ラスト編5 意外な人との交わり
魔軍を見送った表世界の住人達は、いつまでも母国を留守にするわけにもいかず、引き連れて来た精鋭と共に続々と帰還していった。
それからさらに数日が過ぎ、サンジョー国とツバーメ国の復興はまだまだかかるであろうが、アシガルらは世界を周り、今一度それぞれの国がどのように変わっていくのかを見詰める旅に出た。
防衛組長シンから借り受けた浮遊船に乗り込み、最初に向かったのは忍者の国、ヒノモトであった。
これまで他国と交わりを断ってきていたヒノモトでも様々な変化が見られた。
興野流の棟梁にして国を治める立場の居島はこれまでの理をかなぐり捨て、他国と積極的に交わると宣言。
住民らもそれに習い、一大観光地へと変わりつつあった。
「よう! 来たなぁ? 栄えある勇者御一行!」
相変わらず磊落に笑って出迎えてくれた居島に愛姫子、美菓子、氷雨の美少女らは身体を硬直させた。
そう居島はアシガルにも負けぬ程のエロジジイであり、不意に行われるセクハラを肌で感じ、それを無意識に阻止していた。
「ホッホッホッ。これは一筋縄ではいかぬか……まぁヒノモトをじっくりと見ていくがよい! わしも忙しいでな、あとは孫娘の前戯に任せるとしよう」
それっきり棟梁・居島は姿を消し、うら若きくノ一少女前戯があれこれと説明しながら町を紹介してくれた。
そんな前戯もゆくゆくはマンテス国へと渡り、次期国王である雲月へと嫁ぐことになっていた。
わざわざアシガル達がヒノモトへと足を運んだのには理由がある。
それは己が見込んだ雲月は祖国へと帰り、唯一の身内である前戯もマンテスへと行くとなると、人材不足となりそうなヒノモトの今後を憂いたからに他ならない。
才覚を認められ、奥義を伝授され、次期棟梁を属望された立場の氷雨もまた現段階で迷いを生じさせていた。
自分は国を捨ててヒノモトへと渡ってよいのか、それとも兄夫婦を支え、祖国の発展にその身を捧げるべきか。
それを慮る居島は無理にヒノモトへと来ることはないとマンテスを去る時に一言だけ氷雨に伝えていた。
今後の人生を大きく左右するであろう身の振り方を見つめ直すべく、アシガルはヒノモトへとパーティーを引き連れて来たと言っても過言ではなかった。
「?? 以前こんな所に道場なんてあったかしら?」
「えっ? 本当だ。なかったんじゃないかな」
「お二人ともよくわかったね。ここは新しく出来た道場なんだ。中へ入ってみる? きっと驚くよ!」
アシガルと氷雨はヒノモトを出立する早朝、軍資金でヒノモト最強の烈疾風手裏剣や回復役雨生乃奇跡を購入するためにこの麓の町を一度歩いていた。
ついこの前の出来事であるが故に新設された道場に気付いたのだ。
中へ入ってみると、本来忍術を学ぶはずのこの国で珍しく格闘技の稽古が行われていた。
そして目ざとくある人物を見付けたのは氷雨であった。
「あなたは!」
稽古着姿のその女性は、凛々しく引き締まった身体を反転させるとアシガルパーティーの登場に少し恥じらいをみせつつも、丁寧に挨拶してきた。
「お久しぶりです。覚えていてもらえて嬉しい。暗黒武闘家、庭月です。押忍!」
暗黒武闘家・庭月。
元ヴォルクスの配下にして伏魔八騎将の一人であったが、ラヴチューンとの死闘の末、敗北。
しかし遥か上空で爆発した魔元城から辛くも脱出、有識者らの采配によりお咎めなしとされ、驚くことに今はヒノモトへとその身を寄せていたのだ。
「私もラヴチューンに負けたことでもう一度自分を見つめ直すために、一から出直す覚悟で忍者の郷、ヒノモトで修行の毎日を送っているのです」
孤高の武闘家、庭月を快く迎え入れたのは他でもない居島であり、普段忍術を学ぶ者達に庭月の武術が新風を巻き起こし、逆に武術一辺倒であった庭月にも感じるものがあり、日々鍛錬に明け暮れている。
庭月はラヴチューンと戦った時とは比べ物にならない程に研ぎ澄まされ、精神と肉体が瑞々しい気合で覆われているように見受けた。
「庭月さんが来てから忍術しか学んでこなかったボク達に刺激を与えてくれて! 毎日のように教えを乞う忍者候補生が後をたたないんだよ!」
興奮気味に熱弁を振るう前戯。
気持ちが揺れる氷雨は才気漲る庭月と忍者らを見ていると胸が熱くなる思いであった。
「へぇー武術と忍術の融合ねぇ。庭月にしか出来ないかもね!」
「そうだね! これは今度ラヴチューンさんと戦ったらラヴチューンさん負けちゃうかもね!」
「ハハハ。何も彼女にリベンジを果たしたいが為にやっていることではありません。ですが一手ご教授願えるなら対戦してみたいお方もありますが……」
アシガルらは顔を見合うと、それが誰なのか気になり、バトル大好き愛姫子は勝手に自分だと思い込んで一歩前に踏み出したが、即座に庭月に拒否されてしまったか。
「わ、私はまだ修行中の身ゆえ……伝説のスズキ殿と一戦交えるなどおこがましきこと! 氷雨殿、どうです?」
なんと庭月のご指名は氷雨であった。
なるほどヒノモトへ渡ってから幾日が過ぎていたが、唯一棟梁から興野流刀殺法の奥義、押忍気功波を伝授されたのは氷雨一人。
ヒノモトに滞在すればする程に興味が沸くのも無理からぬことであったか。
迷える子羊、氷雨と興野流の奥義を目に焼き付けてみたい庭月は道場の真ん中で一礼すると構えていくのであった。
つづく
 




