三本勝負13 愛姫子、徘徊!
黄泉姫が優しさや真心を発揮する競技にも関わらず、あまりにも何らそれらを示さぬまま終わったことで、観衆らは何となく愛姫子も同じ轍を踏むような気がしてならなかったが、それは大きな誤りであった。
つまりは氷雨の言葉はフラグではなく、アシガルの心呟きが真のフラグであったということか。
「おっとっと……ここが異世界? へぇあたしらの住んでる町みたいな景色じゃないの! じゃあいっちょゴール目指して歩行開始よっ」
その言葉にやっぱりかと審査員らは思ったが、第一の刺客でそれは大きく覆された。
「何見てんだよ! あぁん!?」
「あたいらに文句でもあんの!?」
そう第一の刺客、バレンコフとラヴチューンの不良コンビは瞬く間に愛姫子を取り囲むと指をコキコキと鳴らしたりと鋭い眼光で威嚇したが、愛姫子の行動はモニターを見詰める人々の想像の斜め上をいった。
「ていっ! やぁ!」
なんと愛姫子は言葉よりも先に手を出し、バレンコフとラヴチューンに痛烈なチョップをお見舞いした。
まさかいきなりチョップが来るとは思ってもいなかった二人は頭と喉をやられ、しばらくは身動き一つ出来ずにいた。
「いきなりなんなのよ、あんたら!」
「ゴホゴホッ……それはこっちのセリフだぜぇ……」
「痛っ……いきなりチョップはないでしょーがっ!!」
取り囲んでおいてそれはないだろと観衆らは一斉にツッコミを入れたが、確かにいきなりチョップはないないと二人に同情もしたか。
そうこうしているうちに第二の刺客が現れる。
そう、突然倒れる老人・ガンテツだ。
黄泉姫はこの辺りから全てを無視し始めたが、愛姫子はまたそれとは違っていた。
直ぐにガンテツの元へと駆け付けると、またしても予想外な言葉を言ってのけた。
「グフッグフッ……く、苦しい……」
「じっちゃん、大丈夫!? あんたら! 出番よ! 早くこの爺ちゃんを病院に運びなさい!」
やっとチョップのダメージが和らいだかと思ったら今度はパシリ同然のその命令に憤怒の表情を浮かべるラヴチューンではあったが、割と話が分かる不良バレンコフは直ぐにスマホを取り出したが、何番にダイヤルすればいいのか躊躇った。
「ほんっと使えないわね! ほらあそこのコンビニの店員さんに直ぐに救急車を呼ぶように言って来なさいよ! 不良娘!!」
テキパキと指示を飛ばす愛姫子に促され、慌ててラヴチューンはコンビニへと駆けた。
観衆らはあれがコンビニという建物であり、救急車なる助け舟があるのだと知り、愛姫子を頼もしいと感じたか。
「はいはい、どうされました??」
「おおっと!? これはレアキャラのコンビニの店長・ローウェンですよ、伴峰さん!」
「至る所にいるんだな、レアキャラ……」
ローウェンは事情を聞くと即刻救急車を呼び、まるでそこの角に待機していたかのように直ぐに救急車はやって来た。
「おじいさぁーん、しっかりして下さいねぇ。脈を計りますねぇ」
「おっと更にレアキャラ、救命士・エピカですよ」
「だな! カワイイなぁ」
救命のプロであるエピカは即座に救急車にガンテツを乗せると最寄りの病院へと急行していき、何となく安堵の表情を浮かべる四人であったが、そんなやり取りをしているうちに第三の刺客がすぐそこまで迫って来ていた。
そう妊婦・マキである。
ご丁寧に愛姫子の前まで来ると、苦しそうに倒れ込んだ。
「ちょっ、何なのよこの町は! 人が倒れてばっかじゃないの」
イチャモンを付けつつも、不良二人を再度こき使う手はずを整える愛姫子。
ついでに店長・ローウェンもパシリその3に加え、妊婦の様子を伺う。
「す、すぐそこの産婦人科に……行く途中に急に陣痛がはじまってしまって……」
妊婦・マキはそれっきりぐったりと苦しそうに道に倒れ、さすがの店長・ローウェンも不良二人と共に慌てふためいたが、意外や意外、愛姫子は冷静になると、すぐ目の前にあったアパートの扉をノックし始めた。
アパートの住人に何事か話した愛姫子は突然扉を分離。即席の担架へと変えると妊婦・マキを搭載し、その最寄りの産婦人科まで搬送すると言ってのけた。
「これは意外です! かなり手際良いですねぇ?」
「あぁ! 妊婦さんも安心した顔してるぜ!」
「さぁ行くわよっ! 焦らず揺らさず、急いで運ぶわよっ」
「どど、どっちだよ!」
「命令しないでくんない!?」
「まぁまぁ! ここは協力して妊婦さんを病院へ送り届けましょう!!」
即席とは思えない連携プレーで妊婦・マキを無事に産婦人科へと送り届けた四人。
焦らず慌てず、急げとの愛姫子の音頭がなければここまでスムーズにはいかなかったとそれぞれは感じたか。
任務を終えたはずの四人は、それでも何となく無事に出産を遂げられるかが気になり、院の外でたむろしていたが、看護師の第一報に歓喜に湧くこととなる。
そして程なくしてレアキャラ、妊婦の旦那・バルザークが駆け付け、安産に胸を撫で下ろし、搬送してくれた四人に何度も何度も頭を下げ、手を握って感謝した。
「ありがとうございます! 母子ともに健康だそうです! あなた方には感謝しかありません!!」
「えへへ、いいのよ! それに不良と店長の協力がなかったらあたし一人じゃ何も出来なかったもん!」
愛姫子はラヴチューン、バレンコフ、そしてローウェンを見て満足気にそう言うと太陽のように眩しい笑顔を振りまいた。
その笑顔に因縁を付けたはずの不良二人も、いつの間にか巻き込まれはずの店長も、果たして自分達だけであったら、こうして困っている人を手際よく助けられただろうかと考えた。
そしてそこには命を守ったという素晴らしき達成感が確かに残り、いつの間にか愛姫子に絡んでいた不良ラヴチューンとバレンコフ、そしてコンビニ店長ローウェンらは笑顔で祝福し続けるのであった。
「いい笑顔ですねぇ! 伴峰さん!」
「あぁ! 愛姫子のリーダーシップがなかったらやばかったかもな」
その言葉に再び表情を和らげた審査員らは、確かに愛姫子の優しさを見た気がした。
その誰よりも清々しい笑顔はいつまでも人々の心に残るのであった。
あたかも太陽のように光り輝き、周りを照らし出す唯一無二の存在のように。
(エクセレント! 愛姫子ちゃん!!)
なんだと、アシガル。
つづく
いよいよ架橋となります。
長きに渡ってお読み頂いた皆様には感謝しかありませんが、もう少しだけお付き合い下さい!




