三本勝負編9 決定! 男を虜にするお色気対決
「黄泉姫! 黄泉姫! 氷雨! 黄泉姫! 氷雨! 氷雨! な、なんと! 審査員方は真っ二つに割れましたが……」
「やっぱり接戦かよ! けど最後のアシガルの票で決まるぜ!」
審査委員長アシガルはすっくと立ち上がると高らかにフダを上げた。
そこには氷雨の名が記されていた。
「決まりました! 氷雨四票、黄泉姫三票!! 僅か一票の差で氷雨選手の勝利です! おめでとうございまーす!!」
はっきりいって甲乙付け難い対決であったのは明々白々の事実であり、僅差も頷ける大接戦ではあったが、当然敗者となってしまったOL黄泉姫は抗議した。
「何故じゃ!? 確かに氷雨とやらもなかなかであったが、わらわがどうして負けか説明してもらおうかっ」
と言っても何度も言うように一票の差で決まった勝負を説明できるものでもなく、審査員らが一人ひとり思った事を述べ始めた。
「いやぁワシも迷いに迷ったがな……最後には黄泉姫よ、そなたの黒いパンストから目が離れなかった! 素晴らしいかったぞ!」
「いやいや清純さで言ったら氷雨さんが頭一つ出てましたよ!」
まずはベアーと長嶺が両者の長所を述べまくり、それに同調する形でさらに他の審査員らも口を開く。
「氷雨よ、許せ……キモノを着こなす氷雨は本当に美しく、お前を選びたかったが……やはりあの短いスカートからのパンストは捨てられぬ……」
褒められることといえばパンストばかりであるにも関わらず、黄泉姫は褒められる度に腰に手を当てて肩幅大に開いた美脚の付け根が見えそうな程であったが、反論も多数あったか。
まずはクイーン・スフレと海鏡が静かに語り始めた。
「確かにパンストと短いスカートのコラボは殿方の気を存分に惹きましたわ。ですが氷雨はそれを凌駕するほどの清楚さがあり、見事にキモノを氷雨専用の衣に仕立て上げたの。それに幾重にも重なる様が美しいし、弾力のある乳房を強調していたわ」
「そうだ。純真さもまた男を惹き付ける色気に他ならない……だがそのスーツ姿。ひどく参考になった。礼を言うぞ黄泉姫……」
この二人の反論に俄然盛り上がりを見せる黄泉姫派の審査員。
やはり極短タイトスカートとパンストは絶大なる支持を得ているのは事実であり、観衆も大多数が黄泉姫を推しているように見受けた。
しかしここまでだんまりを決め込んで来ていたジクイルとアシガルは順番に優勢な立場となった黄泉姫派を論破しゆく。
まずは評論家気取りで語り始めたのはジクイルだ。
「ハッハッハッハッ!! 確かにそのスカートとパンストは男心を射抜く爆発力を持っている! そして装着する黄泉姫が最高のプロポーションなのだからなぁ! だがしかぁーし! 皆々は忘れているようだ。大事な事をなぁ……」
謎掛けのようなジクイルの持って回った言い方にざわざわと騒ぎ出す場内であったが、続いてアシガルがその肝を説明し始めた。
「まだわからないのか!? この物語が始まって以来、氷雨さんは常にボディスーツで肌を隠してきていたのだ! 皆はいつの間にかボディスーツ+氷雨さんという図式が当たり前になる余り、たった今生脚でランウェイに立つ超絶激レアな瞬間を見落としている!! これを逃したらもう氷雨さんの生の肌を見ることは出来ないかもしれないんだぞ! さぁ溢れそうなおっぱいとヒラヒラとした裾の奥底に見え隠れする氷雨さんの生脚をとくと見るがいい!! もうたまらんぜよ!?」
アシガルの長い長い演説は確かに人々の心を揺さぶり、なるほど確かに氷雨の生の肢体など見たこともないことに気付いた審査員を始め観覧者らは、こぞって氷雨の胸を太ももを舐め回すように、目に焼き付けるように観察し続けた。
いつしかそれはパンストコールが生脚コールへと変わり、審査の正当性を場内が認めた瞬間でもあった。
接戦とはいえ二度に渡る敗北に力なく崩れた黄泉姫であったが、名勝負を繰り広げた両者にはいつまでも大きな拍手が届けられるのであった。
(わらわが連敗だと……)
そして黄泉姫は音もなく崩れる脳内の何かに人知れず絶望感を抱いていくのであった。
(黄泉姫。お前もメチャクチャ魅力的だったんだけどな。だけど氷雨さんの生脚には勝てないのだよ。フフフ……)
戦意喪失一歩手前の黄泉姫をまたもや不敵な笑みで嘲笑うアシガルなのであった。
本当に何がしたいんだ、お前は。
つづく




