ラスト編2 そして世界は…
愛姫子の放った渾身の一撃が黄泉姫にインパクトした瞬間、空を黒く染めるほどの禍々しい黄泉姫の妖気は瞬く間に収束していき、パラパラとその身が朽ち始めた。
悲しき最後の魔神・黄泉姫の最後は驚くほど呆気なく、その翻弄され続けた永年の終わりを迎えた。
「出来れば黄泉姫を救ってやりたかった……」
絞り出すように言葉を吐いて合体を解いたアシガルの元へ美菓子と氷雨、そして愛姫子が集うと、シンガンは一言だけ呟いたか。
「バカモノ。ちゃんと救ったではないか。黄泉姫もさぞやお前に感謝していることであろうよ……」
もっと巨大で邪悪なる者が実はいるのではないかと錯覚する程に、終盤の黄泉姫は改心していたように思えるが、だからといって野放しというわけにはいかなかったし、倒さなければならない相手であることに何ら変わりはなく、そのための勇者であり、伝説のスズキ、サトウの召喚であった。
「まぁこれで良かったんじゃない? 黄泉姫も苦しんでいたんだし」
「そうだよ。きっとアシガルさんに感謝しているよ!」
「もっと徹底的な悪であればこんな気持ちにならなかったのかしら……」
ついにラスボスを倒したアシガルパーティーではあったが、様々な感情が目まぐるしくも突き抜け、哀愁漂う空を見上げるしかなかったが、これまで共闘してきた仲間の熱い歓声に胸が高鳴り、長く険しい戦いの終わりを感じた。
(ありがとう……)
ふと黄泉姫の笑顔と共にそんな声が聞こえた気がしたアシガルは、居並ぶ自慢の美少女らを見詰めると、一滴の涙を流し、笑顔で呟いた。
「うん! これでよかったんだな。また会おう、黄泉姫!!」
ついに自分の気持ちに折り合いを付けたアシガルは、そう言うのと久々のセクハラ行為に及ぶのとが同時であった。
「美菓子ちゃんのおっぱいをぶるるん!!」
「ひゃっ❤」
「氷雨さんの太モモをさわさわ!」
「あん❤」
「最後に愛姫子ちゃんのフェロモンをくんかくんか!」
「あ、あんたねぇ! 節操ってもんがないのっ」
いつもの調子が戻ったところで残留思念のシンガンは改まって一言述べる。
「アシガル、愛姫子、美菓子、氷雨。本当によくやってくれたな。前勇者カラケル共々、礼を言う。それに我もお前達と旅が出来たこと、いい土産話になる! さぁ仲間がお前たちの帰還を待っているぞ」
それっきりシンガンは電池が切れたかのように言葉を発しなくなったが、それぞれは心に秘めた大切な仲間・シンガンを忘れることはなく、終生その薫陶を大事に生きようと決め、ボロボロになってしまった魔城へと舞い戻っていくのであった。
その後、天界との通信チャンネルは復旧し、龍神・伴峰と海鏡は事の次第を他の真羅八龍神へと報告。
テンガンの申し入れに従い、全国各地から集まった者達はマンテス国に迎えられ、束の間の休息と表世界、並びに魔界の統治について各国有識者による長い長い協議が行われることとなる。
一番の問題点は黄泉姫の策中にはまり、サンジョー国とツバーメ国の版図を塗り替えた魔城の移設と二カ国の復興。
そして一度は魔竜王ヴォルクスが支配した魔界の混乱を早々に鎮めることにあった。
魔軍と表世界の各国は、アシガルパーティーの元、最終的には共闘する形となったが、互いに戦いに及んだこともあり、全ての人々が笑顔で手に手を取るというわけにはいかなかったが、それでも犠牲者は驚くほど少なく、やはり黄泉姫並びに五明の奸計による犠牲者が大多数であったことが功を奏し、話し合いは揉めることなく、スムーズな進捗をみせた。
マンテス国と魔軍の科学技術をして即刻魔城を浮上させ、サンジョー国とツバーメ国の復興に取り掛かる段となる。
ヒノモトからは鬱蒼と茂る大木を伐採し木材とするよう海運にて支援。
怪力の持ち主たる獣人らは人夫として派遣。
同じくドワーフらも参集し、瓦礫の山となった旧二国の支援に従事。
巨大な力を持つ竜人らはその特性を活かして大いにそれらの作業を進めさせた。
地竜は道を舗装し、氷竜は川のせせらぎを、飛龍は空輸で、火竜は火を灯して。
活気に満ちた現場を癒やすは妖精達の癒やしの歌声と栄養満点の食であった。
そしてそれぞれはそれぞれの人生を見つめ直し、新たな道を歩み行く。
つづく




