決戦編15 龍神、動く!
アシガルがついに真の力に目覚めたその少し前まで話は遡る。
ここは竜人国にある龍神殿。
戦いの邪魔になるからとマンテス国への従軍を断った前宰相・籠場は月番龍神が居る部屋の扉をノックしていた。
「あー? 誰だ」
「籠場でございますです」
少し間があった後で、入室の許可を出したのは床に寝転び、つまらなそうにしている龍神・伴峰であった。
伴峰は籠場の顔を見るとのけ反り、無気力に何をしに来たのかと面倒臭そうに言った。
「そろそろ戦いも佳境。世界の行く末が決まろうとする時に龍神様方はどうしておられるのやらと思いましてなぁ」
「フンッ! どうせ俺らは見届けるしかないんだからよぉ……何をどうこうなんてなんもねぇよ。なぁ海鏡」
同意を求められた海鏡は直江が本性を現し、黄泉姫となった余波なのか天界との通信チャンネルが遮断されたモニターの復旧に忙しいこともあって無視した。
「ケッ! どいつもこいつもシケてんだよなぁ……」
仰向けになって天井を見詰めた伴峰であったが、切れ者として知られていた籠場が大した理由もなく訪れるものだろうかと考えを改め、飛び起きると籠場を見た。
やはりと言うべきか、籠場は何らかの情報をもたらすためにやって来たようであり、薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「なんだよ! 言いてぇことがあんならさっさと言え!!」
青筋立てた伴峰は籠場ににじり寄ると胡座をかいて眉を吊り上げた。
籠場は中央大陸北部に新手が出現したことを報告した。
それは魔元城二の丸にて黄泉姫と五明が秘密裏に私兵をヴォルクス陣営から切り離し、中央大陸北部に駐屯させていた部隊であったか。
「ふ~ん。それで? アシガル達も気付いてんのか?」
「いやいや。アシガルパーティーは目下ヴォルクスと四天王らと激しい戦いを繰り広げ、撃ち破ったばかり。おそらく伏兵には気付いてはおらぬかと」
またまた天井を見上げた伴峰は白龍にして真羅八龍神の長たる巌鉄に自重するように言われていることを鑑み、やはり自分達は動いてはならぬのだと言い張ったが、それは間違いではないのかと諭したのは他でもない籠場であった。
「それは違いますぞ。敵はどうやらもっと巨大な、天界おも脅かす存在と心得まする。現に天界との連絡は取れず、事態究明とその場の判断は月極め当番の伴峰様と海鏡様に委ねられているとこの爺は思いますが」
またまたまた腕組みして天井を見上げた伴峰は考えがまとまらず、胡座のまま真後ろへと転がったが、それを見下ろす形で小さな海鏡が突っ立っていた。
伴峰はビックリして起き上がり、モニター修理は済んだのかと海鏡に質問したが、無口な彼女は顔を横に振るばかりであった。
だが、何事か決断した海鏡はゆっくりと静かに口を開いた。
「決戦の地へ行くぞ。伴ちゃん…………」
「あ!? あんだってぇ?! けど行ったって俺達は手を出せないんだぜ?」
海鏡は籠場と顔を合わせるとニヤニヤしながらこう付け足した。
「今なら天界に知られることもない。それに現場に向かう途中に魔族がいた。私達はその魔族にからまれやむなく退治した……ということにすればいい……」
そう唆すように言ってのけた海鏡とニタニタする籠場を交互に見た伴峰も、なるほどそういうことであれば仕方がないかと翻意し、ワクワクしながら立ち上がった。
「よっしゃ、海鏡が俺を誑かしやがった! 俺はそれに乗っかっただけだかんな! 籠場、お前はその証人だかんな。行くぞ、海鏡! 現場に急行だっ」
「……ウン……」
「ホッホッホッ。お二人ともお気をつけて」
この龍神らの行動がアシガルらを窮地から救うことになるのだが、それはまだ少し先の話である。
「いっくぜぇ! 海鏡ちゃんと付いて来いよー!!」
「……ウン……」
暇をもて余す若き龍神二名は掟を破り、今狭い詰所を飛び出し、暗雲立ち込める中央大陸へと超高速飛行で向かうのであった。
つづく




