三本勝負11 勘違いするラスボスさん?
先にゲートを潜った黄泉姫は気味の悪い亜空間を踏破し、平和で長閑な町並みに降り立った。
そこは例えるならば現代そのものであったが、もちろん黄泉姫にそれが理解できるはずもなく、さっそくマップと現在地を確認しながらトボトボと歩いていると、何かのお店のような建物が現れた。
用事はなしとばかりに、大して詮索もせず素通りしようとした黄泉姫を下品な声が引き止める。
「おいおい、そこのネーちゃん! キレイだねぇ、こっち来て一緒に遊ぼうぜぇ」
「ギャハハ! なんでチャイナドレス着てんの!? マジウケるんですけどぉ〜!?」
「おおっとぉ! さっそく出ました、第一の刺客! ヤンキーカップルです!」
「なんだぁ? 絡まれてどう対処するかっつーことか??」
「そのようですねぇ! ちなみにヤンキー男はバレンコフ、ヤンキー女をラヴチューンが演じておりますです!」
「ハッハッハッ!! よく似合ってるじゃねーか! 特にあのウンコ座りとかなぁ」
実況と解説により、設問一はヤンキーカップルにどう対処するか。
観衆は黄泉姫を興味深く見詰めていく。
「なんじゃ廃人ども。わらわは優しく寛大である。見逃してやるからさっさと去ね!」
「だとこらぁ!?」
「言ってくれんじゃない?! チャイナさん」
黄泉姫はあっという間に前後を囲まれたが、早くも次なる刺客が現れる。
腰の曲がった老人が今まさに一触即発となった両者の目と鼻の先で倒れた。
「おっと!? 早くも第二の刺客の登場ですねぇ! 倒れた老人ガンテツをどうするのか!?」
「なんだなんだぁ!? ちゃっちゃっと済ませねぇと次々沸いてくるぜ、これは!」
しかしそんなことは知らぬとばかりに、黄泉姫はヤンキーカップルを粉砕しようとしたが、当のヤンキーカップルは目前で倒れた老人をどうしたものかと慌てふためいていた。
黄泉姫は自分から注意がそれたヤンキーカップルを優しさから来る寛大なる真心で逃したつもりでいたが、衆目の目はまったく違っていた。
「おっと!? 黄泉姫選手、まさかのヤンキーカップルも倒れた老人も無視して先を急ぐようです!」
「なんじゃそりゃ! まさかぶっ倒すのをやめたことが優しさとかって勘違いしてんじゃないのかぁ?? しかも老人はなかったことにしてねぇか?!」
規格外の行動を展開する黄泉姫にもはや審査員らは絶句。
倒れた老人と慌てるヤンキーカップルがどうなるのかしか気になってはいなかったか。
しかし己の道を突き進む黄泉姫は知ったことかとさらに進むと、今度は身重な妊婦が道でうずくまっているのが確認できた。
「さぁ全てを無視して進む黄泉姫選手ですが、さすがに道すがらに辛そうにしている妊婦さんはほっと置けないですよね!? 解説の伴峰さん! あっ、ちなみに妊婦役はマキですねぇ」
「だな! けど倒れた老人も無視したからなぁ……」
黄泉姫はつかつかと歩きながら妊婦マキに近付くと、見下すように問い質した。
「これそこの者。邪魔じゃ脇に控えよ。わらわを誰と心得るか」
規格外黄泉姫はあら方の予想を上回る言葉を吐き、まさかの妊婦ですら助けようとはしなかった。
しかし黄泉姫はこんなことを考えていたのだ。
(ムム。こやつは身体に新たな命を身籠っている。わらわが触ればわらわの魅力的な妖気に当てられてしまわないか? ここは他にこの道を通る者に託すとするか)
なんたる不器用か、その心語りを口にすれば良いものを、鈍感にも黄泉姫はそうはせず、またつかつかと歩み始める。
場内から悲鳴のような切ない声がし、それと同時に黄泉姫への怒りが込み上げたが、何一つ解決しないままに、更に先を急ぐ。
「なぁ? ゴールしたタイムを競うんじゃないんだよな?」
「えぇ、もちろんです。何か気になることでも?」
「黄泉姫よぉ、早くゴールしなきゃと思ってねぇか?」
言われてみれば道を塞ぐ様々な刺客をシカトしながら歩行というよりは競歩に近い黄泉姫の進み具合はそれを物語っていた。
「黄泉姫、間違えてない?」
「えっ? そ、そうだよね。困ってる人を助けないとポイントにならないんじゃ……」
氷雨と美菓子の言う通りであり、場内にひしめき合う人々も逆に黄泉姫が早く勘違いに気付くことを切に祈るようになる始末であった。
「何ということでしょうか、黄泉姫選手、完全に競技の内容を誤解しているようです! ですがこちらからはなんの連絡も出来ないこの現状であります。こうなっては一刻も早く自力で気づいてもらう他はありません! おっと!? そんな中またしても刺客が現れたようです」
いったい幾つの刺客が用意されているのか、しかしそんなことは一顧だにしない黄泉姫は、競技がタイムを競うものであったならば快勝であったのだが。
(これは予想外だ……黄泉姫、お前バカなのか!?)
それはお前もだろ、アシガル。
つづく




