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決戦編20 どうする黄泉姫

ゆっくりと降りてきた黄泉姫は余裕すら伺える程に落ち着きを取り戻した。

よほど北に潜伏させていた眷族に自信があるのか、確かにヴォルクスやジクイルと同等の魔族が本当に百という数で攻めてきたとしたら負傷者が続出する連合軍に勝ち目はなかったのだが。


しかし黄泉姫は完全に見誤っていた。

それは愛姫子の戦闘力に驚きを禁じ得なかったことと、幾度となく繰り返されたアシガルの卑猥な言葉が完全に黄泉姫の神経を疲弊させていたからだ。

とにかく自身の眷族とは異質な()()を持つ者らが北から超高速で向かってくるという事実を、己の都合の良いように解釈していたのだ。



依然として愛姫子+アを見据えたまま、ついに到着した者に背を向けたまま、黄泉姫は言葉を発した。


「これまでよう戦った、誉めてつかわす。だが初めから魔神に敵う存在などありはしなかったと観念し、その首を差し出せ! さぁ我が眷族共よ、勇者アシガル、伝説のスズキ、サトウ、タカハシを筆頭に表世界の首脳陣を抹殺せよ!」



だが、その命令を遂行する者は一人としていなかった。

それどころか先程まで焦っていた愛姫子の表情が驚いたような顔に変わっており、到着の挨拶一つない援軍に違和感を覚えた黄泉姫は素早く背後を確認した。

そこには眷族の姿は一つとしてなく、見たことのないバリバリヘアーの男が巨岩に座り、そのすぐ横にゆらゆらと上下に動きながら浮遊する少女の姿があった。


慌てた黄泉姫は直ちにその見慣れぬ二人を誰何(すいか)したことは言うまでもない。



「だ、誰じゃそなたらは! 何故我が眷族が来るはずの方角から現れた!!」


ニヤニヤしながら黄泉姫ではなく愛姫子の様子を伺うバリバリヘアーは視線を横の少女へと移すと少女はボソボソと喋り出した。


「私達は龍神だ」


タメ息をついたバリバリヘアーは、相変わらずの説明力不足を補うように声を張って答えた。


「愛姫子達の戦いを一目見ようと竜人国から来る途中に()()()に絡まれてなぁ。そいつらを退治した通りすがりの龍神っつーこった!」


「ば、伴峰!? それに海鏡じゃない!」

「よぉ! 愛姫子。大好きなバトルはどうなったよ?」

「見に来たよ……」


この世界のいざこざに介入しない掟を持つはずの龍神らが、まさか助勢してくれていたことに、驚きを隠せない愛姫子であったが、アシガルは連呼して感謝した。


「いやぁさすが龍神! ウン。どうせ暴れたかっただけなんだろ? いやいや嘘です! 感謝ですよ、ありがたい! ウン。感謝でーす!!」


相変わらずの軽い調子のアシガルが愛姫子と同化していることに気付いた龍神二人は、いよいよ天界から地上を救うために送り込まれた勇者が本領発揮しているのだと確信。

しかし本物を見るまでエロでおバカなアシガルが本当に勇者なのか半信半疑であったことは事実であった。



「へぇ。お前が本当に勇者なのな。だったら邪魔な奴らは俺らが排除したからよ、」

「やっちゃえ愛姫子と変態勇者アシガル……」


その言葉に勇気百倍、愛姫子は竜王牙と幻狼剣を握ると、まだ整理のつかぬ様子の黄泉姫に啖呵(たんか)を切った。



「どうやらそういうことらしいわよ! 観念するのはあんたのほうよ! 黄泉姫!!」


ギリギリと歯軋(はぎし)りしていた黄泉姫はいつの間にか本当に観念したかのように無気力となったが、まさか本当に観念されてはぶちのめす手筈であった愛姫子の計算は狂うと、今度は挑発したが、やはり黄泉姫は無気力のままであった。



それを遠目に見ていた氷雨は美菓子に言葉をかけた。


「行きましょう、美菓子」

「えっ? でも龍神さん達も来てくれたし、愛姫ちゃんだけでも何とかなるんじゃ……」


美菓子の言葉を切るように氷雨は何故か冷や汗をかいて否定した。

どうやら氷雨にはこの後の展開が読めたのか、協力して挑まないと本当の勝利はないものと肌で感じていたのだ。



待ちに待った眷族らは突然現れた龍神らの手によって壊滅。

己一人では手を焼く愛姫子+アとサトウとタカハシ、そして強大な力を有する龍神が、しかも二人。

この時、黄泉姫は温存していた闇の魔力を全開にしなければ己の敗北は必至であると頭の中で計算していたのだ。


「まぁ後はお前らだけでもなんとかなるだろ。俺らは見物させてもらうからよ!」

「魔城の守りはまかせろ……」


そして龍神らが戦いには加わらないのだと知ったその時、黄泉姫はその長きに渡り造り上げた究極の魔体の本領を発揮しゆくのであった。



(もはや温存はやめだ。全力で叩きのめすのみ!)



つづく

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