決戦編19 絶望か、はたまた
空に向かって稲妻を数回発した黄泉姫は狂ったかのように笑い、愛姫子+アは何が起きるのかと身を竦めて方々を見渡したが何も起こりはしなかった。
「なんだ? 何もおこらないぞ直江!」
「おかしいわね。いよいよ頭がおかしくなったんじゃないの、直江」
「バカ者! 何回言えばよいのだ! わらわは直江ではない、黄泉姫と呼べ、たわけ者めっ」
突然空に向かって稲妻を発してみたり、ネジが飛んだかのように笑い転げたり、遂にはもう聞き飽きたツッコミまでこなした黄泉姫は、ご丁寧に説明を始めてくれた。
「わらわが意味もなく稲妻を発するするとでも思ったか。あれは大地に潜む眷族共を呼び寄せる合図。待っておれよ、すぐにでも一騎当千の精鋭が我が元へ集う。その時こそ、貴様らも魔城に身を隠す輩も一網打尽にしてくれる! ワハハハハハ」
それを聞いてさすがの愛姫子+アも慌てたが、実際どの程度の数であり、実力がいかほどなのか即席インタビュアーとなって質問する。
わざわざ答える必要もないはずの黄泉姫は、その内部事情を細部に渡ってべらべら開示したのには二人は驚いた。
「数はおおよそ百! 実力は何奴も四天王の上、ヴォルクスやジクイル程度であろうよなぁ」
数もさることながら実力が四天王の上、しかも魔王と魔竜王と同等と聞いては黙っているわけにもいかず、即刻魔城へと舞い戻り、事の次第を皆に伝えたのは言うまでもない。
「な、なんじゃと!? ヴォルクスやジクイル様と同等の輩が百だと?!」
魔参謀ビジョンを筆頭に、それだけの戦力がまだ残されており、実際に参集してきたら最後、もはや勝ち目はないと諦めかけたが、ラヴチューンやバレンコフらは一斉に決起した。
「だったら玉砕覚悟で最後まで戦うだけでしょ!!」
「ラヴチューンの言う通りだぜ! やりましょう、バルザーク様! オルドラン様!!」
若き魔軍幹部らに鼓舞されたか、バルザークとオルドランもニタリと笑うと残りの魔軍幹部らをまとめ上げ、迎撃の支度を始めた。
それは各国の代表らも同じであり、マンテスはテンガン、獣人国は王が、妖精国はクイーンスフレとシンが。
そして竜人国は竜王・長嶺と宰相・久遠、ヒノモトは居島と雲月がまとめたか。
そして愛姫子は無造作に黄泉姫へと突進すると、再び猛烈な攻撃を再開。
慌てたのは他でもない黄泉姫であった。
「なっ!? 何をする! まだ我が配下が来ておらぬぞ」
「ハンッ! 誰が大人しく待つって言ったのよ?」
「そうだそうだ! ほらほら、しっかりと防がないと胸元がぱっくり引き裂かれてポロンてしちゃうぞぉ~」
再開された愛姫子+アの攻撃は黄泉姫に鳥肌を立たせた。
催眠術のように頭の芯に響くアシガルの何ともいやらしい声に無敵を誇った黄泉姫の完全な弱点となっており、さばききれず愛姫子の攻撃の直撃を受けるようになってしまった。
「最初は最悪な気分だったけど、あんたの言葉攻めとあたしの攻撃はコンビネーション抜群だわね! 追い詰めるわよ、アシガル!」
「アイアイサー! ほれほれ、スリットから黒のサテンパンティが顔を出してきたぞぉ~」
「なっなに!?」
ラスボスにしてウブな黄泉姫は恥ずかしがりながらも股の辺りを押さえて真っ赤に恥じらったが、愛姫子はそんな黄泉姫をお構いなしに攻めまくる。
意地かプライドか黄泉姫も己の力を出し切る覚悟で応戦する。
アシガルの言葉攻めにはたじろぐが、こと戦いにおいてはやはり抜きん出た実力者である黄泉姫、深紅の矛の切っ先からお得意の稲妻を撃ち愛姫子に反撃しつつも、盾を持つ手を魔城に向けると速攻の衝撃波を放った。
「来たわよ! 美菓子!」
「わかってます、お姉様!」
しかしそれは待ってましたとばかりに身構えていた美菓子と氷雨に防がれた。
そして稲妻を盛大にないだ愛姫子は、またもや接近戦に持ち込もうとしたが、そうはいくかと今度は黒光りする激しい風を発生させ、愛姫子の動きを止めてみせた。
「まだそんな力があったの? さっさと敗けを認めなさいよ!」
「誰が! わらわは無敵にして最強なる魔神ぞ! そなたらこそわらわにかしずくがよいわ!! 魔幻風怪慚!!」
バチバチとぶつかり合う愛姫子+アと黄泉姫。
魔界の旋風に動きを封じられた愛姫子は森に叩きつけられ、大木を何本もへし折りながら吹き飛ばされた。
そしてついに黄泉姫が待ちわびた瞬間がやって来た。
愛姫子+アを見下すように黄泉姫は笑みを浮かべて早くも勝利宣言する。
「我が眷族がやっと到着だ。これで貴様らすべてを抹殺し、魔界と表世界、そして天界をも手中に収めてみせようぞ! ハハハハハハハハハハァァァァ!!!」
満身創痍になりながらも黄泉姫が見詰める北の空を仰いだ愛姫子であったが、どうやらラヴチューンの言うように玉砕覚悟で挑まなければならないと決心していくのであった。
つづく




