いつか必ず別れはやって来る……それまで四人、いや五人で手にした平和を噛みしめればいい……」
「そうそう。海鏡様の仰る通り。一処には落ち着いておられぬのがアシガルとその仲間達であろうよ」
「ねぇアシガル、 妖精の国って何しに行くわけー?」
「もう! 愛姫ちゃんたら。この旅はお別れの旅でもあるんだから。みんなにご挨拶するに決まってるでしょ!」
「いつもの照れ隠しよ。ここまで来たら全世界を回る。そうよね、アシガル!」
「氷雨さんの言う通り! さぁクイーンスフレさんの爆乳を拝みに行くぞー!!」
アシガルパーティーが次に目的地と定めた妖精国でも様々な事が始まっていた。
国の防衛組長であったエダゴー・シンボこと、シンは世界各国の要請により、自慢の海軍を駆使して今や世界防衛組長に就任。
多忙を極める中、束の間の休息時には愛妻クイーンスフレとの時間を大切にしていたし、国の巫女としてこれまで鎮座していた妖精巫女のオモチも後継者を育てる時が来ていた。
そして昨日の敵は今日の友。
妖精国でも新たな人物が己を見詰めるために滞在しているのであった。
「そろそろじゃろ? なぁダダ!」
「あぁ。竜人国から知らせがあったからなドバ」
「お二人とも焦ってもアシガルパーティーは来ませんよ」
妖精国の老人二人は今かとアシガルらの到着を首を長くして待つのであった。
つづく




