三本勝負編3 お料理対決、黄泉姫側実食!
司会者・アッパレの進行の元、まずは黄泉姫の禍々しいお料理を食すこととなった審査員らであるが、グロテスクなその見た目に誰一人として用意された箸ならびにナイフとフォークを取る者はいなかった。
「どうした、早く食べぬか! せっかく魔界の珍味を集め、粋をこらした料理ぞ! 冷めたら不味くなる。さぁはようせい! 名付けて魔界の晩餐フルコースじゃ」
最後の晩餐になりそうだと審査員らは真っ青になって重々しくも箸を取り、目をつぶって口に運んでみて驚いた。
みてくれこそグロテスクでどす黒い魔魚の煮付けはなかなかの味付けであり、パッと華が咲いたかのように滑らかに感想を述べ始めたのは美食フーディ・ジクイルだ。
「ま、まさかこれは魔界の希少魚、魔烏鰈では!?」
「さすがじゃジクイル。その通り、魔界は黒死海の泥炭地にしか生息しない幻の魔烏鰈じゃ! コトコトと煮込んだその身は美味であろうが」
満足気に解説する黄泉姫と、珍味中の珍味たる魔烏鰈の、その恐ろしいまでに絶妙な味付けが厚い身によく染み込んでいることが重なり、審査員らを美味いと唸らせた。
そして次に小皿に注目したのはワショクの鉄人・居島とクイーン・スフレだ。
「おぉ、それか。魔界の百薬と言われる立ち草、マンドラコラの浅漬けじゃ! 食してみよ。滋養強壮、肉体疲労に抜群の効果がある逸品ぞ」
「こ、これは! 美容にも良さそうですわ!」
「ホホホ。その通りじゃ」
なかなかの料理上手であることを確認した実況アッパレは興奮気味にニッタさんを抱っこしつつ、解説者・伴峰に質問する。
「解説の伴峰さん! これは黄泉姫はなかなかの手練でありますなぁ?」
「だな! 幻の食材をうまいこと調理してるところをみると玄人だわな!」
「はい! これは予想だに出来なかった展開となっております。まさに料理は見た目だけではない! さぁ魔界のフルコースはまだまだ続きます」
次第に見たことのない料理の虜となった審査員らは大皿に乗った不気味な豚のような姿焼きと更に盛り付けされたライスのような物に手を付ける。
「あれはなんでしょうかぁ? 解説の伴峰さん!」
「あれは犬土の姿焼きじゃねーのか? 呪いの食材と言われた忌み嫌われた食いもんなんだがなぁ」
ハッキリ言って美味しそうには見えない醜い姿焼きがメインディッシュであると黄泉姫に通告された審査員らはナイフとフォークの手が止まったが、獣人国王・ベアーは他のどの料理よりも美味しそうに頬張った。
「これは美味い! 呪いから生み出されると聞いた犬土をここまで美味に仕上げるとは。相当な腕と研鑽があったのではないか!?」
「獣の王よ、よくぞ言ってくれた! わらわの気高き呪いで生み出した犬土をここまでの料理へと変化させるには膨大な時間と労力をかけたわ! 生物が腐敗する異臭を断ち、美醜にしたは我が祖伝来の調味料! さぁ、犬土と共に魔界の大地に深く根を張り、大樹の如く天を突き刺さす稲から刈った漆黒米を食すがよい! 最高の組み合わせぞ」
「……おいしい……」
魔界の珍味、魔烏鰈から始まった黄泉姫自慢の御膳・魔界の晩餐はマンドラコラの浅漬け、犬土の姿焼き、そして漆黒米。
最高級食材とそれを縦横無尽に調理する腕を持つ黄泉姫の実力とが折り重なり、見てくれを凌駕する美食であったか、海鏡のその一言を潮に、審査員らは食べることに終始し、いつしか実況も解説も、そして観覧席に居並ぶ人々を魅了し、こぞってヨダレを垂らすほどであった。
その光景を満足気に見渡した黄泉姫は早くも勝利宣言し、甲高い笑い声が会場を包んだが、美味しいと評価はしたものの、まだ対戦者側の実食は終わってはいないと遮ったのは本大会の実行委員長にして審査委員長のアシガルであった。
「いやいや、まさか魔神である黄泉姫選手にこれほどまでに深みのある料理の腕があったとは驚きでした! さぁお次はアシガルパーティー代表、伝説のサトウ選手が丹精込めて作りし手料理を実食頂きましょう! 解説の伴峰さん、見所はなんでしょうか?」
「そりゃやっぱりあれだけの御膳を揃えてみせた黄泉姫との違いをどう表現するかだわな!」
「なるほどぉ! ではサトウ選手、よろしくお願い致します!」
まさかの黄泉姫のおどろおどろしい料理が絶賛の嵐を巻き起こすとは思ってもいなかった美菓子は、ウジウジしながらも一人ずつにお盆に乗せた手料理を配膳し、審査員全員に配り終えたところで可細い声で上目遣いに説明し始めた。
「こ、今回の料理にはテ、テーマがあります……題して……か、彼氏に振る舞う初めてのゴハン…………です!」
恥ずかしそうに最後まで述べた美菓子は顔を真っ赤にし、目を瞑ってぶりっ子をかました。
その愛くるしい素振りと、なんといってもその料理の題名に胸がときめいたのは審査員は男性陣であろうか。
そして配膳されたお盆の上に乗る美菓子の料理をゆっくりと覗き込んでいく審査員らなのであった。
本当にこれでいいんだな、アシガル。
つづく




