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三本勝負 終 どうしたアシガル!?

「そんな血気にはやったまんまじゃ犬死にするだけよ! まぁあたしの話を聞きなさいって」



何故か得意げに話し始めた愛姫子の構想はこうだ。

わずか数名で抗議に出たところで即座に捕縛され、後は拷問と極刑が待っているのは想像に難くない。


ここは機械流当主ビジョンにも相談した上で一丸となって事に及ぶべきだとこんこんと説いた。

パッと花が咲いたようにその意見に賛成したのは前戯であり、知恵も徳も兼ね備えたビジョンにまず相談することは確かに得策と考えたのは雲月とオルドランであった。


「それは名案です!」

「確かに……ビジョン様ならば民衆のために常にお上とやり合っているが……」

「良き案と存ずる! ビジョン殿には我らにない悟りの境地が確かにある! ビジョン殿なればきっと妙案をお考え願えるかもしれぬが……」



オルドランはそこまで言ってお上の組織の人間であるロキスを見た。

今の話がお上に筒抜けとなっては相談する前に全員が何かしらの罪を着せられ捕らえられると感じたからだ。

しかし愛姫子はそんなことは相変わらずお構いなしに、なんと敵対している立場となったロキスにも注文をつけた。



「そこのミニスカ! あんたももっと上の上司に掛け合うとか出来るでしょ!? 町の平和を守る立場なんだからもっと頑張りなさいよ! いないの? 黄門さまみたいなお偉いさん」


その言葉に自分はいったいどうすればよいのかと硬直していたロキスは、石化を解かれたかのように考え始め、上層部に掛け合う手はずを述べた。


「それよ! 町全体とお上のさらに上の役人で挟み討ち! 二割なんてケチくさい比率をこっそり懐に入れようなんて輩を一網打尽よっ!」



愛姫子の思いは町中を駆け回るかのように、そこに居並ぶ者達の心を打った。

それは悪を許さず、苦しむ民草を救うまさに優しさと真心を兼ね備えた言葉の数々であったか。


素早く段取りを決めたオルドランらは急ぎ機械流道場へと急行、ロキスも直ちに上層部へと掛け合うために舞い戻る。



「愛姫子とやら、お主の助言のお陰で悪を討つことができるかもしれぬ。礼を言うぞ!」

「オルドラン殿の言う通りだ。一度は罪人となったこの身も、正義のために使えるというもの! 感謝する」


「愛姫子さん! まだどうなるか分かりませんが、あなたの言葉に救われました! ボクからも感謝します」

「正義のための忠勤を忘れ、権力におもねていた私を恥じる。きっと平和を取り戻せるよう粉骨砕身、上層部に掛け合うことを約束する!」



それぞれが愛姫子に感謝を述べ、走り去って行ったところで愛姫子は光に包まれ、元の会場へと戻って来ていた。

会場内に集まる全ての人々は無事に帰還を果たした愛姫子に惜しみない拍手を送り、審査員らは競うように愛姫子を褒め称えた。



「パーフェクトだ!」

「不良を改心させるとは!」

「玄関の扉を担架にするなんて愛姫子にしか浮かばない発想ね!」

「ぶっきらぼうな言葉が逆に温かさを表現していた! 余はそなたほど熱い心を持った者を他に知らぬぞ! あっ晴れあっ晴れ!」


「きっとオルドラン達も無事に平和を取り戻すだろう……」

「愛姫子。改めて惚れ直した。君の言葉には真心しかない! 好きだ」



「まさに審査員らの心を掴んだ愛姫子選手の練り歩き! どうでしたか、解説の伴峰さん!」

「最初はどうなることかと思ってたけどよ、案外愛姫子みたいなガサツな性格をした奴がこんな風に色々なことを解決できるんだよな! お見逸(みそ)れしたとはこのことだぜ!!」



「愛姫ちゃんらしいね、氷雨お姉様!」

「えぇ! 最後の勝負は愛姫子だ良かったわ。本当に!」



「まぁこんなもんよ! 黄泉姫!」



様々な褒め言葉が飛び交い、最終戦は愛姫子の完全勝利で終わりを告げた。

審査委員長にして大会運営委員長を兼任するアシガルは、既に自分の敗北を悟り、崩れ落ちる黄泉姫に向けて言葉を投げた。



「黄泉姫、わかったか? お前は全てにおいて未完成なんだ! 確かに美しいし、誰よりも強いかもしれない。だがそれだけでは生きる上で足りないことがある。それは真心であり、相手を思う心だ! 欠点は誰にだってある。だけどその欠点を見詰め、世のため人のために生きる者にこそ人は付いて来るってもんだ! お前が世界征服をまだ諦めない限り、俺達パーティーはいつまでもお前の行く手を阻んでみせる!」



アシガルのこの無益に見えた三本勝負には実はそんな意図があったのだ。

三度(みたび)プライドをズタズタに引き裂かれた黄泉姫は愕然と肩を落とし、自分よりも優る愛姫子、美菓子、そして氷雨を見ると沸々と憎悪を膨らませてこれまでの勝敗などなかったかのように戦闘態勢となった。


審査員らはその任を解かれ、即刻観覧席に座る者達を避難させ、アシガルパーティーも迎撃の構えを見せたか。



「やめろ黄泉姫! お前はもう戦う気力すら残っていないはずだ!」

「ぬかせっわらわはこの世の全てを掌握する者! 魔神は世界の覇者にならねばならぬのだ!!」



愛姫子らは今度こそ黄泉姫を倒すために立ち上がったが、アシガルだけは何故か黄泉姫の説得を幾度となく試み、それが無意味であることをその場に居合わすほとんどの者が分かっていた。


このごに及んでアシガルはどうしようというのか。

これだけ己の短所を並べられても結局最後には力に訴える黄泉姫を倒すしか術はないというのに。



「アシガルなにやってんのよ! 黄泉姫は話して分かるような相手じゃないわよ!」

「そうですよぉ! 結局倒すしか方法はないんですよぉ」

「負けを認めないならそうするしか他に手段はないわね……アシガル! 早く愛姫子と一つに!」



しかし歯を食い縛って黄泉姫を見詰め続けるアシガル。

いったいアシガルは何を考えているのか。

パーティーのメンバーらも最後の最後でその真意を計りかねたが、そんな不肖の勇者アシガルをまさかの人物が説得することとなるのだが。



つづく



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