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三本勝負12 黄泉姫のゴール

 明後日の方角へと爆進する黄泉姫は、さすがに途中で違和感を覚え、立ち止まって次なる刺客と対峙していた。


 行く手を阻むのは羽織袴(はおりはかま)姿のオルドランであったが、もちろん黄泉姫にはそんな時代劇の衣服の知識など持ち合わせてはいなかったか、いつものように、ごくごく当たり前のようにいってのけた。


「またしても邪魔をしくさるか! ()ね!

 でなければ命はないものと思えっ」

「それはこちらのセリフぞ! この野盗め、我が道場から盗んだ密書を即刻明け渡せ! でないと我が剣のサビにしてくれるぞ!」


 なんのこっちゃと首を傾げる黄泉姫であったが、そういえばゴール目指して爆走する最中に、慌てて逃げるような素振りを見せる何者かと激しく衝突したことを思い出した。



「おっとこれはまたもや刺客ですねぇ。道場主の困り事を黄泉姫選手解決できるのでしょうかぁ?」

「おそらくさっきの泥棒とセットの刺客だと俺は思うな。うん」


 観客全員がその言葉に頷くと道場主オルドランと黄泉姫はピリピリと殺気立って互いを見据えた。


「そなたの密書などわらわは知らぬ! が、先程それっぽい者ならばわらわが来た方角へとそそくさと逃げていったが……」

「そこになおれ! 素っ首叩き斬ってやる!」

「話を聞いてなかったのかっ! わらわではないと言うとろうが」

「ピッピピーッ!! そこのお二方、路上で揉めない!」


 まるで噛み合わない両者は(すんで)の所で仲裁に入った若い女性に待ったをかけられた。


「おやおやぁ!? これは驚きです。あれはレアキャラの仲裁する女性ですねぇ。演者は竜人ロキスですよ伴峰さん」

「だな! メチャクチャやっててもお助けレアキャラが出てくるんだなぁ」



 ロキスはミニスカポリスの格好で二人の仲裁に入り、事情を聞くと、道場から通報があり、現在泥棒をローラー作戦にて炙り出す手筈となっていることを手短に伝え、付近の監視カメラからの情報にて犯人は黄泉姫ではないことを最後にオルドランに伝えた。


 頭に血が上っていたと改心したオルドランは黄泉姫への謝罪と犯人検挙をロキスに託し、道場への帰路に立つ。

 黄泉姫もやっと誤解がとけたかと安堵の表情を浮かべつつ、目的地となるゴールを目指す。

 二人共に向かう先は同じ方角ということもあり、肩を並べて歩み、キリッとしたミニスカロキスは敬礼しつつそれを見送る形となった。



「それでは必ずや犯人を逮捕致しますので! ご安心下さいっ!!」

「よしなにお頼み申す!」



 結局のところ黄泉姫の行動は、観客や審査員らに反面教師となって映ってしまったが、ラスボスにしてはそれほど残虐でもなく、かといって変に良いところも見せることのなかった黄泉姫に人々は何故か逆に親近感を覚えた。



「不思議な町であるな、ここは。ただ歩いているだけで災いが降って湧くとは」

「ハハハ。黄泉姫殿も相当な不運の持ち主であられるようだ! しかし生きているということは困難と向き合い、その反り立つ壁を乗り越えることと。(それがし)はそう思うのだがな……」



 その言葉に黄泉姫は頭の芯を大きな金槌で叩かれたように、痛烈に心に響いたのだが、いったいそれが何なのか理解は出来なかった。

 ただ思い出したことはあったか。


(そういえばこれはいち早くゴールを目指す勝負ではなかったか。わらわもそそっかしいものよ……)



 そんなことを考えつつもオルドランの道場へと到着した二人。

 そこがゴールであると分かった時には目映い光に包まれ、黄泉姫は元の会場へと舞い戻っていた。



 決して、少しも良い場面を見せることが出来なかった黄泉姫であったが、自覚するほどにそそっかしく、そして危なっかしい彼女の帰還に敵であることを忘れ、観衆らは温かく迎えたのであった。


「黄泉姫選手、無事に戻って参りました! 勘違いはあれどなかなか人間臭い道中でしたねぇ、伴峰さん!」

「だな! なんでもテキパキやれば魅了出来るってもんじゃねぇよな! あんな()()()()()を放ってはおけないって男もいるってもんだ!!」



 何もせず、まっしぐらにゴールを目指した黄泉姫であったが、それなりの評価を受け、負けると分かってはいたものの、それなればお手本となるようなゴールの目指し方を教授願おうと、愛姫子をモニターを通して見詰め続けるのであった。


「伝説のスズキよ、わらわに手本を示してみよ!」



 だが審査員はもとより、パーティーのメンバーたる美菓子も氷雨も、愛姫子がそう上手く優しさや真心を表現出来るのかは甚だ疑問であったし、最終戦は人間臭くはあっても文字通りの低レベルな戦いになるのではと一抹の不安を払拭できないのであった。


「愛姫ちゃん大丈夫かなぁ??」

「……黄泉姫みたいにタイムを競うんだなんて勘違いしていなければいいけど……」


 まるでフラグでも立てるかのような氷雨の言葉に、ニタニタと笑いながらアシガルは心の中で呟く。


(俺の予想通りだとすれば愛姫子ちゃんならやってくれるはずだよ、エロボディの氷雨さん。グヘヘ)



 なんだ、どっちがフラグなんだ、アシガルよ。



 つづく

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