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ラスト編3 有識者会議のその先には

 各国は速やかにサンジョー国、ツバーメ国の復興復旧に尽力し、科学技術によって浮上した魔城の修繕も順調であった。


 そんな中、連日開かれている有識者会議ではこんな話が繰り広げられていた。



「では魔王ジクイル殿。魔界はそなたに任せても良いと言うのか?」

「フッ。一度はヴォルクスが支配したようだが、奴が亡き今、名だたる猛者共がひしめき合う魔界。放っておいては余の()()()()()()に差し支える! 余と魔軍に万事任せておけっ」



 しかしその場に居並ぶ者達は、長きに渡って気になっている事を聞かずにはいられなかった。

 口火を切ったのは砕けた性格の持ち主である獣人王・ベアーであったか。



「あのなぁジクイル殿。ずっと気になっておったのだが……その……コンプリートとはいったい何のことなのじゃ?」


「ほほう。知りたいか獣の王よ。余は世界に散らばる絶世の美女らのブロマイドを集める為に生きているといっても過言ではない!! この表世界へとやって来たのも、人間、獣人、妖精、そして竜人族すべての美少女から美女をコンプリートするため! 我が魔軍を各国へ送りつけたはブロマイドの収集に他ならない!」



 魔王ジクイルからもたらされたその事実は各国の有識者を大いに混乱させ、ついにはマンテス王ケムタ13世は黙っていられず口を挟んだか。


「では表世界を征服するために軍を遠征させていたのではないのか!?」

「なに!? そのような下知を余がするものか! 戦火により一枚でもまだ見ぬ美女のブロマイドが消失しては大損! そのような命令は下しておらぬ! なぁビジョン」


 ナンバー2として列席していた魔軍の知恵袋にして参謀ビジョンは血相を変えて言い訳するしかなかった。


「魔王! それは違いますぞ! 確かに魔王様はこの表世界をコンプリートするのだと我々に命令されたではありませぬかっ」

「だからいつも言ってあったであろうが。コンプリートとは美女のブロマイドを集める意であると……ま、まさかお前勘違いして列国に喧嘩を仕掛けておったのかっ?!」



 ボタンの掛け違いでは済まされない、大きな過ちを犯してしまったと気付いたジクイルとビジョンは深々と頭を下げ、これまでの無益な侵略を謝罪する他なかった。

 だが、魔軍の数々の刺客達は天界から送り込まれた勇者アシガルと伝説のスズキ、サトウ。それに氷雨に毎度毎度こてんぱんにのされていたのだから幸いであった。



「しかし迷惑をかけたことに変わりはない……」

「この上は我が腹を掻っ捌いてお詫びいたす! 御免!!」  


 急に武士のような大立ち回りを見せたビジョンであったが、損害は極めて軽微であり、元々邪悪な者など一人も存在しない魔軍の有志らに罰を与える有識者達ではなかった。


「誤解は解けばよいことですわ。今は一人でも多くの協力をもって全世界の回復に努めましょう」


 クイーンスフレの言葉を潮にその話は終わりを告げ、それと同時にコンプリートとは美女のブロマイドを集めることであると光の速さで世界を巡ったことは言うまでもない。


 そして魔竜王ヴォルクスの手下としてアシガル同盟らと死闘を演じた者達の生き残りについての論議へと移っていく。

 もはやヴォルクスは美菓子によって倒され、これだけ団結した同盟に牙を剥く輩はないとみた有識者らは、捕縛を解き、自由にさせることで合意した。



「それぞれ対戦した相手との苛烈を極める戦いの中で何かを感じ取り、今後の生き方に変化が見られればよいのですが……」


 そう竜王・長嶺がポツリと一言言うと、並ぶ有識者らは静かに頷いていくのであった。





「マジっすか!? バルザーク様……」

「あぁ。既にジクイル様とビジョン様、そしてオルドラン殿には伝えてある」


 魔城では城の復旧と共に幹部らは勢揃いし、大会議室にてバルザークは己の今後を幹部らに打ち明けていた。

 それは竜人国への復帰。

 前竜王暗殺の容疑は晴れ、遺言に従ったこれまでの放浪の旅を終えるつもりだと気持ちを伝えたのだ。


「驚きました……」

「ねぇ……」

「バルザーク様は魔軍にとってなくてはならないお人です!」


 マキとマタタキ、ルシカァーは突然の将軍の打ち明け話に戸惑ったが、ゴウワンとラヴチューンはその決心を後押ししたか。



「これまでどれだけの我慢と悔しさがあったことか……竜人らもやっとバルザーク様の無実を認めたというもの!」

「そうよ! 新しい竜王長嶺はそれを心待ちにしているってば! ロキスとか岳才だってそうだよ!!」



 その言葉に新たな門出を祝福したが、バレンコフだけは曇った顔をし、それに気付いたオルドランは静かにバレンコフの肩を叩く。


「バレンコフ。お前がバルザークを一番慕っていたのは俺がよく知っている。賊としてこの城に潜入してきたお前を助けたのは他ならぬバルザークだからな。バルザークとてお前をいつも気にかけていたさ。だが同じ場所にいることだけが正しいとは限らぬと思わぬか? 俺もアッパレを愛弟子と今も思っている。だが立場が変われば同じ時を過ごすことも出来なくなる。肝心なことは、その思いを忘れぬことと思わぬか?」



 珍しく長々と語るオルドランに、幹部らは始めは驚いたが、言っていることは身に沁みたか、改めてバルザークの決断に賛意を示した。


「バレンコフ。今生の別れでもあるまい! これからはいつでも竜人の国に。俺のところに来ればいい!」


 バルザークはそう言ってオルドランと同じようにバレンコフの肩を優しく叩いていくのであった。



 つづく

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