本丸編10 戦略的撤退!!
もはや意識を失っていた氷雨を雲月と前戯に託すと、愛姫子はロングサン、美菓子はジクイルと共にヴォルクスと向かい合い、上空では先刻からシンガンが五明に睨みをきかせる構図となった。
そしてアシガルは、パーティー以外のメンバーは格好の標的にされると思い、本来であれば頼りたくもないし喋りたくもない長嶺とヒソヒソと話し込んだ。
「おい! お前達、戦いの邪魔になるから一時撤退しろよ。このままじゃ愛姫子ちゃん達が全力で戦えない! 合図したら速攻であのデカイ穴から脱出しろ!」
「…………。残念だがこればかりは君の言うことが正しいようだ。ロキス! 聞こえるかザードを元の姿に戻し、僕とロキス、そしてザードで他のメンバーを乗せて一気にこの本丸を脱出する! 魔軍の方々もいいですね?」
オルドランもこのままここに居てはジクイルの戦いの妨げになると感じていたのだろう、バルザークとバレンコフと照らし合わせてその時を待った。
「愛姫子! 美菓子! ほかのみんなを撤退させる! 援護を頼んだぞ!」
その言葉に怒気を含んだ顔をロングサンに向けたままの愛姫子とマジカルキュートボウを両手で握ってヴォルクスを牽制する体勢をとった美菓子は声を上げて返事をした。
「わかったわ! さっさと行って!」
「みんなには指一本触れさせないんだからね!! 氷雨お姉様とオモチちゃんをお願いします!」
「よし、余がキッチリ逃がしてやる! 竜王・長嶺よ、我が配下も頼んだぞ!」
その言葉をもってロキスは竜闘衣を解除し、ザードにアッパレ、インラバ、ミューロ、そしてピューロの亡骸を。
同時に己も飛竜へと変化し、雲月、前戯、そして負傷したオモチと氷雨を乗せた。
最後に聖竜へと変化した長嶺にはオルドラン、バルザーク、バレンコフ、そしてアシガルパーティーの戦いを無言で見続けていたラヴチューンらが素早く乗り込み、脱出口目掛けて一心不乱に飛んだ。
「おっと! そう簡単に逃がすものか」
「我が野望の贄にしてくれる!」
ロングサンとヴォルクスは悪党面に磨きをかけた面体で飛竜を追撃しようとしたが、そこは愛姫子と美菓子が死守する。
「黙ってそこで待ってなさい! 隕石・開花!!」
「魔竜王さんもね! ホーリーブリザード! 凝縮!!」
「ひゃ……やはり伝説のスズキとサトウは恐ろしや……」
究極魔法で追撃を食い止め、ついでにジクイルはその巨大な魔力に腰を抜かしたが、何ら手を打たない五明と睨み合うシンガンは疑問を抱いていた。
(やはりヴォルクスの影で暗躍する者がこの本丸に潜んでいるに違いない! ヴォルクスとあのロングサンとかいう四天王と違い、五明だけ妙に落ち着き払っている……)
「愛姫子ぉー! 無事に戻ったら再戦だかんね!」
「氷雨とオモチ様はお任せあれ!」
「ビジョン様にジクイル様の無事を必ず知らせますぞー」
捨て台詞を吐いたのはラヴチューン、雲月、そしてアッパレであり、完全に自由となった愛姫子と美菓子、そしてジクイルは今、残る大敵と真剣勝負に挑むのである。
「フハハハハハ! まぁいい。貴様ら伝説のパーティーと目障りなジクイルを抹殺してくれる!」
「五明! 貴様もさっさとその老人を始末せい! 俺は伝説のスズキを倒し、ヴォルクス様の世界征服の献上品とする」
さすがと言うべきか、愛姫子らが放った究極魔法はヴォルクスとロングサンを何ら傷付けてはいなかった。
だが、もはやそんなことでたじろぐ暇はないとばかりに怒りを発散させたのは、なんといつもはヘタレキャラが売りの美菓子であった。
彼女は愛姫子以上に氷雨を敬愛し、本当の姉のように慕っていたのだ。その怒りは当に沸点を越え、手に持つマジカルキュートボウで先制攻撃を仕掛けた。
それを皮切りに、愛姫子×四天王・ロングサン、そしてシンガン×五明の決戦が開幕することとなる。
一方で無事に脱出した長嶺らはビジョンらと合流すると、一刻の猶予もないとばかりに、タイミングを失うと徐々に上昇しゆく魔元城と宇宙に飲み込まれると判断し、集った各国の勇士らを地上へと撤退する作戦を敢行。
ジクイルの無事の知らせを受けたビジョンはそびえ立つ本丸をゆっくりと見上げると無事の帰還を祈りつつも、スムーズに撤退出来るよう、声を枯らしていくばかりなのであった。
飛竜に跨がり、人々は。
忍者部隊はそれぞれが凧で。
ドワーフと妖精、そして獣人らは浮遊船で。
空の大地、魔元城を離れ行くのであった。
つづく




