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三本勝負15 罠! そして秘策!?

「これだけ言っても分からぬのか?! お上とオルドランが結託し、我らが道場を追い落とそうと企んだと見た俺は、お上からの密書に必ずやその手掛かりがあると確信し、事に及んだのだっ」



 愛姫子はそこまで聞かされてようやく腑に落ちたように目線だけ空に向けると小さく頷いたが、泥棒にして自分に体当たりをかました雲月と、傍らで真っ青な顔をして控える前戯を見ると、これまた意外なことを口走った。


「じゃあさぁ、その密書を持ってそのオルドランてなんちゃら流の道場主に直談判なんてどうよ? 盗みを働いた時点であんた達の話なんて聞くような……その、なんだっけ? お上さんじゃないんじゃない」



 まさに自首と同義ではあったものの、少しでも罪が軽くなるのであればそれに越したことは無いと前戯はその意見に賛成し、悩み抜いた雲月もまた考えを改めるかのように悩んだが、そこは猪突猛進・愛姫子に引っ張られるようにオルドランの道場へ向けて(きびす)を返すこととなる。



「しかしあれですねぇ? 黄泉姫選手の時は汗だくで賊を追い掛けて来たオルドランの姿が現れませんねぇ」

「だな。きっと違うルートってことなんじゃないのか? それにレアキャラのミニスカ・ロキスも出てこねーし……ちぇだぜぇ」   


 伴峰の無念はみんなの無念であるとばかりに悔しがってみたり、肩を落としたりする審査員に観衆。

 だがそんなことはお構いなしに愛姫子は雲月と前戯を引率するように魔剣流道場を目指した。

 そんな三人は目的地なる道場へと辿り着くと門前に仁王立ちで構えるオルドランを見付け、ぐっと緊張し、開口一番に話し出したのは前戯であったか。



「オルドラン様、機械流道場の娘、前戯にございます! 実は我が道場の師範代、雲月が過ちを犯し、魔剣流道場からこれなる密書を盗んだ事を詫びるために参上つかまつりました! この謝罪で、どうか裁きは情状(じょうじょう)酌量(しゃくりょう)のお目溢しを頂きたく……」


「オルドラン殿、確かに盗みを働いたこと(こうべ)を垂れて真摯(しんし)に謝り申す。この通りです! 後はお上に引き渡すなりなんなりお好きなようになされいっ」



 機械流道場の関係者の話を黙って聞いていたオルドランは、見慣れぬ町娘がもう一人いることに気付くと誰何(すいか)し、愛姫子は簡単に事情を説明した。

 なるほどそういう事であったかと納得の表情を見せたオルドランは、既に通報していたようで、道場内に控えるミニスカ・ロキスを呼ばわった。


「これは手はずが早いことで……」


 神妙に両手を差し出した雲月を静止したオルドランは、低い声で静かに口を開き始めた。


「事情はどうあれ、盗みはよくない。それが誉れも高き機械流道場の、しかも師範代ともなれば重罪! が、しかし剣に命を賭ける者としての矜持があるならば訳を聞こう」



 大事な場面で口を挟んだのは愛姫子だ。

 愛姫子はオルドランがお上と謀って機械流道場の追い落としを企んだのではないかとズバリ言ってのけたのだ。

 その証拠を掴むためのやんごとなき所業であったと弁明し、逆にそういった蜜月(みつげつ)関係なのかと問い質した。


 まさに官憲(かんけん)との癒着を指摘されたオルドランを横目で見るロキスも内心では驚き、どのような着地点を見出すのか無言裏に控えた。

 そして重々しく口を開くオルドラン。



「師範代、その密書読んだか?」

「?! いや、盗みを働き、そこの愛姫子と()()()に改心させられるまで懐に入れたまま……」


 愛姫子は雲月が普段は前戯のことをお嬢様と呼んでいることが気になったが、オルドランは瞳を閉じると、密書を開き読んでみるよう雲月を促した。

 驚きを禁じ得ない雲月と前戯は即座に開封するとぐるぐると巻かれた書面を一度読み終え、内容を理解するためにもう一度熟読した。



「これはどういうことなのか……」

「これじゃあまるで……」

「左様。拙者(せっしゃ)も罠にはめられたようだ」


 その字が読めない愛姫子は、いったい何て書かれているのか誰ともなしに訊ね、オルドランが内容をざっくりと説明した。


「見事な勝負であった。そしてお上の定めし規定により、これより魔剣流道場に通う門弟の月謝の二割をお上に差し出すようにと書かれておる。まったく武士の風上にも置けない鬼畜の所業よ……拙者もそんな裏があるとは気付かずビジョン殿と無益な闘いに及んだこと、恥じ入るばかりじゃ……」


 だがオルドランの後悔よりも愛姫子が着目した点があった。


「二割って……ちっさいわねぇ。どうせなら五割とかむしり取るくらいの大悪党なら成敗しがいがあるってもんなのに……」


 何処かピントのズレた感覚の持ち主愛姫子。

 オルドランが嘘をついているようには見えないと判断した雲月と前戯は、お上の私欲に巻き込まれたのはなにも自分達だけではないのだと悟った。

 そしてオルドランは今後の身の振り方を語る。



「拙者は生まれてこの方、剣術に命を捧げる思いで身を粉にして修行に明け暮れて来た。たがそれが欲に目が眩んだ者共の肥やしに使われるとは思わなんだ……こうなっては玉砕覚悟で抗議するまで! 華々しく散ってみせようぞ」



 帯剣をガッシリ掴むと、闘気を顕にさせたオルドランは門弟らに被害が及ばぬよう、唯一人で乗り込むと息巻いた。

 それに同調したのは雲月であり、短慮であると説得を試みたのは前戯であったが、相変わらずロキスは話の行く末を待つように脇に控えている。



「ダメダメ! それじゃ! もっと協調性を持って行動しなきゃ!」


 どの口が言うのかと実況アッパレと解説伴峰は総ツッコミを入れたが、討ち入りしか考えないオルドランと同道するつもりになった雲月、さらには引き留めたい前戯には他に手段があるかのように響いたようだ。


「町娘よ。そこまで言うのであれば何か良策でもあるのか?」


 にじり寄るオルドランにニタニタ笑いながら秘策を授けていく愛姫子なのであった。



 つづく





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