三本勝負編8 ワフクの氷雨!
審査員らも言葉を忘れたかのように黄泉姫の妖艶なOL姿にデレデレであったが、それは女性審査員のクイーン・スフレと海鏡も同じであり、スフレはこの世にこんなコスチュームがあるのかと興味津々であったし、海鏡は珍しく熟考するような仕草でそのジャケットやタイトスカートを舐め回すように観察し、最後には例の黒パンストに照準を絞り、いつまでも見惚れていた。
実況の役割をしばらく忘れて同じく見惚れていたアッパレであったが、審査委員長のアシガルの咳払いで我に返り、もう一人の見慣れぬコスチュームに身を包んだ氷雨を改めて促した。
「これは失礼いたしましたぁ! あまりの色気に我を忘れておりました。黄泉姫選手、素晴らしい色気でありました! さぁ続きましてはアシガルパーティーからこの方、氷雨選手です! よろしくお願いします」
そのアナウンスに、黄泉姫の魅力に当てられた人々を呼び覚ますかのような凛とした声で語り出した氷雨。
「先日、初めてヒノモトへと渡りました。同じ人間族であるにも関わらず生活スタイルもそして衣服もまったく違っていました。その中でも特に私が気になった物をインラバの協力の元、少し手を加えて身にまとってみました」
その凛とした声は場内に響き渡り、目覚まし時計のように卒倒した人々を目覚めさせた。
そんな氷雨は色鮮やかなコスチュームをはんなりとした動きで強調して見せ、それに反応したのは同じくヒノモトの住人、居島であった。
「ほほう。我がヒノモトに古来より伝わるキモノじゃな? しかも色々と改良してあるようじゃな」
まるで美しい一枚絵でも鑑賞するかのように穏やかな瞳で静かに語った居島。
いわばヒノモトの民族衣装ということか、しかしそれにしては大胆に露出して引き締まった脚が際立っていた。
居島の言に呼応する形で口を開いたのは氷雨専用コーディネーターとなったインラバであった。
「そうです! 様々な柄が組み合わさって出来上がるキモノはそのほとんどが一点物! しかも今日はお色気対決ということでキモノの魅力と氷雨の魅力を最大限に発揮させるよう心掛けました。そしてヒノモトに伝わる最高峰の美女性をイメージしたのです」
インラバの言葉に誘われるように人々は氷雨の言葉に出来ぬ程の美しさに改めて見惚れた。
幾重にも重なったキモノは氷雨の首筋から鎖骨までを大胆に露出させ、満開の牡丹のようにその豊満さを強調。
そして肩から胸元、腰を包むキモノは百花繚乱、様々な花々が咲き乱れ、キモノを際立たせるようにくびれを織りなす帯から下は、おそらく花弁を表現したのであろうか、裾は左右前後と四つに別れ、引き締まった氷雨の脚が見え隠れしていた。
人々の注目が集まった所で氷雨は、その凛とした声で一言言うと、柔らかく一回転して悩殺ボディでニッコリと笑った。
「満開に咲いた氷雨をご堪能あそばせ♥」
両手にはこれまた色彩豊かな扇を持ち、キモノと連携したかのように様々なポージングで人々を魅了してやまない。
「こ、これはまさに奇跡の一枚絵とでもいいましょうか?!」
「だな! 相変わらずの美人てのは変わらねーんだけど、なんだろうなぁ? なんか今までと何かが違う気がするんだけどなぁ……」
不思議なワフクに身を包んだ氷雨もまた黄泉姫と同等の喝采を浴び、最後に決めポーズで締め括った。
両手を左右に一回伸ばし、両の扇をヒラヒラと舞う花吹雪のようにしっとりと動かしながら胸元でクロスさせ、その決壊寸前の胸を左右から前面に押し出した氷雨は、少し腰を落とし、四つに別れた裾を両股で挟み込み、澄んだ瞳で一言。
「地上に咲く一輪の花。それは貴方だけのものでありんす♥」
ズキューン。
黄泉姫とはまた違った魅力を醸し出す氷雨は、かつてヒノモトを魅了したという花魁のような語り口で、一度は黄泉姫の信者と化した徴集を見事にカムバックさせ、拍手喝采、鼻血噴出の大歓声のまま第二回戦を締め括った。
「さぁ両者のプレゼンは終了しました! あとは審査員方の出した答えを待つばかりとなりましたが、伴峰さん!」
「どっちも魅力的だったよな! なんだろうなぁ、決め手は脚になりそうな気がするんだけどな?」
興奮冷めらやぬ実況と解説の両者は、今回ばかりは審査員らもひどく迷っていることを肌で感じていた。
ある者は頭を抱え、ある者は腕組みして目を閉じていたし、両者を交互に何度も見る審査員の姿もあったが、遂に結果発表の時がきた。
実況の一声で同時に上げたフダを見て、ベアーから順に上げた名前を読んでいく実況アッパレなのであった。
(この勝負の本当の素晴らしさに気付いた者が果たして何人いるのか……楽しみだ)
アシガル、お前なに言ってんの。
つづく




