三本勝負編5 お料理対決、審査!
「それでは両者の手料理を食し終えたところで胸に秘めた判定をお願いします!」
横並びに鎮座した審査員を向かって左側から促したアッパレ。
順番で言うと獣王ベアー、ヒノモト居島、竜王・長嶺、魔王ジクイル、クイーン・スフレ、スペシャルゲスト審査員の海鏡、そして最後には審査委員長アシガルの順であった。
「!?!? な、なんと驚き!! 全員美菓子選手のフダが上がりました! まさに完封! 完全試合とでも言いましょうか!?」
「まぁ妥当な線だわな。決して料理の内容が劣っていた訳じゃねんだろうけど、その辺はインタビューして直に聞いてみるこった!」
会場内がどよめき、予想だにせぬ結果を目の当たりにした黄泉姫は猛抗議をしたのは言うまでもなし。
「な、何故じゃ!? わらわの料理は完璧なはず! 貴様らサトウに賂でももろうておるのではなかろうなっ!!」
国会の痛烈な野次のように当たり散らす黄泉姫であったが、実況アッパレはそれをなだめ、審査員一人ひとりに美菓子の勝因と黄泉姫の敗因を伺う。
リポーター・ミューロはまずはベアーにマイクを向ける。
「いやなに。始めに言っておくが、双方共に美味かった! それは事実じゃが、優劣を付けるのならばやはり美菓子の手料理であろうて」
「左様。黄泉姫殿、そなたの料理、確かに旨かった。初めて食べる食材ばかりであったが、調理の腕がなければここまでの絶妙な物にならなかったであろうよ」
ベアーと居島は以心伝心しているかのように共鳴した答えを示した。
そして長嶺とジクイルが追い打ちを掛けるか。
「ベアー様と居島殿の言うことは最も! だが黄泉姫、あなたの料理には奇抜さはあっても何も物語ってはいない……」
「そこじゃ! 余もこれまで魔界の名シェフの料理を堪能してきたが、黄泉姫ほど食材を活かした味付けを他に知らぬ! が、しかし。もう一つ味に奥行きが欲しかった! サトウのようになぁ……」
完璧なはずの自身の料理に足りないものがあると言われた黄泉姫は阿修羅の如く美菓子を睨み付けると、答えを導き出すこと叶わず、逆に問い質す。
それを一言で答えたのは海鏡だ。
「愛が足りない……」
「あ、愛じゃと!? くっ……そんな味付けなどないわっ!!」
さらに騒ぎ立てた黄泉姫に審査委員長アシガルが遂に口を開いた。
「まだ分からないのか! 美菓子ちゃんは不慣れながらも相手のことを一番に考えて献立を決め、おかえりから始まって最後にはお風呂か自分かと魅惑のセリフをあのキュートな顔やムチムチの肉体から発したんだ!! それに比べ黄泉姫、お前はどうだ? 高級食材にこだわるあまり、肝心の誰にどう食べてもらうかといった一番大切な部分がそっくりそのまま抜け落ちていたんだよ! 言っただろ、この勝負は男の胃袋を掴むお料理対決だってなぁ!!!」
そこまで言われてガクンと崩れた黄泉姫は、確かに手料理に対するテーマが欠けていたと気付いたか。
魔界の晩餐と銘打ってはいても、美菓子のように前後に物語るものは皆無であったと悟り、素直に負けを認めぬ訳にはいかなかった。
(確かにサトウは調理中、その手を止めては何事かつぶやくような動作をしていたが……)
そう思った黄泉姫はそれがなんだったのか聞かずにはいられなかった。
聞かれた美菓子は、なおさら恥ずかしがりつつも、もはや既定路線のエプロンと共にたわわな胸を挟み込むとモジモジと上半身を左右に揺らしながら解答。
「す、好きな人に美味しく食べてもらいたいからぁ……何度も美味しくなぁれ❤ って呟いてたの……」
ドキューン。
審査員はもとより、男性観覧者らはハートをぶち抜かれたかのようにもんどり打ってたわわでキュートな美菓子にくびったけとなり、第一回戦・男の胃袋を掴むお料理対決は美菓子の勝利で幕を閉じるのであった。
「改めまして、第一回戦、男の胃袋を掴むお料理対決は美菓子選手の勝利でーす!!」
「ふぅ……なんとか勝ててよかったぁ」
やっと緊張がとけた美菓子はワナワナと自席に戻り、ニコニコしながらガッツポーズを決める愛姫子と、小さく拍手する氷雨に迎えられヘナヘナと座り込んだ。
「やれば出来んじゃない! 見せてもらったわよ、あんたの愛の手料理❤」
「もう! 美菓子ったらおませさんなんだから! 見事に男性の心を掴んだわね!」
キャッキャッと騒ぎはしゃぐ三美少女を呆然と見る黄泉姫は、何かが音をたてて崩れていくような錯覚に陥ったが、三本勝負のまだ一つ目しか終わってはいない。
気を引き締めつつも、スタンディングオベーションが巻き起こる会場を静かに見渡すしかなかったのであった。
(フフン。これからが地獄だぞ、黄泉姫ぇ)
そう心脅しをかましつつ、不敵な笑みを浮かべるアシガル。
なんだそれは。
つづく
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