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三本勝負編4 お料理対決、実食! 美菓子の手料理

 胸が高鳴るとはまさにこのことか、黄泉姫側のテーマは魔界の晩餐であり、珍味を駆使した達人級の腕前を披露したわけだが、美菓子のそれは手慣れた物ではなかった。

 決して見た目も黄泉姫同様に良いものでもなかったのだが、テーマにそそられたのは審査員男性陣であった。



 ()()()()()()()()()()()()()()



 なんとも心地良い響きが爽やかに耳元に届いた。

 キュートな美菓子が、なんと彼氏に振る舞う。

 しかも初めてのゴハン。


 スカイブルーのエプロンからでも確認がとれる美菓子のたわわな胸を挟み込み、前に手を組んで恥じらいながら目をそらす美菓子を見ているだけでムラムラする審査員らは、一斉に頂きますと手を合わせて()()を見た。


 ()()に作ったのだから食す自分自身は美菓子の男になった気分で彩り豊かなメニューを見渡した。


「召し上がれ❤」


「おぉっとぉ!? 先程の黄泉姫選手の時とはまるで別人のように手を合わせておりますねぇ審査員の方々は!」

「だな。あのキュートな美菓子の彼氏になってメシが食えるなんて羨ましい限りだぜ」


 羨む実況と解説を尻目に早速美菓子陣営のメニューをリポートするのはミューロだ。

 彼女はまずは上気した顔で食事を進める獣人王ベアーに食レポを敢行。

 ベアーは唸りながらも、なんとも幸せな表情で語りだす。



「これはうまい肉じゃがだ! もう少し煮詰めたらじゃがいもが崩れてしまうほどに絶妙な仕上がりだ! 固すぎず、かといって柔らか過ぎず。それでいて口に運ぶとホロホロじゃ!!」


 その語りに割って入ったのはワショクの達人・居島だ。


「まさにその通り! それに彩りも完璧じゃ。じゃがいも、にんじん、バラ肉。そしてそれらにからみつく糸こん! それらに絶妙なバランスで配置されたインゲンがまたいいアクセントになっておる!!」


 好評価を受けた美菓子は、なおさらもじもじしたが嬉しそうに相好(そうごう)を崩した。

 続いて感想を述べ始めたのは竜王・長嶺か。


「肉じゃがもさることながら、食事の基本たるご飯と味噌汁が凄く美味しいですよ! 米の炊き具合から味噌汁の味付けまで完璧ですね」

「健康に気を使って減塩にしたんです!」



 まだうら若き美少女にして、既に彼氏の健康に配慮する美菓子の優しさに感動したのは、食事制限下にある中年ベアーと老人居島であり、ジクイルもまた顔を綻ばせて口を挟む。


「忘れてはいけない、きんぴらごぼう! まるで寂れた食堂の、年季の入った女将が作ったような味わい深いこの風味! 決して高級料亭とは言えぬが、懐かしさと温かさを感じる!!」


 それぞれが論評しつつも、審査員らは食し終えるまで箸と茶碗とを離さなかった。

 地味なメニューではあるが、確かにそこには彼氏に振る舞う初めてがぎゅうぎゅうに詰め込まれていたか。


 肉じゃが、きんぴら、そしてワカメと豆腐の味噌汁はさながら走攻守揃ったマルチプレーヤーのように審査員らの口内のダイヤを回ったに違いない。

 そしてクイーン・スフレは男性陣とは違った視点で美菓子御膳を見ていた。



「健気さが伝わって来ますわ。黄泉姫さんの料理は皿からナイフに至るまで高級品でしたけれど、美菓子のこの食器の数々。きっと安い物で揃えたのだろうけれど、おそらく美菓子の食器とペアで揃えたであろうことが想像できますわ。そのあたりがまた殿方(とのがた)の心を揺さぶるのではなくて?」


審査員一同が何度も何度でもスフレの言葉に頷きをくれ、解説の伴峰は黙ったままパクパク食べる海鏡に催促した。


「おい、海鏡! お前も何かねーのかよ」

「……美味しい…… 味噌汁が五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡る……」



 海鏡が年寄り臭い評価をしたところで両者の手料理の実食が終わった。

 審査員らはまるで大学生にでもなったかのように美菓子にお帰りなさいと迎えられ、帰宅時間に合わせて作られた女子力を見事に表現した熱々の夕食に満足げな顔をし、多少不慣れであっても、そこには確かに愛情たっぷりの味付けが備わっていることに感無量であった。


 そしてそんな審査員らを今一度、虜にするかのように美菓子は依然としてもじもじしつつ、停滞する火山さながらの男性審査員らを噴火させるようなセリフでしめくくった。


「おいしく食べてくれてありがとね。この後どうする? お風呂にする? それとも……私にする❤?」



 もはや審査員らはメロメロとなってポワポワとなったことは言わずもがな。

 魔界の珍味と敏腕調理師としその実力を遺憾なく発揮した黄泉姫と、手料理を振る舞うという行為を見事にストーリーへと昇華させた美菓子のお料理対決は遂に審査へと移っていくのであった。


 自信満々な黄泉姫といつまでも顔を真っ赤に染め上げる美菓子を交互に見つつ、実況アッパレは審査員らにどちらの手料理が良かったか、順番にフダを上げていってもらうのであった。


(フフフフフ。俺の術中にはまったな。黄泉姫。クフフ……)


 そして審査委員長アシガルは内心ほくそ笑んでいくのであった。

 なんなん、お前。



 つづく

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